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婚約破棄されたので掲示板に愚痴ったら家族が全員いた件【連載版】  作者: あゆと
第一部

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18/23

第9話【裏】「 家族旅行が久しぶりすぎて、全員ちょっと不器用だった件」


 侯爵家。



 深夜。



 父の書斎。



 端末の光だけが、

 静かに部屋を照らしていた。



――


11 スレ主


家族みんなで行けたら楽しそうです


――



 父は、

 しばらく黙っていた。



 それから。



 静かに予定表を開く。



「今週末の会議を後ろへ回せ」



 側近が固まる。



「……中央議会ですよ?」



「娘との予定だ」



「はあ」



「優先順位の話だ」



 側近は、

 それ以上何も言えなかった。



――



 兄の詰所。



 兄は端末を見ていた。



――


11 スレ主


家族みんなで行けたら楽しそうです


――



 沈黙。



 副官が恐る恐る尋ねる。



「団長?」



「休暇を取る」



「えっ」



「温泉へ行く」



 副官が目を瞬かせた。



「本当に行くんですね……」



 兄は真顔だった。



「当たり前だ」



――



 妹の部屋。



 少女は、

 無言で地図を広げていた。



 温泉地候補。



 気温。



 移動距離。



 料理。



 混雑率。



 疲労予測。



 全部表示されている。



「……ここ」



 静かな呟き。



 最も。



 姉が快適に笑えそうな場所を、

 選んでいた。



――



 社交界。



 母は夜会の最中だった。



 だが。



 端末を見た瞬間、

 ふっと笑う。



「まあ」



 貴婦人たちが首を傾げる。



「何か良いことでも?」



「ええ」



 母は優雅に紅茶を置く。



「今週末、

 少し休暇をいただこうと思いまして」



「まあ、珍しい」



「家族旅行ですの」



 その瞬間。



 周囲の空気が、

 少しだけ柔らかくなった。



――



 北の城。



 元魔王は、

 巨大な地図を見ていた。



――


9 名無しの魔王


雪見風呂も良い


――



「雪崩対策をしておけ」



 部下が頭を抱える。



「温泉旅行ですよね?」



「そうだ」



「なぜ軍が動くのです」



 元魔王は真顔だった。



「雪は危ない」



 完全に本気だった。



――



 裏通り。



 掃除屋は、

 旅館の資料を眺めていた。



「ほう」



 黒服が尋ねる。



「候補地ですか」



「ええ」



 掃除屋は、

 ぱらりと紙をめくる。



「静かな場所が良い」



「警備は」



「目立たぬように」



 少し考えてから。



「料理も重要ですねえ」



 黒服が頷いた。



 かなり真剣だった。



――



 翌朝。



 王都は、

 静かに混乱していた。



「街道整備!?」


「温泉街の警備増えてるぞ!」


「高級旅館の予約全部消えた!?」



 役人たちは叫ぶ。



 だが。



 全部、

 正式許可済みだった。



 しかも。



 誰が主導しているのか、

 誰も分からない。



――



 温泉街。



 旅館側は、

 完全に修羅場だった。



「侯爵家が来るぞ!!」


「料理長を起こせ!」


「露天風呂の温度確認!」


「警備導線も再確認しろ!」



 従業員たちが走り回る。



 だが。



 到着したリーナは。



「わあ……」



 ただ、

 素直に景色を楽しんでいた。



――



 露天風呂。



 妹は温度を測り。



 兄は周囲を警戒し。



 父は仕事の連絡を切れずにいて。



 母は呆れながら笑っていた。



「あなたたち。


 少し力を抜きなさいな」



 兄が眉を寄せる。



「だが」



「旅行です」



 母の一言で、

 兄が黙る。



 父も、

 そっと端末を閉じた。



――夜――



 宴会場。



 掃除屋は、

 離れた席で静かに酒を飲んでいた。



 護衛という名目だった。



 黒服が小声で尋ねる。



「近づかなくて良いのですか」



「今日は家族旅行でしょう」



 掃除屋は小さく笑う。



「無粋ですよ」



 その視線の先で。



 リーナが笑っていた。



 兄が鍋を取り分け。



 妹が隣で眠そうにしている。



 父は仕事を隠して、

 母にまた見つかっていた。



「没収です」



「……まだ読んでない」



「駄目です」



 祖父が酒を飲みながら笑う。



「お前ら、

 全然休めとらんな」



 誰も反論できなかった。



――



 食後。



 部屋へ戻る。



 兄は見回りへ行き。



 父はこっそり仕事を再開しようとして、

 また母に止められていた。



 妹は、

 隣でうとうとしている。



 祖母は、

 静かにお茶を淹れていた。



 祖父がぽつりと呟く。



「……まあ、

 前よりはマシか」



 母が小さく笑う。



「ええ」



 少なくとも。



 今日は、

 みんな同じ場所にいた。



 それだけでも、

 大きな進歩だった。



――



 その時。



 窓の外で、

 雨音が鳴り始める。



 兄が空を見る。



「降ってきたな」



 父も窓を見る。



「明日は荒れるかもしれん」



 妹だけが、

 少しだけリーナへ寄った。



 雨で外へ出られなくても。



 姉が退屈しない方法を、

 もう考え始めていた。


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