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婚約破棄されたので掲示板に愚痴ったら家族が全員いた件【連載版】  作者: あゆと
第一部

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12/23

第6話【裏】「散歩中にちょっとしゅんとしてしまったと書き込んだら、特定班が10分で全部終わらせていた件」


 侯爵家。



 深夜。



 妹の部屋だけが、

 まだ明るかった。



 机の上には、

 大量の魔導端末。



 空中には、

 幾重もの魔法陣。



 妹は無言で、

 掲示板を見ていた。



――


1 スレ主


裏山すごく綺麗でした


でも


ちょっと嫌なこと思い出して


少ししゅんってしました


――



 沈黙。



 数秒後。



 妹の指が止まる。



「……しゅん」



 小さな声。



 部屋の温度が、

 少し下がった。



――


8 名無しの魔導師


十分


――



 送信。



 次の瞬間。



 魔法陣が一斉に回転した。



「裏山周辺の記録を展開」



 空中へ、

 映像が浮かび上がる。



 散歩道。



 花壇。



 東屋。



 リーナ。



 そして。



 その周囲にいた生徒たち。



 妹の目が細くなる。



「いた」



 映像停止。



 数名の女子生徒。



 さらに。



 魔力波長。



 通行記録。



 家紋照合。



 交友関係。



 全部が高速で展開される。



――



 コンコン。



 部屋の扉が鳴った。



「まだ起きてる?」



 リーナだった。



 妹の指が止まる。



 魔法陣が一瞬で消えた。



「……ん」



 扉が開く。



 リーナは眠そうな顔で、

 マグカップを持っていた。



「ホットミルク作ったんだけど、

 飲む?」



 妹は黙る。



 数秒。



「……飲む」



 リーナが笑った。



「はい」



 机へカップが置かれる。



 妹はそれを見る。



 じっと見る。



「……ありがと」



「ふふ」



 リーナは部屋を見回した。



「また難しいお勉強?」



「仕事」



「そっかあ。


 無理しすぎちゃだめだよ?」



「……ん」



 リーナは微笑む。



「おやすみ」



「……おやすみ」



 扉が閉まる。



 静寂。



 妹は、

 しばらくカップを見ていた。



 それから。



 両手で包む。



 少しだけ、

 口元が緩んだ。



――



 騎士団詰所。



 兄は机を殴っていた。



「しゅん……!」



 副官が引く。



「団長、

 そこですか?」



「リーナがしゅんとした」



「はい」



「精神的被害だ」



 兄は立ち上がる。



「出る」



「どちらへ?」



「裏山周辺」



「広くないですか!?」



 そこへ。



 端末が震えた。



――


17 名無しの魔導師


特定完了


――



 兄が端末を見る。



 数秒。



「遅い」



「今ので!?」



――



 父の執務室。



 父は静かに資料を見ていた。



――


17 名無しの魔導師


特定完了


――



 その一文だけ。



 だが。



 父には十分だった。



「早いな」



 側近が震える。



「もう終わったのですか」



「終わったのだろう」



 父の端末へ、

 追加資料が届く。



 違法献金。


 架空契約。


 横流し。



 かなり黒い。



「……馬鹿だな」



 父が呟く。



「よりによって、

 リーナの前でやるとは」



「監査局へ?」



「全部だ」



「全部」



「全部だ」



 側近は敬礼した。



――



 王都裏通り。



 掃除屋は、

 葉巻を咥えながら笑っていた。



――


19 名無しの魔導師


あとは任せて


――



「実に良い連携ですねえ」



 黒服が尋ねる。



「いつものことですか」



「ええ」



 掃除屋は灰を落とす。



「お嬢さんが、

 少ししゅんとしただけですから」



 黒服は真顔になった。



「重罪ですね」



「重罪です」



 即答だった。



――



 縁側。



 祖父は静かに茶を飲んでいた。



 祖母が隣へ座る。



「今回は静かですねえ」



「十分動いておる」



 祖父は湯飲みを置く。



「リーナが、

 しゅんとしておった」



「まあ」



「……良くない」



 かなり本気だった。



――翌朝――



 バルディア家。



 屋敷の中は、

 完全に修羅場だった。



「監査局だ!」



「帳簿を提出しろ!」



「違法契約を確認した!」



「騎士団も来ています!」



「なぜ裏社会までいるんだ!?」



 父親が叫ぶ。



 誰も答えない。



 答える必要がないからだ。



――



 学園。



 女子生徒は、

 泣きながら荷物をまとめていた。



「そんな……!


どうして急に……!」



 教師たちは目を逸らす。



 誰も逆らえない。



 相手が悪すぎた。



――



 昼。



 侯爵家。



 妹は端末を見ていた。



――


61 スレ主


なんか今日は静かです


――



 沈黙。



 それから。



 妹は小さく息を吐く。



「……戻った」



 姉の機嫌が。



 少しだけ。



 戻った。



 その事実だけで、

 妹には十分だった。

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