六十九、悪戯妖精
「うっはー、すげぇな」
此処はセイロン王国、王都セイロン。
様々な種族の武器を携えた者達が闊歩する、活気ある街だ。
レンガや石を中心として造られた街並みは美しく、至る場所を流れる水路や橋など、その造りは実に精巧で、工事に携わった者の技術の高さが伺える。
大国の首都と呼ぶに相応しい立派な都市だと、獣車の御者台に乗るカナタは感心したように首を左右に振り、街並みを眺めている。
街を囲むように建てられた外壁の一角にある関所を通り、ウォルトと共にセイロンへ入ったカナタ達を待って居たのは、大きな商店街。
食料や香辛料、衣類や武器、生活には欠かせない様々な魔方陣に至るまで、大概の物はここで揃うだろう。
バロンの商店街も活気ある素晴らしい物ではあったが、ここは最も数の多い種族である人族が営む大国、セイロン。
妖精の営む国、森の奥深くの王国バロンとは比較にならぬほど栄えている、というのがカナタが抱いた率直な感想であった。
時刻は昼過ぎ。
初めて訪れたセイロン観光を楽しみたい所ではあるが、商店街を突っ切ったカナタ達はウォルトと共にまず冒険者ギルドへとやって来た。
仲間に置き去りにされたウォルトを送り届けるだけでは無く、カナタ達の目的地もセイロンの冒険者ギルドであったからだ。
石造りの大きな二階建てのギルド前に獣車を止めると、少し気まずそうな表情を浮かべるウォルトが気にかかるカナタであったが、自分を置き去りにした冒険者達と鉢合わせた時の事でも考えているのだろうと、そう解釈し気付かぬフリをした。
シロに獣車の番を任せると、全員でギルドの扉を押し開ける。
扉を開ける際に出る蝶番の擦れる音が霞む程度には賑わいを見せるギルド内。
まだ昼過ぎではあるが、多くの冒険者達が集い、依頼の貼り出された掲示板を見たり、仲間と雑談したりしている。
「す、すみません」
ギルド内を突っ切り、奥にある受け付けへ歩み寄ると、何故か申し訳なさそうに受け付けの女性に声をかけるウォルト。
受け付けの人族の女性は一瞬不思議そうにウォルトを見ると、首からぶら下がった木のプレートを見て直ぐに笑顔で答える。
「はい、どうされましたか?」
「この依頼の報酬を受け取りに来たんですが・・・」
ウォルトは胸ポケットから、ギルドで依頼を受けた際に渡される依頼書を取り出すと、受け付けの女性へと手渡す。
それを見た女性は書類に書かれた依頼ナンバーを見て、手持ちの書類と見合わせた後、再び不思議そうにウォルトを見る。
「これはーーー、C級パーティーのキートンズさんと共に受けられた依頼ですね。
それでは、依頼にあったクザンの身の提出をお願いしたいのですがーーー」
見るからにそれらしい荷物を持っていないウォルトを不審がる受け付けの女性。
やはりーーといった表情を浮かべ、分かりやすくオロオロとするウォルトの隣で、見ていられなくなったカナタが助け舟を出す。
「こいつは、その何とかって木の実を手に入れた後、キートンズって連中に置き去りにされて魔獣に襲われてたんで、俺たちが此処まで送って来たんだ。
この感じだと奴等はまだ到着してねぇのか?」
「はは・・・、シロちゃん、凄い速さでしたから・・・」
それで、ギルドに到着した時に微妙な表情を浮かべていたのかと合点のいくカナタ。
確かにシロの速さであれば余程のタイムラグでも無い限り、C級冒険者の長距離の移動速度など相手にもならないだろう。
ウォルトを置き去りにした連中は、既に報酬を受け取り、腹を満たし、暖かい布団で眠っているのだろうと勝手に想像していたため、まさか自分達が先に到着するなどとは考えてもいなかったのだ。
カナタの話を聞いた受け付けの女性は、少し怒ったような、それでいてウォルトを労わるような絶妙な表情で答える。
「そうでしたか・・、何て酷いことを!
一時的とは言え、パーティーを組んだ相手を意図的に危険な状況に追いやるなんて、許される行為ではありません。
この事は、私エリナが責任を持ってギルドに報告し、本人達に聞き取りを行いたいと思います。
本当に申し訳ありませんでした」
そう言って深々と頭を下げる受け付けの女性、エリナ。
それを見たウォルトは再びオロオロとして申し訳無さそうに言う。
「あ、いえ、ぼっ僕はこうして無事に戻って来られたので大丈夫です。
報酬はキートンズさんが戻った後で受け取りに来ます!
そっ、それよりこちらのアオイさん達も此処に用事があるみたいなので聞いてあげてください」
「ですが、このまま何のお咎めが無ければ、またウォルトさんの様な被害に遭う方が出るかもしれません。
キートンズさんに関しては他の冒険者達からもいくつか苦情が上がっていますので、ウォルトさんが報復に遭うようなことには決してなりません。
安心してくださいね。
それでーーー、其方の方々の御用というのは?」
受け付けの女性エリナはウォルトを安心させるように笑うと、カナタ達を見る。
黒髮の青年、色白の整った顔の少年、角の生えた無骨な大男、猫人族の美少女二人と、品のある青年が二人。
計七名の何とも繋がりの見えない集団だ。
大概、共に行動する者達と言うのは、何処か似通った部分があるものだが、カナタ達は格好も、性別も歳も、纏う雰囲気すらも、其々が全く違う。
長年、この大都市セイロンでギルドの受け付けをして来たエリナにとっても、ここまで繋がりの見えない集団というのは珍しいものであった。
「ああーーっと、俺たちは冒険者なんだが、幾つか用がある。
まず、俺たちは少しの間バロンで冒険者として活動してたんだけど、今は街もギルドも再建中で、依頼達成の報酬がお預けになってるんだよ。
報酬の方はバロンで貰えるみたいだからいいとして、依頼達成のポイントがそれなりに貯まってる筈だから、ランクに変動があるんじゃないかと思って来たんだ」
「バロンで活動を?では、あの大事件の後に発令された食料調達などの緊急クエストを・・・。
仮設のギルドから発令された緊急クエストの拘束力は弱く、指示に従わず逃げ出す冒険者が大勢居たと聞いています。
それを、あなた方はやり遂げられたのですね。
大変、お疲れ様でした。
ーーーなるほど、あなた方はそこでお知り合いになられたのですね?」
納得したように言うエリナにカナタは頷く。
深く詮索されてボロが出ては困るし、何よりバロンで出会ったことは嘘ではないのだから。
「知り合ったのはーーー、まあそうだな。俺たちはバロンで知り合ったんだ。
それで?貯まってるポイントでランクは上がるのかな?」
「これは失礼しました。それではプレートの確認を致しますので提出をお願いします」
「ああ、見てもらいたいのはとりあえず俺たちだけだ。
それと、こっちの二人は今から冒険者になるから、登録の手続きを頼む」
プレートを提出するのは、カナタとグラン。
街が壊滅し、物資の無い状態では冒険者としての登録が出来ず、ミアとアステリオスに関しては未だに冒険者にすらなれていないのだ。
「かしこまりました。ではまず、お二人のプレートをお調べしますので、その間にこちらの記入をお願い致します。
代筆も出来ますが、どうされますか?」
「アオイさん、書類の記入はボクが」
「ん?いいのか?ウォルト」
「はい、書くのは得意なので任せて下さい。
それに助けて貰ったんですから少しくらいは何かさせてもらわないと!」
「そっか、サンキュ!」
「それではこれを。
直ぐに確認して参りますので少々お待ち下さい」
ウォルトに登録用の書類二枚を手渡すと、エリナは奥へと消えて行く。
すると登録用紙を広げたウォルトは、腰からぶら下げている細長い皮のポーチから一本のペンを取り出すと、書類と向き合った。
ウォルトが取り出したのは所謂、羽根ペンと呼ばれるもので、魔獣か何かの羽を使って造られたペンのようだ。
白い羽の硬い部分は何かの木材で補強されたようになっており、ペン先には金色の金具が取り付けられている。
遠目に見れば、羽根付きの魔法の杖の様にも見えるその羽根ペンの存在感にカナタが見入っていると、ニケが感心した様子を見せた。
「ふぁ・・・、珍しい武器なのです」
「武器?あの羽根ペンって武器なのか?」
「ですです。使い方はニケの杖と似てると言えば似てるですが、ちょっと癖のある武器なので、使う者は少ないのです。
武器としてでなければ、魔方陣の製作者などがあれをよく使うです。
見所のないクソガキかと思ったですが、よく見れば中々、立派な魔筆なのです。
手入れも確りして、大切に使ってるのです」
ラミスが居れば長時間の説教が確定しそうな言葉にレオが軽く咳払いすると、ウォルトは目を丸くしてニケを見る。
「魔筆を知ってるなんて凄いです!
へへ、嬉しいなぁ。
これは僕の宝物なんです。お世話になっている人から貰った物で、ニケさんが言うように武器としてだけでは無く、魔方陣の製作にも使っています」
「魔方陣の製作に?ウォルトは冒険者だけじゃなく、魔方陣も作ったりしてんのか?」
「はい、そうなんです。
僕は孤児で、幼い頃からずっと育ててくれている恩人の為になればと、魔方陣を製作しているんです。
恩人ーーー、リリィさんは、自分の生活さえ儘ならぬ時から、僕を育て、教育し、お金を貯めてこの魔筆を買い与えてくれました。
だから僕はいつか魔方陣製作者として成功して、リリィさんに恩返ししたいと思っているんです」
「へえぇ、立派な人なんだなぁ。そりゃ、頑張んねぇとな!
ーーーん?だけどそれなら何でウォルトは冒険者なんてやってるんだ?」
「確かにそうにゃ。魔方陣製作者として大成しようと思えば並々ならぬ努力が必要なのにゃ。Fランク冒険者として燻ってる場合じゃ無いのにゃ」
「ですです。こんな所でボサっとしてないで、早く魔方陣の一つでも書きやがれなのです」
「ネオ、ニケ、失礼だぞ。ウォルトにはウォルトの事情があるのだろう」
「あはは、僕は大丈夫です。
冒険者をしているのには二つの理由があります。第一に、生活費を稼ぐためです。恥ずかしながら魔方陣だけでは食べていけませんので。
もう一つは・・・、っとそれより、早く代筆を開始しなければ、エリナさんが戻って来ちゃいますね。
冒険者ギルドに登録するのはミアさん、アステリオスさんのお二人でしたね。
それでは其々、種族と戦闘スタイルをお願いします」
「妖精猫族、槍と魔法」
「うんミアちゃん、違うよ?
ウォルト、ミアは猫人族だ。戦闘スタイルは魔槍士」
「俺は、不禅夜叉ーーー、
鬼族だ。剣を使う」
「アステリオスさんは鬼族で、剣士っと・・。
それで、お二人の出身地は?」
「死の穴」
「ウォルト、ミアの出身地はバロン王国だ」
「俺はバルデ王国の小さな里の出身だ」
ミアはどうやら嘘を付けない性格らしく、カナタは冷や汗をかきながらフォローに回る。
チラリとレオを見ると、申し訳無さそうな表情でカナタを見ていた。
「それではーーーー」
ウォルトが次の設問へ向かおうとした時、エリナが戻ってくる。
カナタはミアが暴走せぬようレオに視線を飛ばすと、レオも小さく頷いた。
「お待たせしました。
まずアオイさんに、グランさんは、ムシュガという毒蛇の牙を入手するクエストを完遂し、前回Eランクへの昇級が可能となっており、必要な代金も既に支払われています。
そして、緊急クエストでは、かなり多くの食料調達のクエストをこなしているようで、それらを合算するとCランク、銅プレートへのランクアップが可能となっています。
前回、Eランクのプレートは発行されておりませんので、宜しければ代金をそのままCランクプレートの作成に当てさせて頂きますが、宜しいですか?」
「ああ、そういや代金は先に支払ってたんだっけな。ラッキー!
よし、それで頼む」
「えー、あんだけ食いモン運んだのにまだCランクかよ!
冒険者って案外大変なんだな」
「仕方ねぇよ。あの緊急クエストは、あくまでも食料の調達と運搬。
別に強い魔物を倒す必要なんて無かったしな。
むしろ食料を運んでただけでCランクになれたんだからラッキーだと思おうぜ!
んで、これからは強え魔物を倒しまくって、一気に駆け登ってやりゃいい」
「そうか・・・、そうだよな。
よし、分かったぞ!そんなら、飛竜みてぇなのぶっ殺しまくろう!
今から依頼を探そうぜ!」
「待て待て、とりあえず今日は泊まる場所の確保が先だ。確か獣車を停められるタイプの宿屋だと少し高くなんだろ?
まだ金はあるが、魔物から剥いだ大量の素材はアトランティスの為に置いて来ちまったし、念の為出来るだけ安い宿を探しておきたい。
というかどうせ俺達の銅プレートと、ミアとアスっちのプレートが完成しねぇと依頼も受けらんねぇしな」
「ぐっ、ぐぅぬぬぬぬぅ」
「ははっ、気持ちは分かるがここは我慢だ。
それより、これでミアとアスっちも晴れて冒険者になれるワケだし、これからが本題ーーー。
冒険者としてランクを上げる為にはパーティーを組む必要がある。
レオ達の三毛猫団に入りゃいいんだろうが、話し合った通り、競い合うって意味も含めて、別々のパーティーにすべきだと俺も思う。
そんで、アスっちを含めた俺達三人で、パーティーを組むって話だが、パーティーの名前はどうすんだ?
というか、レオ達のパーティーにもミアが入る訳だが、三毛猫団って名前はどうする?」
「それについては一応、各々が今日まで名前を考えておりました」
「うむ、それでどうなったんだ?」
「まず私が考えたのは、白猫騎士団です」
「僕は表記だけ変えて白猫と三獣士だにゃ」
「ニケはミア様と三匹の子猫なのです」
「ほう、、それで?」
「はい、私とネオの案を合わせ、白猫と三獣士となりました。
ミア様もそれで結構とのことでしたので。
」
「白猫と三獣士か・・・、いい名前だな!
そしたら俺達も負けねぇくらいカッコいい名前にしねぇとな。
グランとアスっちは何か希望とかあったりする?」
「いや、ねぇ!」
「俺も無いな」
「まあ、そんなことだろうとは思ったよ。
一応、考えといたんだが、それでいいか?」
「いいぞ!」
「俺もだ」
「聞く前から認めるとは潔しだな。
よし、そしたら今日ここで結成する俺達三人のパーティーの名を発表する!
その名もーーー、
巨森の悪戯妖精だ」




