六十五、妖精と精霊と死霊
光の泉を後にしたカナタ達はエンシェントユニコーンのシロと、道中で得た大量の食料を持ってアトランティスへと帰還した。
到着したのは夕暮れ時、多くの食料を皆に分け与えた後、カナタ達は仮の住まいへと戻っていた。
「お主等ならユニコーンくらいは見つけてくると踏んでおったが、まさかエンシェントユニコーンとはのぅ。
アレなら言うことはあるまい」
カグラは、カナタが急遽増築した馬小屋の前で満足気な表情。
何故かエンシェントユニコーンを知っている様子のカグラをみたカナタは、早速質問する。
「そう言えばユニコーンってのは大きさで強さが決まるって聞いたんだけどさ、なんでエンシェントユニコーンは普通のユニコーンや一角狼より小さくなっちまうんだ?
アスっちも強くなって昔より縮んじまったんだけど、カグラは何か知ってるのかな?」
「ふむ、それは間違いなく“精霊化”が進んでおるからじゃの」
「精霊化?」
「そうじゃ。場合によっては妖精化とも言うがの。
小さくなる現象じゃが、聖獣となったミアにも起こったのではないか?」
「ーーー確かに、形が変わり過ぎてて考えてなかったが、ミアはデカい魔獣から今の姿になったんだ。
確かに身体が縮んでるな。
それが精霊化なのか?」
「うむ、精霊化が起こったからと言って、必ずしも縮む訳ではないがのう。
要は肉体の魔素化が進むのじゃ」
「身体が魔素に・・・」
カナタが自分の手を見てめて言うと、カグラはそのまま続ける。
「生物というものは大なり小なり、誰しもがマナを保有しておる。
それは即ち、誰しもが身体を構成する要素として魔素を持っておるということなのじゃ。
竜も鬼も、アンデッドも植物も、人もゴブリンもスライムも虫も、この世に生きとし生ける者全てがな。
この魔素の割合を増やすことを“精霊化”と呼び、肉体を構築する全ての要素が魔素となった者の事を“精霊”又は“神”と、そう呼ぶのじゃ。
もっとも、精霊となった者が依り代無しでこの世に顕現することは不可能じゃから、見る事も会う事もないがの」
「精霊!?
精霊ってあの、魔法使いに加護を与えてる精霊か!?」
「精霊にも色々と種類があって、何も魔法使いに加護を与える者だけが精霊ではないが、一先ずはその認識で間違いない。
さっきも言うたように、肉体には誰もが魔素を保有しておるのじゃが、その割合がニ割を超えるような者のことを一般的には“妖精族”と呼び、多くの場合、強力な魔法を扱うことが出来る。
つまり、肉体を構成する魔素の量がニ割以下の者が精霊化することを妖精化と言うわけじゃな。
ここまでは良いかの?」
「・・・あ、ああ」
「よろしい。
では、漸くここからお主の問いに答えられる訳じゃがーーー。
精霊化にも種類があっての。
身体の魔素の量を増やす訳ではなく、“割合”を増やすのが精霊化。
よってその方法は大きく分けると二つとなる。
ミアやアス坊、そしてエンシェントユニコーンのように、不必要な肉体を捨てることで魔素の割合を結果的に増やすか、単純に魔素の量だけを増やすか。
前者の場合、実際には二つ同時に行われる事が多く、後者であれば身体が巨大化することもあるがの。
何れにせよ、精霊化が進めば進む程に生物は強くなり、精霊化の特徴が顕著に現れるようになる。
そんな所じゃの。
ではそろそろ皆の元へーーー」
「待ってくれ、聞きたいことが二つある。
魔素の割合を増やす方法についてだが、身体を縮めて魔素の割合を増やすって理屈だと、逆に身体が大きくなれば魔素の割合が減る事になる。
つまり、大人になって成長したり身体を鍛えたりすれば魔素の割合は減って、弱くなるってことにならないか?」
「身体が大きくなった所で魔素の割合は変わらん。
何故なら、増えた肉体と同じ割合で魔素も増えるからじゃ。
肉体が保有する魔素の量は個人によって違うが、魔素はその肉体に含まれる成分の一つなのじゃから、身体が大きくなれば当然それに伴って魔素の保有量も増えることになろう。
つまり、身体が大きくなっても魔素の“割合”は変わらんが肉体に含まれる魔素の“総量“は増える寸法じゃ。
ということは、当然身体が大きくなればその個体は強くなったと言える」
「なるほど・・・、良くわかった。
なら二つ目だが、精霊化の特徴ってのはなんだ?」
「ふむ・・・、分からぬか?
まぁ良い、教えてやろう。
さっきも言うたが、肉体を構成する魔素の割合を増やすのが精霊化。
精霊化が進む程、肉が魔素に変わる。
つまり、身体が軽くなる。
羽も無いのに浮遊出来る者が居るのは、特殊な能力でなければ大抵そういう理屈じゃ」
「つまり生物の強さは見た目の大きさでは無く、大きさに対しての体重でも測ることが出来る。
ロキの奴が異様に軽かったのはそういう理屈か・・・」
「ロキなる者が軽いのはその通りじゃろうが、重さだけで強さを測れるかと言われれば、答えは否じゃ。
例えば竜人族の子供などは見た目からは想像出来ぬほど重く、そして強い。
グラン坊のようにな。
それと精霊化が進み、身体が軽い者にはもう一つ特徴があっての。
精霊化が進んだ者は物理的な攻撃に強くなる」
「物理的な攻撃にーーー、確かにロキもそうだった!
どういうことだ?」
「どうもこうもカナタ、お主は周囲を漂う魔素を掴むことが出来るか?
身体の魔素化が進めば物理的な肉体が減る。
つまり物理攻撃が効き難くなる。
じゃからもし精霊化の進んだ者と戦うのであれば物理的な攻撃よりも、魔法を使用すべき、ということじゃの。
さぁ、そろそろ良いかの?
妾は腹が減った。
“圧力鍋”なる魔法具で煮込んだ吸物はもう出来ておるのか?」
「ーーーーあ、ああ。
直ぐに用意するよ」
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エンシェントユニコーンのシロを連れ帰ってから二週間が経過していた。
サイクロプスのギュスターブ率いる建築部隊の活躍は凄まじく、大きな屋敷の大まかな外観は既に完成しており、カナタ達の使う大型獣車も完成間近となっている。
現在の時刻は夜。
共に旅をするということもあり、ミアやレオ達三名ーーー、カナタによって三獣士と名付けられたミア御付きの騎士、そして何故かカグラもカナタの家に住み寝食を共にしている。
カナタとしては知識人で美人のカグラが居てくれるのならばと、新たに部屋を増築する歓迎ぶりだ。
「遂に出発の日が近づいて来たな。楽しみだが、アトランティスでやり残したことが多過ぎる」
バロンでは元々、周囲に広がる森で食料の調達を行い生活していたこともあり、既に住民達が其れなりに安定して食料を手に入れられる環境が整いつつある。
そんな中、久々の休暇を楽しむカナタ達の中から、ゼノスからの許可を取ったグランとアステリオス、そしてカナタが教えたジャンケンにより勝ったネオは現在、死の穴に潜っている最中だ。
一方、アトランティスに残ったカナタはと言うと、毎日朝から夕暮れ時まで屋敷建築や獣車の製造見学、そしてトトの経営する白猫商会の本店に入り浸っていた。
本店とは言えカナタの急造した掘っ建て小屋ではあるのだが、トトは再び此処から始めるのだと意気込んでいる。
だが白猫商会には元より魔物の素材を加工する技術を持った者も大勢在籍しているため、カナタがアトランティスに運んだ食料から出た、皮や骨や牙、爪などの素材を使って、彼等が武器や防具を製造し、既に多くの武具が店頭に並んでいる。
同じく多く居る従業員達は、猫耳ソフィーの居る宿屋で働いたり、狭い店の前に並んで武具の店頭販売を行なったり、物資の調達の為に冒険者を連れて国外へ旅立ったり、既に白猫商会の運営は本格始動していた。
カナタが白猫商会の本店に入り浸っている理由は、新たな商品のプレゼンと開発のため。
何を隠そうカナタは白猫商会の営業マンという名を背負い旅に出ることになっているのだから。
現在のアトランティスで正式に冒険者ランクを上げることは事実上不可能。
ならばもう一つの顔となる、営業マンとしての知識を増やすべくトトの元へ通い詰めていたのだ。
「折角の休暇だと言うのに、物好きな奴じゃのぅ。
それより、新商品の開発とやらもその辺にしておかねば、今夜はカナタとミア、それにニケの番じゃぞ?」
「あ、そう言えばそうだった!!
完全に忘れてたぜ。
ーーーあぁ、予定が狂っちまったぁ。
まあ仕方ねえか。
アトランティスが大変な時に俺だけただ気ままに生活する訳にはいかねぇしな。
んじゃ、すぐ出発するか!
悪いがニケ、馬小屋からシロを連れて来てくれるか?」
「はいなのです!」
カナタが用意した夕飯を早々に食べ終えたニケは、未だに食事中のカグラとレオに挨拶を済ませ外へ出ると、エンシェントユニコーンのシロを引き連れ戻って来る。
「ミア様、カナタさん、行くのです!」
「だな!」
「ん」
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今夜は満月。
立派な角の生えた少し小さな狼馬に引かれる小さな獣車。
小回りの利く二人乗り、立ち乗り専用の獣車に荷台は無く、あるのは御者台のみ。
そこへ乗り込んだカナタが直接手綱を握り、エンシェントユニコーンのシロを操作する。
とはいえ、シロはカナタの握る手綱の事など意に介さず、此処数日の間通い詰めている現場へ直行しているに過ぎないのだが。
「ったく、このエロユニコーンが」
シロへ聞こえないよう呟くカナタ。
ーーー輓獣として獣車は引くが、男を背中に乗せることは絶対にしない。
それがシロの拘りなのだ。
本来、カナタと体の小さなミア、ニケであれば獣車などに乗らずとも、シロの背中に乗って移動すれば良い。
にも関わらず、こうしてカナタだけが獣車に乗り込んでいるのは、どうしてもシロが背中に乗せてくれないから。
シロは呟くカナタを横目で見ると、美しい毛並みの長く白い尾で、軽くカナタの顔を引っ叩く。
「ってぇな、このエロコーン!!
ーーっ痛い!!ーーごめっ!!もう言わねっーー!!」
完全に舐められるカナタではあるが、こうしてひ弱なカナタが怪我しない程度に手加減する知能や理性は、確かにシロにも備わっているようだ。
「そろそろ着くのです。
ニケから離れないで下さいなのです!」
「おう!死んでも離れねえ。
今日もよろしくな!
ミアは当然だが、シロも頼りにしてるぜ!」
さっきまでの怒りを抑えて語りかけるカナタを横目に見るシロは特に何の反応も見せる事なく、早くコレを外せと言わんばかりに、体に取り付けられたハーネスを見る。
シロの要望に沿い新調した馬具ならぬ獣具を壊されては堪らぬと、カナタがシロの体に取り付けたハーネスを急いで取り外すと、シロは水を払う犬のように体を震わせ、現れた標的へ向けて飛び掛った。
「相変わらず酷い臭いだな此処は・・・」
カナタ達がやって来たのは、バロン王国、王都バロン跡。
満月に照らされる半壊のバロン城の目前だ。
レオル王によって生み出された無数の魔獣の死体はアンデッドとして蘇り、昼間の陽射しを避けるようにしてバロン城及び周囲の深い森へ逃げ込んだ。
ここバロン跡は死霊の街と成り果て、バロン城に於いては無数の強力なアンデッドが彷徨く新たなる迷宮のような状態となっている。
夜になれば陽射しを避けていたアンデッド族達が街の外に這い出て来る為こうして日替わりにて見回りを行なっているのだが、そのアンデッド達はあのロキによって操られていた死の穴下層や最下層レベルの者達。
そしてその中には、ロキによって直々に強化されたあの多頭のヒュドラに並ぶような強力無比な魔物も確認されており、それが普通には死なぬアンデッドとして蘇っているのだから並みの者では太刀打ちすることは出来ぬどころか、六獣騎士であるレオ達ですら、単独でこのゴーストタウンに立ち入ることは禁じられている。
このような状況でグランやアステリオス、ネオが迷宮へ潜っているのだから、その皺寄せは当然地上に回って来ており、カグラ、レオ、ニケ、カナタ、ミア、ゼノス、ロウレンの七名の中から三名ずつが交代で見回り及びアンデッド駆除に当っている現状である。
幸いな事に今夜はアンデッド族の大敵となる光属性の魔法を扱うミアとニケ、そして邪を祓うと言われる強力な角を持つシロに、超純度の天然輝晶を胸から下げるカナタの揃い踏み。
これより夜の死霊退治が始まるーーーー。




