六十四、ユニコーン
「黒兎?それがさっきの女の子の正体なのは分かったが、何をそんなに驚いてんだよ?」
黒い兎耳の少女が去った後カナタがユニコーンが現れた経緯を説明しようとした時、少女の姿を見ていたアステリオスによってその情報が齎された。
黒兎ーーー、そう聞いたニケは表情を変えて驚き、カナタ、グラン、ミアの三名は何のことか分からず、ニケを見る。
「黒兎と言うのは、会談にも出席していた白兎族から稀に産まれる忌み子のことで、とっても危険な力を持ってると言われてるのです!」
「危険な力?
確かにミアの感じからしても只者じゃなさそうだったが、何がそんなに危険なんだよ」
「分からないのです。
だけど、ニケはこんな風に聞いてるです。
ーーーー黒兎を見た者は死ぬ。
です!
だからどんな力を持ってるかなんて誰にも分かる訳ないのです!」
「だけど俺やミアは生きてるぞ?
まさかーーー、呪いか何か掛けられて時間差で死ぬとかないよな!?」
「大丈夫。
何もされてない」
「ほ、本当か?
ミアが言うなら信じるが・・・。
しかし、あんな兎耳美少女がそんな危険人物だとはなぁ・・・。
とりあえず全員無事で良かったぜ。
それでだが、アイツはどうすんだ?
聞いた所によると、ユニコーンの方から黒兎の女の子に突っかかったらしいけど」
「黒兎にです?
確かにユニコーンは凶暴だと聞いてるですけど、よりにもよって黒兎なんかに絡むなんて馬鹿なのです。
角の事は残念だけど自業自得なのです」
「黒兎ってより、黒兎が乗ってた鹿にやられたんだけどな。
今思えば鹿に負けるユニコーンって何だよ。
つかその感じだと、一度折れた角は元に戻んない感じか?
んだよ、角がねぇならただのデカい馬じゃねぇか。その上弱えんじゃ話になんねぇ。
ーーーーんじゃ、馬刺しだな」
「ユニコーンは角を失うとマナを補給出来なくなって、衰弱死しちゃうです」
「角の折れたユニコーンは死ぬ?
・・・マジかよ」
「確か師匠がそんなこと言ってたのです。
それと、あのユニコーンは弱くないのです。
本当にその鹿に負けたですか?です」
「ーーーだよな?」
実際の所カナタは、少女に目を奪われている隙にユニコーンが負けていたため、それが鹿によるものだと断言することが出来ず、確認するようにミアを見る。
「ん、そう」
「ミア様が言うのなら間違いないのです・・・。
あんなに大きなユニコーンに勝つ鹿・・・、そんなの居るとしたら一つしかないのです」
それにはアステリオスも心当たりがあったのか、半信半疑のままその名を口にする。
「まさか、死鹿・・・か?」
「シシカ・・・?
確かにあの子も鹿の事をそう呼んでた・・!
何なんだ、そのシシカってのは!?」
「やっぱりそうなのです・・・。
死鹿と言うのは、大昔にいたとされる伝説の生き物の名前なのです。
生物の魂を喰らい生きる霊獣。
殺す方法は無く、死鹿が現れれば国が滅びる。
そんな言い伝えのある生物なのです」
「さっきのアレが、国を滅ぼす鹿・・・?マジかよ」
「もし本当にあの死鹿だとするなら、それを従えるその黒兎は間違いなく魔王級なのです」
あの可憐な少女が魔王級ーーー。
もしかすると、自分は先ほど死地に立っていたのかもしれない。
それを理解していたからこそ、ミアはあれ程の警戒を見せたのだろうか?
ロキやレオル王といった、グランですら到底敵わぬ存在を知ったカナタは、今になって不用意に少女へ声を掛けた自分の愚かさに気が付いていた。
何かが違えば、自分は、ミアは、グラン達は今この場に立っていないかもしれない。
そんな恐ろしさが込み上げていた。
そんな時、珍しく黙っていたグランがユニコーンを見て口を開いた。
「んで、そんな居なくなった鹿の話より、アイツはどうすんだよ?
このままじゃ死んじゃうんだろ?」
光の泉に体を半分浸け、力無く四肢を折るユニコーンは、自身の傷のことなど気にする様子もなく未だに黒兎と死鹿の消えた方向をジッと見ている。
その折れた角を見たニケは首を横に振って答えた。
「ダメなのです。
光の泉は、妖精の大森林でも特に魔素の濃い場所なのです。
此処から移動させてもユニコーンの死期を早めるだけなのです。
誰かさんみたいな再生能力でもなければ助かりっこないのです」
ニケはそう言って横目でグランを見る。
するとグランは、泉に広がって行くユニコーンの血へ自身の血を混ぜることでそれを操作し、中空へ浮かべた血液の塊を己の中に戻した所で答えた。
「無理だな。
アイツに吸血鬼の力は使えねぇ」
「強化されたとは言っても所詮は血族之王なのです。
やっぱりこのユニコーンは諦めるしか無いのです。
折角大きな個体なのに残念なのです」
「待て、誰も無理なんて言ってねぇだろうが!
オレは吸血鬼の力を使うのは無理って言ったんだよ」
「お、おいグラン、それってつまりーーー」
「ああ、ユニコーンにピッタリの種がある。
後はあいつがそれを受け入れる器を持ってるかどうかだな。
ーーーやるか?」
*********
「ユニコーンの強さは大きさで決まる・・・じゃなかったのか?」
グランにより種を植え付けられたユニコーン。
アフリカ象を思わせるほどの巨体は今や見る影もなく縮んでしまっていた。
その大きさは通常の馬と同程度。
それでも無事に折れていた角は戻り、一命を取り留めたユニコーンを泉から上げたカナタ達は焚き火に当たりつつその様子を見守っていた。
「そのはず・・・なのです。
やっぱりグランは特級魔法を使いこなせてない半人前なのです」
「あのな・・・」
「一時はどんなバケモンが誕生すんのかとおもってヒヤヒヤしたが、すっかり可愛くなっちまって・・・。
此奴にちゃんと輓獣が勤まんのか?」
「大丈夫」
「確かにな。体が縮んだ途端、発するマナの質が変わった。
このユニコーンは強い」
「今はエンシェントユニコーンだけどな」
「エンシェント・・・確かユニコーンに使った種は一角狼ーーー、鬼狼とも呼ばれる古狼だったな。
ユニコーンの角が戻って、体の形も少し狼っぽく・・・ってより狼馬っぽくなってるし、やっぱちゃんと融合出来てるんだよな?
ならなんで縮むんだ。
一角狼ってのは小せえ魔獣なのか?」
「いや、オレが戦った奴はさっきまでのユニコーンくれぇデカかったぞ」
「そういえばアスティーも前より小さくなったですし、グランが血を吸うと小さくなるですか?です。
そうやってみんなの種を集めて自分だけの物にして世界征服を狙う気ですか!?です!」
「だから何でそうなんだよ!
オレはロキじゃねぇんだ。
種を吸っても相手の力が無くなることはねぇし、ユニコーンに使った一角狼の種だってまだちゃんとオレの中にある。
それに他の奴を強くしてどうやって世界征服すんだよ!
ーーーけどアスティーが縮んだのは確かに何か関係あんのかもな」
「へえぇぇ、ロキの力は一つの能力の使い回しだったが、グランのは違うのか。
DNAの情報をコピー出来る力・・・こりゃ使えるかも知れねぇな・・・・。
まあアスっち達が縮んだ件に関しては誰も分からねぇみてぇだし、帰ってカグラにでも聞いてみようぜ」
大抵の場合、カナタに分からないことはニケやグラン、アステリオスが知っているものだが、この疑問に関しては答えが出ることは無く、一旦保留することとなった。
「で、このエンシェントユニコーンはどうする?起きるまで待つか、このままアトランティスに連れ帰るか」
「起きるまで待った方がいいだろうな。
もし手のつけられねぇ暴れ馬だった場合、アトランティスじゃ戦い辛えだろうし」
「そんじゃ、交代で見張ろうぜ!
オレはさっきちょっと寝たし、動きたくなったから起きてるよ」
「同意見だ。
俺とグランが見張りをする。
カナタ達は寝ていればいい」
「そっか・・・、確かにユニコーンが起きて暴れ出した時、俺が起きてても何も出来ねぇしな。
そんじゃ最初はグランとアスっちに頼むわ!
後で交代な!」
こうしてカナタに続き、ミアとニケもテント風の寝ぐらへと入って行ったーーー。
「うっし、そんじゃアスティー、やるか?」
「ああ。昼間の魔物だけでは物足りないと思ってた所だ」
*********
射し込む朝日、小鳥の囀り。
そして時折聞こえる巨大な破壊音。
カナタは強烈なその音により、穴倉にて崖崩れに巻き込まれる夢を見て汗だくで目覚めた。
「うぉああああああ!!!
はっ!ーーーーーーーーーへっ?」
その隣には、カナタをジッと見るミアの姿と、涎を垂らし眠るニケ、そして汚れた服で横になり鼾をかくグランとアステリオスの姿があった。
「カナタ、叫んでた」
「ん?あ、ああ・・・、ちょっと夢を見てな。
それより、何で全員テントの中で寝てるんだ!?
エンシェントユニコーンはどうなった!?」
交代で見張りをする約束をして眠った筈なのに、全員がテントの中で眠っている。
前例から考えれば、かなり前にエンシェントユニコーンは目を覚ましているはずーーー。
そう考えていると、再び外で強烈な衝撃音と魔獣らしき生物の雄叫びが聞こえてくる。
カナタは即座に飛び上がると、テントから顔を出して外を見る。
すると其処には信じ難い光景が広がっていたーーー。
テントを守るようにして立つエンシェントユニコーンと、光の泉に浮かぶ魔物の死体の数々。
エンシェントユニコーンの持つ狼を思わせる蒼白の長い体毛、馬を思わせる更に長い鬣、鉄のような質感の鋭い爪と合体した蹄、そして二本の牙と長く真っ直ぐに伸びる捻れた角。
それらは返り血に塗れて赤く染まっており、何よりカナタを驚かせたのは、エンシェントユニコーンが身に付けている、ある物だった。
「・・・・・魔物ホイホイ?」
はち切れんばかりに伸びた魔物ホイホイを纏うエンシェントユニコーン。
道理で魔物が集まっている訳だと納得しかけたカナタは、ミアを見る。
「あれ、ミアが着せたのか?」
「ん、そう」
「なんで?」
「修行」
「・・・そうか」
「ん」
********
「まさかミアがユニコーンと話せるとはなぁ。
聖獣の名は伊達じゃねぇな」
「当然なのです、ミア様は凄いのです!」
「で、どういう理由があってあいつは俺たちに着いて来たいんだ?」
カナタは、仕留めた魔物を鋭い牙で食い千切って食べるエンシェントユニコーンを見ながら問う。
「黒兎を追ってるんだってよ。
オレ達と来ればまた黒兎に会えると思うってのと、もっと強くなってあの鹿に仕返しするらしい」
「それで修行か・・・。
そう言えばあの女の子が、ユニコーンにしつこくされて困ってるとか言ってたな。
何であの子に拘るんだ?」
「それは聞いても言わねぇらしいぜ。
とにかく、こいつは俺達の輓獣になりたいんだってよ」
「・・・そうか!
なら何でもいいか。見る限り本当に強えみたいだし、問題ねぇだろ」
「だな。
それよりカナタ、こいつの名前はどうすんだ?
」
「ニケはユニが良いと思ったですけど、エンシェントユニコーンは雄みたいなのです」
「なに!?
俺も最初に思い浮かべたのがユニだったんだが・・・。
そうか、じゃあ男っぽい名前がいいかぁ・・・。
うぅん・・・そんじゃ、シンバで。
意味は神の馬だ」
「シンバか!
よし、分かったぞ!」
「良い名だ」
「強そうな名前なのです!」
「ダメ」
皆が賛成する中、突然ミアがユニコーンを見てそんなことを言う。
すると、ユニコーンはミアに語り掛けるように、馬のような鳴き声を上げた。
「ーーーオレは馬じゃない。却下だ。
って言ってる」
「き、却下?
あいつ、シンバが不服だったのか?」
「ん、みたい」
「偉そうな馬ーーー、じゃなくてエンシェントユニコーンだなぁ・・・。
けど、確かに狼の血も入ってんだし、馬呼ばわりは失礼か」
まさか、助けた獣に名付けようとして断られるとは思っても見なかったカナタは、少し考え込む。
「馬と狼・・・。
じゃ、馬狼でどうだ?」
「却下だ。オレは馬じゃなくユニコーンだ」
「じゃ、ユニ」
「ユニは女の名前なんだろ?オレは男だ」
「じゃ、ユニ太郎ーーー、いやユニ太狼で。
ユニコーンで狼で男の名前だし、一角狼、つまり鬼狼とも関わりがある。
何故なら太郎は桃太郎のことで桃太郎と言えば鬼だからだ」
「長いし意味が分からん」
「俺にも分かんねえよ・・・。じゃ、ユニ太」
「狼はどうした」
「太郎」
「適当さが伝わってくる。却下だ」
「ぬぉおおおお!!!何なんだお前!?
面倒くせぇ奴だな!!
お前なんかシロだ!毛が白いからな!
決定だ決定。シンバを断ったことを呪え」
「シロ・・・、良い名だ。
オレもこの白い毛は気に入っているからな。
中々に見所のある奴だ」
「いや、いいのかよ」




