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GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
アトランティス誕生
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六十一、言葉の力



「じゃあ二つ目の理由は分からねえままなのか?」


 ティキ村と駐屯所跡、これより防衛都市が築き上げられることが決定した地、アトランティスの一角にある木で作られた家。


 カナタはアトランティスの名を決めた後、「二つ目の理由はそのうち分かる」とだけ言われ、会談が行われていた部屋から追い出されてしまった。


 その後、眠っていたグランとアステリオスにカナタが詳細を説明していたのだが、ここ最近の活躍により有名になったせいか、歩く度に声を掛けられ話が進まず、一旦話を打ち切ってここ最近の住まいとしている家に戻って来ていたのだ。


「ああ・・。

 すぐに分かるの一点張りでな。

 結局そのまま追い出されちまった。

 大事な話し合いがあるんだろうが、名前だけ決めさせて追い出すって何なんだよ、ったく。

 せっかく久々にミアと会えたってのに会話も出来なかったぜ」


「よく分かんねえけどその内分かんならイイじゃねぇか!

 それよりミアの奴、カッコいい格好してたよな!?カナタ、俺にもアレ作ってくれ!


 あの狐女も強そうだったし、思ってたより楽しかったぜ」


「狐火族のカグラーーー。

 ゼノスよりも数段強いだろうな。一度、手合わせ願いたいものだ」


 二人して寝ていたクセにーーー、カナタがそう言おうとした時だった。

 玄関の木の扉がノックもされず、開かれる。




「良いぞ」





「ーーーーカグラ!?」




 *******





「ほう、こんな状況の割には快適そうな家じゃの。

 多くの食料運搬と住居建設ーーー、噂通り便利な能力を持っておるようじゃ」



 この家はグランとアステリオスが斬り倒した木材を使用してカナタが物質変化にて作り上げたもので、確かに男三人が不自由なく過ごせる程度の広さは備わっている。

 ここ最近のカナタ達の活躍は食料の運搬だけでなく、こうした仮住居作りでも高く評価されていた。


 ロウレンの依頼により作り上げた、トトと猫耳ソフィーに管理を以来している冒険者向けの格安宿や、困っている住民達の為に作った家。

 特に妖精猫族の住まう住居などは彼等の身体の小ささや身軽さに合わせ広さよりも作りに力を入れているため、カナタにとっては物質変化のいい経験値となっていた。


 現在、アトランティスに一つしか無い幾つものツリーハウスが集まった大木、通称“ツリーマンション“などは、夜になれば窓から漏れる灯りが電飾となり、美しい光景を浮かび上がらせている。


「カグラ・・・何でここに?」


 赤と白の巫女装束に似た着物から美脚を覗かせつつ家の中に踏み入るカグラは、カナタ達三人が座る丸い木のテーブルに歩み寄ると、一つ空いていた席に腰掛け話し出す。


「なに、暇潰しに妾自ら二つ目の役割を伝えに来てやったまでじゃ。

 奴等は忙しいからの」


 奴等というのが、アトランティスを築くことを決定させた六名の代表者達のことだと理解したカナタは思わずツッコんだ。


「お前はいいのかよ!

 そもそも、防衛都市を作ろうって言い出したのはカグラだろ?」


「妾の使命は既に果たした。

 それより、二つ目の役割は聞かずとも良いのか?」


「聞くに決まってんだろ。

 いきなり呼びつけられたと思ったら、防衛都市の名前だけ付けさせられて追い出されたんだぞ俺達は。さっさと話せ」


「ハハ、そうイジけるでない。

 では早速話してやろうかの。

 お主らに与えられる任務は単純明快ーーー。


 聖獣ミアを連れて国を出ろ」


「ーーーーミアを?


 ・・・どうして、何で俺達が!?」


「どうもこうもない。

 そうしなければ成らぬからじゃ。

 分かったな?」


「いや分かんねぇだろ!

 なに一つ分かってねぇ。ちゃんと説明しろ」


「何じゃ・・?

 妾はてっきりミアと旅が出来ると聞けば、お主らは喜ぶものとばかり思っておったのじゃが・・・」


「オレは嬉しいぞ!

 行こうぜカナタ!!すぐに行こう!」


「グラン坊はそう言うておるぞ?」


「ミアと旅を出来るのは俺も嬉しい。

 だが、まずは説明が先だ。

 だっておかしいだろ!大国バロンに伝わる伝説の聖獣がどうして国を出る必要がある。

 ミアは国の守護神みてぇなもんじゃねぇのか?

 ただでさえレオル王の不在で国民が不安になってるってのに、ミアまで姿を消したらどうなるかーーー」


「こんな状況だからこそじゃ」


「どういう意味だ?」


「巷に溢れておる噂によれば、レオル王は攫われた六獣騎士ラミスを救う為、神徒共を追っておる。

 そしてこのタイミングに現れたミアは、王と共に戦いバロンを襲った真神教を打倒すると考えられておるのじゃ」


「だから・・・、ミアは王を追う必要がある?」


「その通りじゃが・・・少し補足しようかの。

 簡単に説明するとじゃな、ミアは王と会わねばならぬのじゃ」


 何故ーーー、カナタが再びそう問おうとした時、出入り口の木の扉が開かれた。


 木の扉の錆れた蝶番の出す、高く掠れた音に反応したカナタは質問を喉元で止めると、何も言わず住居に足を踏み入れる者を見てそれを飲み込み、違う言葉を発した。


「ミア!?」


 その背後にはレオ、ネオ、ニケの姿があり、レオは扉をノックしようとする姿勢で固まっている。


 ミアはそんなレオの心中など気に止める様子もなく言った。




「来た」





 *********





「此処からは私がご説明致しましょう」



 扉の前でカグラの話を聞いていたレオはノックをしなかった非礼を詫びた後、カグラの話を引き継ぎ説明を始める。


 それを見たカグラは、グランとアステリオスの待ちきれぬ様子を察し家を出た。

 先ほど言っていた“手合わせ”にでも行ったのだろうとカナタは三人を見送るとレオと向かい合う。


「それで、どうしてミアは王に会わなきゃならねぇんだ?」


「その答えは単純にしてただ一つ。

 聖獣様は王と共に戦う運命にあるからです。

 元来、聖獣様は王と共に戦えるだけの力を身に付ける為、旅に出るもの。

 そして六獣騎士の内、妖精獅子族(リオン・シー)の三名ーーー、つまりレオル王、ゼノス様、ラミス様はバロンを護る為に、我々妖精猫族(ケット・シー)三名は聖獣様をお守りする為に存在しております」


「つまり、ぼく達もミア様に着いて行くのにゃ!!」


「今回はミア様をお守りするだけじゃなく、レオル様と師匠を連れ戻す為でもあるです!」


「お前らもって・・それ、国は大丈夫なのかよ!?

 そうなれば国に残る六獣騎士は片腕を失ったゼノスさんだけになるんだぞ!?」


「ゼノス様は腕なんて無くても強いのにゃ」


「貴族の馬鹿共はカグラ様が黙らせたですし大丈夫なのです!」


「それにバロンにはロウレン様を始めとした優秀な騎士が多くおります。

 防衛都市(アトランティス)も御座いますし、問題はない筈。

 何より、聖獣様が力を蓄えるまで旅に出るのは、居所を変える事で身を守るためでもあります。

 ロキのような危険人物に狙われれば、聖獣様だけではなくバロン自体が多大なる被害を被ることになりますので」


「なるほどな・・・、とりあえず話は分かった。

 俺は問題ないーーーと言うか、お願いしてでも一緒に行きたいくらいだが、ミアは俺達と一緒でいいのか?」


 ミアが旅立たねばならぬことと自分に何の関係があるのか分からぬままではあるが、この際、理由などどうでもいいとばかりにそう問うカナタへ、ミアは間を置かずに首を縦に振る。


「ん、いい」


「そっか、そんじゃ決まりだな。

 よろしく頼ーーー」


 カナタが隣に座るミアへそう告げ、頭に手を乗せようとした時だった。


 突然、家の壁が砕け散り、外から何が飛び込んで来たのだ。

 壁が破壊される音に反応したレオ達は咄嗟にミアの前に飛び出すが、外から飛び込んで来た者の姿を見ると武器に掛けようとした手を止めた。


「グランにアスっち!?

 お前ら何やってーーーー」


 カナタはグラン達が飛び込んで来た壁の向こうを見て、その答えを知った。


「むむっ、やり過ぎたかの?

 すまぬ、すまぬ」


 巫女装束のような着物を来たカグラは、その手に持った大きな扇子を閉じて、壁の穴から部屋に入る。


 閉じられた赤、黒、金で彩られた豪華な扇子の両側上には、雷を絵に描いたような形の赤い装飾品が付いており、その見た目はまるで神主や巫女などが持つ幣を思わせるようだ。


 状況を見るに外で行われていた手合わせが終わった所のようではあるが、涼しい顔をしたカグラにグランとアステリオスが二人同時にやられてしまった事に、カナタは驚きを隠せずにいた。


「ん?というか家が滅茶苦茶じゃねぇか!」


「まあ良いではないか。簡単に直せるのじゃろ?」


「まぁ・・・な。

 だけど掃除とか大変だろうが!ったくよ」


 カナタは宝巾着(トレジャーポーチ)から壁に使っているのと同じ種類の木材を取り出すと、それを液体状に変化させ穴の空いた壁へと広げる。

 後は破壊された壁の断面を同じように液体状にして双方を元の固形の状況に戻せば修復は完了だ。

 溶接された鉄同士のようにくっ付いて、亀裂はあっと言う間に消えてしまった。


「ほぅ・・見事なものじゃ」


「何度見ても凄いのにゃ。便利な能力なのにゃ〜」


「お前らのほうが凄え力持ってんだろうがよ!

 それより、グランにアスっち!

 お前ら二人掛かりで何やってんだ?」


「面目無い・・」

「だけどそんなこと言ったってよぉ、あいつ変な力使うんだよ!」


「変な力?」


 そう聞いた一同の視線がカグラに集まる。


「なっ、変な力とは何じゃ、失礼な。

 妾は“言霊の加護”の力を見せてやっただけじゃ」


「言霊の加護の力を“見せる”?

 言葉なのに見せるって何だよ」


「言ったじゃろ?極めれば言葉は刃になるとな」


「刃にって、それはあくまでも比喩だろ?

 言葉は人の心を傷付けることもあるっていうさ」


「心をーーーーか、なるほどのぉ。確かにそれもあるじゃろうが、妾が言うておるのはそういう意味では無い」


「じゃあどういう意味だよ」


「ふむーーーー。

 仕方ない、ちとこのカグラ様が教授してやろうかの。

 例えば魔法を使う折に、その魔法を強化する方法がある。

 ニケ、だったかの?

 其の方は分かるな?」


 カグラは見るからに魔法使いといった格好をしたニケへ問う。


「詠唱のことなのです?」


「その通り。

 戦いに精通する者であれば誰もが知るように、無詠唱で放つ魔法に比べ、詠唱してから放つ魔法は同じマナしか使わずとも強力になる。

 じゃが、もし言霊の加護の持ち主が詠唱を行えばどうなるかーーーー。

 その魔法の威力は、極端に跳ね上がる。


 つまり戦うための武器、刃ともなり得る訳じゃがーーーー、実は極めればそれよりも直接的な方法があるのじゃ」


「直接的なってーーーまさか」


「おっ、気付きおったか?勘の良い奴じゃ。


 ならば褒美に一度だけ見せてやろうかの。

 グラン坊、もう一度掛かって来て良いぞ」


「本当か!?よし、行くぞ!!」


 軽く遇らわれたことが余程悔しかったのか、グランは表情を明るくすると、踏み切るためにその場に深く沈み込んだ。


「ちょーーー家の中!!」


 そんなカナタの心配を他所に、カグラはその場から動く事なく少しニヤけて呟く。



「“平伏せ”」



 その瞬間、グランは見えない何かに押し潰されるように、床へた叩きつけられたーーーーー。



「グラン!?」


「何だにゃ!?」



 床に顔から叩きつけられたグランは鼻血を流して倒れている。

 原因がカグラの言葉によるものだと全員が理解しながらも、目を疑うその光景を前に皆が混乱していた。


「ーーーとまぁ、こんな所じゃ。

 言っておくが、カナタ程度の加護では到底無理じゃぞ?


 そんなことより、無事に話は纏まったようで何よりじゃ。

 では、これからのことを話し合おうぞ。ほれ、グラン坊もこっちへ来い」


 話しが纏まったと言われ、それがミア達との旅立ちのことを指すのだと理解するのに、全員が暫しの時間を要した。

 グランが納得の行っていないような表情で鼻血を拭い立ち、席に腰かけた所でカグラが発する。


「では始めようかの。

 カナタ、人数分の椅子を用意せい」




 ********





「粗茶ですが」



 カナタがそんな決まり文句と共に出したのは森のハーブから抽出したハーブティー。

 先程までより少し大きくなった円形のテーブルを大小様々な八つの椅子が囲んでいる。


 カナタから時計回りにミア、レオ、ニケ、ネオ、カグラ、アステリオス、グランの席が並び、ハーブティーを出したカナタが席に腰掛けた所で本日二回目の会談が始まった。


「では始めようかの。

 まずは会談で話し合われ、決定した事をいくつか説明しよう。

 当面の目標についてじゃが、レオ達は言うまでもなくレオル坊の救出及びアトランティス発展に必要な物資及び人材の調達。

 ミアの護衛を含んでおる以上、正体は隠したままで、だったかの?

 物資や人材の調達に関しては、アトランティスに参加しておる他の国も協力する故、あまり気負わずとも良い。

 じゃが、来たるべき時までに力を磨き、レオル坊を連れ帰ることは必須となる。

 さもなくばバロンや妖精の大森林は滅ぶこととなるからの。


 そしてカナタ、お主にはアトランティスの一角、この家が建っておる土地とその周辺の土地が与えられることとなった。


 未だに攻略者とは成っておらぬが、開かずの扉を開けた功績や、民達の為に食料を運び、住居建設に貢献した見返りーーーという名目でな」


「ーーー名目?核心は別にあるってことか?」


「そうじゃろうな。

 何せアトランティスは防衛国家。

 何れ戦場になる土地など、与えた所で何の褒美になろうか。

 表向きにはカナターーーというより、開かずの扉を開けた謎の男に爵位が与えられた。

 という事にするのじゃ。

 実際にカナタに爵位を与えるという案も出たのだが、ゼノスが、アオイ達は喜ばんだろうと言いおったのと、実際に何処の馬の骨とも知れん男が突然貴族などになっては、バロンに住む他の貴族どもが黙ってはおるまいしな。


 だが、死の穴の開かずの扉を開けた正体不明の男が、爵位を受けこの地に居着いて居るという情報は、この地を狙う他国への牽制と成り得る。

 その為、そのような情報を流布することとなった。

 よって、この土地には立派な屋敷を用意する運びとなり、お主らはバロンに立ち寄った際、それを勝手に使うて構わんということになる。

 此処が戦場になるまではな。

 まあ利点らしい利点は死の穴への出入りが楽に出来、宿賃が掛からんことくらいのものだ」


「どっちにしても家が貰えるなら有り難く貰っとくよ。旅に出るなら滅多に使えないかも知れねぇけどな。

 けどさ、開かずの扉を開けた謎の男が住み着いてる屋敷なのに普段人の出入りがなきゃ怪しくないか?」


「うむ、それについてじゃが、屋敷の中に防衛都市の司令部となる重要機関を設置しようという案が出ておる。

 居住空間とは別の場所、例えば地下などに設置する予定じゃが、構わんかの?」


「なるほどな・・、確かにそれなら人の出入りも有るし、メイドっぽい格好した奴とかも混ざってれば貴族の屋敷に見えるか。

 俺は問題ないぜ!折角の屋敷も誰かが使ってくれてねぇと直ぐに劣化しちまうし丁度いい」


「よし、それでは決まりじゃのう!メイドの件は妾からロウレンに伝えておこう」


「ほっ、本当かよ!?」


「なんじゃお主・・・、妾の“言葉”を疑うのか?」


「ぬぉおおおお!!!カグラ様ぁああああ!!!」




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