六十、会談
重苦しい。
何故この様な重苦しい場に自分が居るのだろう?
カナタは冷や汗を浮かべて周囲の様子を伺っていた。
ーーーロウレンさんに呼ばれて来てみれば、何だ此処は。
円卓に座る妖精や獣人。
見た所、俺の正面に座ってやがる無口そうな妖精は、妖精猫族と仲が良いっていう妖精犬族とかって種族に似てるな。
クールな感じがレオっぽい。
後ろの二人は部下として、その右側の席に座ってる幼女と、更にその隣の狐耳巫女風妖艶着物超絶美女はどちら様だ?
見た所、狐耳巫女風妖艶着物超絶美女はこの中で一番偉そうだ。
別に何も喋ってねぇが、目と姿勢が物語ってやがる。
ーーー妾は偉い。
ってね。
だが俺から見ればエロい。
円卓の上に置かれた大胆な着物から出る美脚とかね。
俺と同じ黒髮ってのもまたグーだ。
幼女は見た所、人族の子供って感じだが・・・、雰囲気的に只者じゃねぇんだろうな。
緑色のソバージュヘアーと大きな黒目が印象的だ。
後は目が一つのデケェオッさん・・、サイクロプスって奴に近ぇか?
それと白いうさ耳を生やしたオッさんーーー、何でオッさんなんだよ!
うさ耳っつったらケモミミ界でもトップクラスの人気を誇る耳でしょうがよ!!
何でオッさんなんだよ!!
そんで、見るからにヤバそうなのがこいつだ。
四本足に人の上半身・・・ケンタウロスって奴だろうが、なんかずっと腕組んでて鼻息荒ぇし目が血走ってやがるし、涎まで垂らしてやがる・・・。
ミノタウロスを思い出させるようなこの雰囲気、絶手ぇ関わっちゃいけねぇ奴だ。
目を合わせないようにしよう。
というかアスっちは大人だから大丈夫だろうが、グランの奴、誰かに突っかかったりしねぇだろうな?
父ちゃんの力を手に入れて以来、問題なく太陽光を浴びられるようになったのは幸いだったが、無駄に強くなっちまったせいで、闘いに飢えてやがるからな。
ある意味一番危険なのはケンタウロスじゃなくてグランの奴かもーーーーん?
狐耳巫女風妖艶着物超絶美女が俺を見ているだと!?
「なっ、なんだ?」
「ーーーーフッ、いや何、ロウレンが言うておったのは此奴かと見ておった迄よ」
「ロウレンさんが?どういうーー」
「まぁ待て。
ーー来た様じゃ」
木の扉が二度叩かれ、開かれる。
***********
「お待たせした」
部屋に入るなりゼノスはそう言って用意されている席に腰掛け、カナタの隣に空いている最後の一つにミアが腰掛けると、それを後ろから囲むようにレオ達が立つ。
一瞬の沈黙の後、狐耳の黒髮女性が口を開いた。
「気にするでない。
急に押し掛けたのは妾達の方じゃからな。
じゃがーーーー、妾自らが足を運んでおると言うのに、レオル坊が来んとはどう言う了見じゃ?
申してみよ、ゼノスよ」
黒髮の女性が目に力を込めそう言った途端、空気が重くのし掛かるような感覚をこの場の全員が覚えていた。
突然、痛い所を突かれたとばかりにゼノスが発する言葉を選ぶ中、ロウレンが軽い口調で答える。
「お戯れが過ぎますぞ、カグラ姫よ。
レオル王とラミスは不在じゃと先程申し上げた筈」
「なっーーー!?」
バロン側の者は、そのような機密事項を簡単に教えてしまうロウレンに、その他の者はこれ程の国の窮地にレオル王が不在だということに驚いていた。
そんな中、事情を知っていた黒髮の女性ーーーカグラだけは表情を変えず状況を静観し、犬のような姿をした妖精は、内心はともかくとして落ち着き払ったような声でゼノスへ質問する。
「この窮地にレオル王が不在・・・、何があった?」
ゼノスが何と答えるべきかと迷っていると、又してもロウレンが軽く言って見せた。
「恐らくカグラ姫は事情を知っておるからこそ皆を引き連れてバロンへ来られた。
今は情報を隠さず共有し合うことが最優先ですじゃ」
ゼノスは暫く考えた後、ロウレンの意見に従うことに決めた。
「カグラ様の予知能力ーーーか。
確かにカグラ様が居られるなら嘘は必要ない。
ーーーではまず、今回バロンに起きたこと、そしてバロンの現状をお話ししよう」
ゼノスの話が始まる直前、初顔合わせとなる者同士もいることから、簡単な自己紹介が始まった。
妖精猫族のゼノスとロウレン、そしてゼノスがレオ達とミアを紹介すると、妖精犬族の長オルク、一ツ目鬼族のギュスターブ、ケンタウロス族のシソク、白兎族のリュリュイ、狐火族の長カグラと続き、最後に緑髪の幼女、植物妖精族のアベリアが名を名乗った所でゼノスの話が始まったーーー。
*********
「という訳で、現在バロンではラミスが神徒に攫われ、レオル王がそれを救援する為に奴等を追っているーーーー事になっている。
そしてこのタイミングで現れた聖獣様がレオル王と協力してバロンに仇なした真神教を滅ぼす、聖獣様はその為に天より遣わされたのだと民の中でいつの間にか噂が広まっているのが現状だ。
お陰であのような事件があった後でも民の表情は明るいが・・・・」
「状況は最悪じゃのう」
説明を終えようとしたゼノスが言葉に詰まると、カグラがすかさず続きを口にする。
だが、カナタにはカグラの意図する所が全く分かっていなかった。
「だっ、だけどさ、確かに王都が潰されレオル王が攫われたのは大きな事件だが、国民達は前を向いて必死に生きてるんだ。
この調子で頑張っていけばーーーー」
「馬鹿かお前は」
平和ボケしたカナタの発言に、妖精犬族の長、オルクが冷たく言い放つ。
「なっ・・・なんーーーっ」
「妖精の大森林にどれだけの資源が眠っていると思っている。
他の土地には無い植物や、魔物、希少な鉱石、遺産、それらを生み出す未発見の迷宮も多い。
レオル王は攫われ、妖精の大森林随一の都市であるバロンが崩壊したんだぞ。
これを周辺の大国が黙って見ていると思うのか?」
「・・・それってつまり」
「情報を聞き付けやって来るのは救援の為の冒険者だけではないと言うことだ。
これだけ時が経っているのなら、他国から放たれたスパイの一人や二人、拘束されていてもおかしくはない。
方法は一つではないだろうが、いち早く同盟国と連携し防衛策を練らなければ、王都に留まらずバロンそのものが転覆し兼ねんのだ」
オルクの話に否定的な言葉はでず、ゼノス達の表情から他国のスパイの存在もあながち言い過ぎでは無いのだろうとカナタは悟る。
自分が呑気に冒険者ランクを上げようと食料を運んでいる間に、ゼノスやレオ達は避難民の事だけでは無く、国を守る者として駆けずり回っていたのだろうと。
「ーーーまあ大体はそんな所じゃのう。してお主、名を何と申す?」
「・・奏多だ。蒼井奏多」
「そうか、カナタ、そしてその他の者も聞くがよい。妾が汝等を此処へ集め、現状を最悪だと申したのは国家間の争いのこと以外にも理由がある」
「ーー理由?」
カグラの言葉に妖精犬族のオルクが首を傾げる。
「そうじゃ。
ゼノスやロウレンは気付いておろうが、バロンの聖獣とは如何なる時に生まれる者か・・・。
カナタよ、お主は知っておるか?」
「確か、バロンの危機に・・」
「その通り。
であるならば、何故レオル坊が攫われ、王都バロンが崩壊する前に聖獣は生まれなんだ?
答えは簡単じゃ」
「・・・まさかっ」
「・・・そう。
この国ーーーいや、バロン王国を含むこの妖精の大森林に崩壊の危機が迫っておる」
カグラが皆を集めた意図が明らかとなり、その内容に、全員が言葉を失う。
レオル王ですら一目おくほどの実力者であり、他国との交流を嫌うことで知られるカグラが、重い腰を上げわざわざそのような冗談を言う訳が無い。
そして何より、バロン崩壊という大事件の影に隠れて其々の里にも巻き起こっていた魔物の大発生が、カグラの言葉に真実味を持たせていた。
「なっ・・・・、ならばやはり今回の事件は」
「妾が此処に集めたのは、バロンと時を同じくして何らかの被害に遭うた者達じゃ。
不可解な自然現象や魔物の大発生、魔族の襲撃など、起こった出来事は其々じゃろうが、妾は近い将来巻き起こるであろう騒動と無関係では無いと睨んでおる」
皆がカグラの言葉に耳を傾ける中、ただ一人違う反応を見せる者がいた。
腕を組み、鼻息を荒くしてカグラに食ってかかるのは、ケンタウロスの族長、シソク。
「俺達ケンタウロス族の里に起こった魔物による被害は、元より俺達が里で調教していた魔物によるものだぞ!!
真神教がバロンを襲おうが、俺達には何の関係も無いこと。
狐火族のカグラが一大事だと言うから来てみれば、何の根拠も無い戯言を長々と・・・!
俺は多くの同胞を失い、里の復興で忙しいのだ。
帰らせて貰うぞ!」
「そう鼻息を荒くするな、シソクよ。
そこのカナタが言うた通り、神徒ロキという男には生物を操る力がある。
ケンタウロス族が調教しておった魔物を操ってそなた等の里を攻撃し、仲間を連れ去ったのは間違い無くロキの仕業じゃろう」
「神徒が何故そのようなことを・・・っ!
長き時を掛け、わざわざケンタウロスの里を狙う理由などある筈が無かろう!」
「狙いはケンタウロス族の持つ、優れた魔物懐柔の力じゃろうな。
話を聞く限り、ロキは一度に数万の魔物を操ることも出来るが、最低でも其れなりに強い魔物を操るには自らの力を分け与える必要がある。
つまり、多くの魔物を操れば操るほど本人の力が弱まるということじゃ。
そこで、ケンタウロス族を配下に収めようと考えたのではないか?
ケンタウロスの力で魔物を操るなら、本人の力が弱まることは無い。
それに、今回の作戦の為、長き時を掛けたのはあくまでもバロンを攻めるのが目的。
ケンタウロスの里を襲ったのはロキの独断という可能性もある。
何れにせよ、汝等の里に起きた事件はまず間違い無く神徒が巻き起こしたものじゃ」
背中を向けてカグラの話を聞いていたケンタウロスの族長シソクは、その場に足を止めて振り返り、鼻息を荒くする。
「なん・・だとぉおおおお!!!!神徒ロキぃいい!!!
許さん!!!」
突如として大声をあげて怒りを露わにするシソク。
見た目よりも理性的な話し方をする奴だと、シソクに対して申し訳ない気持ちになっていたカナタは、あまりの豹変ぶりに思わず口を開いていた。
「いや何でだよ!
いきなり鵜呑みにし過ぎだろオッさん」
確かにカグラの話には信憑性があるように感じたが、それを全て鵜呑みにして会ったこともないロキによくそこまで怒り狂えるものだと、先程までとは真逆の反応を見せるシソクに違和感を覚えるカナタ。
だが、周囲の目線はカナタの想像とは違うものであった。
「何と非情な男だ!
シソク殿は里を、仲間を、ロキに奪われたのだぞ!?」
声を荒げる一つ目の大男、ギュスターブ。
彼の言葉に同調するようにシソクやオルク、更にはグランまでもがカナタに対して冷たい視線を向けたのだ。
「なっ・・・どういう・・・」
どう考えても、カグラの話を聞いたシソクがあれ程豹変するには根拠が乏しく、そして早すぎた。
にも関わらず、周囲の者達はシソクの豹変が当然であり、カナタの言葉の方が冷徹なものだと感じているようだ。
カナタは自分を笑って見つめるカグラに気が付くと睨みつけ、そして問い掛ける。
「お前・・シソクさんに何しやがった?」
「はて、何のことかのぉ?
まあそう熱り立つでない、カナタも皆もな。
黒い髪の者に悪者はおらん!そうじゃろ?」
カグラは自身の長い黒髮の先を指に巻きつけ、カナタの黒髮を見てそんなことを言う。
するとどうだろうーーー。
つい先程までカナタに向けられていた周囲からの冷たい視線が嘘のように無くなったのだ。
カナタは明らかに異常なこの現象を、目の前のカグラが起こしていることを確信しながらも、それ以上追求することはしなかった。
「・・・分かったよ。そんで、結局どうすんだ?
オルクの話だと今バロンは他国に狙われてて、カグラの話によると、バロンの周りに広がってる森ーーーー、妖精の大森林に危機が迫ってる。
それが本当なら、ウダウダやってねぇで早く話を進めた方がいいだろ?
ならゼノスさんロウレンさん、それにカグラはどうすべきだと思うのか、馬鹿な俺にも分かるように単刀直入に教えてくれ。
わざわざ俺達までこの場所に呼ばれたのにも理由があんだろ?」
「なんじゃ、揶揄い甲斐の無い奴じゃのぅ・・・。
まあ良い、時間が惜しいのは事実じゃ。
では、今回皆に集まって貰った訳を単刀直入に話そう。
先も申した通り、妖精の大森林に危機が迫っておる。
これは妾の持つ特級魔法、星占術によって得た情報故、間違いないと思ってくれて良い。
そこで提案ーーー、と言うより確定事項を報告する。
何れ訪れる危機に争う為、この地に防衛都市を築き上げる。
参加する者は残り、拒絶する者は去れ。
以上じゃ」
防衛都市を築き上げる。
唐突なその言葉に、皆が一様に驚き、そして沈黙の後言葉が飛び交う。
「防衛都市だと!?」
「そうじゃ、そのくらい一度で聞き取れ」
「何故そのような・・」
「この地、延いては我等が一族の長として一族を護る為じゃ。
さっきから言うておろう?
無駄な質問はよせ」
「防衛都市を築き、何らかの困難に立ち向かうという計画なのは理解出来ました。
では、何故この場所なのです?
現時点の戦力で言えばレオル王の居ないバロンよりもカグラ様の居る狐火族の里の方が上の筈。
単純に戦力を整えるのならば、この地以外にも候補はある筈ですが」
黙って話を聞いていた緑髪の幼女、植物妖精族のアベリアがカグラへ問い掛ける。
「理由はいくつもあるがーーー、最大の理由は妾の特級魔法によると、戦場となるのがこの地だからじゃ。
現時点で皆に分かりやすく説明するなら、此処がバロンだからかのぅ。
バロンと言えば妖精の大森林随一の大国。
他国との交流もあり、物資を集め易く、戦力を保有して暴走する可能性が最も低い。
まぁ、其々の長が集まり参加する以上、戦力はバロン単独の所有物ではない。
よって戦力の暴走については初めから無いに等しいがの。
狐火族の里で駄目な理由は、そもそも戦場にならぬからじゃがーーー、それを除いても我等は元より他国との交流を望まん。
結果的に自分達の里を護る為じゃから力を貸すが、里に部外者を招くなど論外。
これは他の者も同じ意見じゃろうが、自分達の納める土地をいつか戦場にすべく、余所者が多くの兵を連れて雪崩れ込み、秩序を壊すーーー。
そう聞いて、この話を飲む者は居らぬじゃろ?
じゃが、バロンの一度崩壊したこの土地であれば、これから秩序を再構築する必要があるのじゃから、他国の兵が力を貸す為に訪れようと、民への負担も少なく、それどころか感謝すらされるじゃろうて」
「確かに現時点のバロンであれば、他の国よりも民への負担が少ないという話は分かりますーーー。
では、バロンであれば戦場になっても良いと仰るのですか?」
「分からん奴じゃのう!
なっても良いと言うより、なるのじゃ。
そこを間違えるでない。
それに、ロウレンがこの話を快諾したからこそ皆を此処へ連れて参ったのじゃぞ?」
一同の視線が、ドアの前で立ったまま話を聞くロウレンへ集まる。
「・・・その通りですじゃ。
この地は今、食糧難だけでは無く他国からの侵攻の危機に晒されております。
クフト殿が申した通り、この地を手に入れば大量の資源を手中に収めたも同じ。
そしてバロンを落とした者の手は妖精の大森林に住む多くの種族へ迫ることとなりますじゃ。
カグラ姫の仰った危機というのが何を指すのかは分かりませぬが、バロンをこのまま放置すれば、何れ皆様の土地にまで危機が及ぶのは必然ですじゃ」
そこまでロウレンが話た所で、カグラが話を引き継ぐ。
「つまりこういうことじゃ。
今バロンを守るのに力を貸す者の土地は将来起こる危機から護られ、貸さぬ者の土地は見捨てる。
将来起こる危機と言うよりは、この先起こる全ての危機じゃな。
戦力や労働力を貸し与えるのだから、何かあれば当然その国を守る為にこの地に作った防衛都市が機能せねばならん。
まずはこの地の復興が最優先じゃが、その後は皆で細部まで話し合い決めれば良い。
バロンからすれば、今のこの状況で他国と戦うか、将来、戦力を整えた状態で何らかの敵と戦うかーーー。
何れにせよ戦場になるのなら後者を選ぶのは当然じゃ。
他に何か質問はあるかの?」
「その防衛都市に参加して得られる見返りは?」
そう問い掛けるのは白兎族のリュリュイ。
兎というイメージからは懸け離れた屈強な体に傷だらけの顔、低い声。
歴戦の猛者といった雰囲気の男だ。
「言った筈じゃ。様々な危機に抗う力を手に出来る。
その代わり、常に一定の兵を防衛都市に置いておく必要があるがの。
まあ物は考えようじゃ。
これは、大国バロンから堂々と情報を盗むチャンスでもあるからの。
逆に、バロンに作る防衛都市とは皆が集まり作る都市であり、バロンが単独で所有する都市では無い。
よって、バロンが汝等の土地に干渉することは、その土地を防衛する目的以外では無い。
そうじゃな?ロウレン」
「その通りですじゃ」
そこまで聞いたリュリュイはその場に立ち上がる。
「そうか・・・。
では我々、白兎族は不参加とさせてもらおう。
良いかな?」
「ほう、勿論それは汝の自由じゃが・・・、何故じゃ?」
「本来、我々白兎族は決まった土地に定住すること無く移動を繰り返す種族。
その為、世界各地に白兎族の住む小さな集落が点在している。
その土地に危機が迫っているなら住む場所を変えるまでのことだ。
悪く思うな。
少数での生活は移住には向いているが、戦力を貸し与えるような余裕は無い」
「そうか・・・。
ならば仕方がないの。
白兎族不参加の件は承ったぞ、達者でな」
「ああ・・・。
危機が迫っておるという情報、感謝する。
立派な都市を作られよ」
リュリュイはそう言い残して部屋を出て行った。
******
「ーーーーでは、妖精犬族族長オルク、植物妖精族族長アベリア、一ツ目鬼族族長ギュスターブ、ケンタウロス族族長シソク、そして妾、狐火族族長カグラと妖精猫族国王代理、ゼノス。
以上六名の名を持って、この地に防衛都市を創ることを決定とする」
錚々たる面々により決定された防衛都市建設。
顔には出さぬが、ゼノスやロウレンがホッと一息吐いた時、黙って話を聞いていたカナタが声を上げる。
「ちょい待てぇええ!!!
だ・か・ら!!俺達は何の為に呼ばれたんだよ!?
勝手に話し合って勝手に決定してんじゃねぇーーーー、いや、決定するのは良いが、俺達、今の話の何処に需要があったんだよ!?ねぇ!?」
話の蚊帳の外に置かれ拗ねるカナタと、興味を失い眠るグランとアステリオス。
カグラは何かを思い出したようにワザとらしく指を立てる。
「おお、そうじゃったそうじゃった。
だが安心するが良い。汝等にはちゃんとした役目があるからのぅ」
「役目?」
「そう、役目じゃ。それも飛びっきり重要な役目が二つな」
「だから何だよ!?」
「そう慌てるな。
まず一つ目は、たった今議題に上がっていた防衛都市の名前を決めるためじゃ。
ほれ、命名するがよい」
「するが良いーーー、じゃねぇよ!!何で俺が!?面倒事を押し付けてんじゃねぇよ、ったく」
「面倒だから、というのもあるが、お主に命名権を与えたのには理由がある。
噂によるとそこの聖獣に名を与えたのはお主じゃな?カナタよ」
「そうだよ。
それが何だ」
「これまで名を授かった聖獣は初代聖獣バロンのみ。
にも関わらず、その聖獣ーーー、ミアの名はやけに人々に親しまれているとは思わんか?
聖獣様と呼ぶ者も多いが、民の中にもミアの名を叫ぶ者は多くいた。
何故だか分かるか?」
「そりゃ名前があるから読んでるだけだろ。聖獣様よりミアの方が呼びやすいしな」
「ーーーー違うな。
答えは、お主が“言霊の加護”の持ち主だからじゃ」
「言霊のーーーー?何言って・・・」
言霊の加護。
確かにカナタはそれを持っている。
だが、その効果と言えば異世界人の言葉を理解し、カナタの言葉を異世界人に伝え、言葉にした文字を理解出来るようにするものの筈。
実際の所は分からぬままだが、少なくともカナタの理解の中ではそういった類の力だ。
カナタはカグラの言いたいことが理解出来ず言葉に詰まってしまう。
「やはり気づいて居らなんだか。
言霊の加護を持つ者が発する言ノ葉には力が宿る。
じゃから、お主が願いを込めたミアという名が多くの者に伝わり、浸透しておるのじゃ」
実際には子猫の鳴き声から着想を得たミアという名前だが、確かに取って付けたようなミアという名前の意味が、やけにバロンの民へ浸透している。
カナタは以前からそう感じていた。
「ならーーー、いや、それより何でお前が俺の加護の事を知ってんだよ!?」
「それは妾も又、言霊の加護を持って生まれた者だからじゃ。
言霊の加護ーーー、別名、扇動の加護。
極めれば言葉は刃になる。
そう自覚しておけ」
「扇動のーーー?何言ってーー、
というか、それならお前が名前を付ければいいだろ!?
なんでわざわざ俺に」
「面倒だからーーー、というのは冗談として、妾の加護はお主と違って強過ぎるのじゃ。
良くも悪くもな・・・・。
お主程度の加護であれば、良くても聞く者に心地よい名前ーーー、聞いたことがある気がするーー、覚え易いなどと感じさせる程度。
もし悪い方へ働こうが大した害は無い。
だからお主なのじゃ。
いち早く防衛都市の名を周辺諸国に広める事こそが、この地の防衛に繋がるからの」
「ただの名前が、この場所の防衛に・・・?」
「そうじゃ。信じられんかも知れんが、これは紛れも無い事実。
だからこそロウレンはお主を此処へ同席させたのじゃからな。
して、防衛都市の名は何とするのじゃ?
助言するなら、耳障りが良く、覚え易く、ひ弱で無い名が良いのう」
「そこまで助言するなら自分でーーー、いや、やっぱいいや」
キリがないーーー。名前を付けるくらいなら大した負担にもならず、何より幾つか候補を見つけている。
カナタは、カグラの助言を聞き最初に思い浮かべた言葉を発していた。
「ーーーーアトランティス」
「アトランティスーーーー。
ほぅ、やけに耳に馴染む名じゃの。
どういう意味なのじゃ?」
「アトランティスってのは俺の地元に伝わる伝説上の国の名前だ。
強大な力を誇った超大国。
確か語源はアトラスって巨神で、アトラスは天を支えるほど力持ちの神様で、倒れねぇって意味もある。
アトランティスは海に浮かぶ島国なんだけどさ、俺の地元では広い森の事を樹海って呼ぶんだよ。
樹海の中にある都市なら島と言えなくもねぇ。
ーーーどうかな?」
「島ーーーというのは良く分からぬが、倒れぬというのは良いな。
防衛都市に付ける名としては申し分無いように思うが、皆はどうじゃ?」
「アトランティス・・・良いだろう」
気取ってそう答えるオルクに続き、其々が其々なりの賛成の意思を表明。
こうして防衛都市の名をアトランティスとすることが決定された。




