五十九、新たなる始まり
新章スタートです。
ここからカナタ達の冒険が始まります。
五十九、新たなる始まり
真神教によるバロン襲撃より十日。
王都より避難していた民や冒険者達が、まだ少数ではあるが終戦を聞き付け舞い戻っていた。
王都を思わせる面影と言えばボロボロの姿で聳えるバロン城くらいのもの。
数日前と同じとは思えぬ場所に戻った者は誰もが言葉を失い、周囲を見て歩く。
遠く離れていようとも目視することの出来たヨルムンガンドの姿から、かなりの被害が出ているであろうことは容易に想像出来ていたようだが、それでもやはり実際に広がる灰と化した街を目の当たりにすれば、誰もが驚きの表情を浮かべることになるようだ。
現在、バロン跡には死の穴の探索に参加していた精鋭達や入り口に駐屯していた兵達が戻ってはいるものの、状況が状況だけに復興のふの字も見られない状態であり、動ける者は怪我人の治療や、バロンの外へ逃れた民達の探索及び帰って来た者達のバロン“外”への誘導及び護衛に明け暮れている。
と言うのも、バロンに仮設住居を作ろうにも森は焼けて無くなり、土は広範囲が未だに赤く色付き煙を上げているため殆ど不可能に近く、何より数万を超える魔物の死体が腐敗し、強烈な死臭を放っているのだ。
到底、生活など送れぬ場所と成り果てたバロン跡へ戻って来る者は、魔物の彷徨く森を長く移動し、食糧も足らず疲れ切った状態。
精鋭達が死の穴探索に乗り出していたこともあって、バロンの外へ逃れた民や冒険者達の中にも犠牲者が出ている状況であった。
バロンの騎士達はそういった者を護衛し、王都より少し離れた場所に建てられた仮の住居へと誘導するべく荒地を駆け回る。
そんな中、ボロボロの姿でバロンへ戻った年老いた妖精猫族の夫婦を保護する黒髪の青年と小さな少年の姿があった。
青年は小さな布袋から小さな石瓶に入ったマジックハニーと水、それに魔獣の肉を取り出すと小さな老夫婦へ手渡し、直ぐに安全な場所へと誘導を始める。
「カナタ君にグラン君、本当にありがとう。
君達が助けてくれなければ、私達はレオル様の命令に背くことになっていただろう」
「気にしなくていいよ。後は仮設住居まで俺達が護衛してやるから安心してくれ。
それより、王の命令ってことはオッちゃん達はバロンのお偉いさんかなんかか?」
最下級のFランク冒険者であることを示す木のプレートを手首に着けたカナタは偉そうにそんなことを言って親指を立て質問する。
「いやいや、違うさ。
我々バロンの民は皆、避難を始めた時レオル王よりこう命じられたんだ。
“生きろ”ーーーとね。
だから私達は何が何でも生き残ろうと、そう決めていたんだが・・・、死に物狂いで辿り着いたこの街の状態を目の当たりにした時、私達は動くことも出来ず、そのまま全てを諦めてしまう所だった。
こうして又希望を持てたのは本当に君達のお陰だよ。
ありがとう」
「だから俺達は何もしてねぇよ。
今回の事に関して言えば、最大の功労者はロウレンさんだろうな。
レオル王が本気で戦うと決めた時、バロンが壊滅的なダメージを受ける可能性があると見越して、ティキ村や死の穴入り口に作られてた駐屯地を仮の住居とする計画を立てたらしい」
カナタ達が死の穴から飛び出した際、駐屯地がもぬけの殻だったのはロウレンの命により兵達が食料調達と備蓄、そして森へ逃げた民達の護衛の為、死の穴や森の各地に散っていたから。
仮の住まいとなっている死の穴入り口の駐屯地にてそれを聞いて以降、無骨な木の杖を携えたロウレンという老人を見る目がカナタの中で百八十度変わっていた。
「あっはっは、やはりロウレン様は頼りになる。
流石はバロン随一の知将だ。
街ならまた作れば良い、財ならまた成せば良いーーー。
その言葉通り、既に民の依り代となる土地作りを始めておられるという訳か。
ならば裏では更に先を見越してさらなる行動を始めているに違いない。
やはり、バロンはまだやり直せるはずだ」
新たなる希望を抱きバロン跡地を後にする老夫婦、そして多くのバロンの民達はまだ知らない。
レオル王の身に起きたことをーー。
*********
「よし、今回はこれくらいで良いだろ。そろそろ地上に戻るか」
「・・・だな」
「なっ、もう戻るのかよ!?」
此処は世界最深の迷宮として名高い、クルベーラ地下大迷宮。
通称、死の穴と呼ばれる迷宮の十五階層だ。
バロン王国では現在、溢れる避難民の為、冒険者に向けて緊急クエストが発令されていた。
クエスト内容は、食料の調達や住居の建築、怪我人の治療などだ。
ティキ村に急遽開かれた仮の冒険者ギルドより発令された赤紙のクエストだけにその拘束力は弱く、貰えるのかも分からぬ報酬、そして冒険者自身も様々な事情により困窮している現状から、クエストに従い動いているのは一部の実力者だけに留まっている。
そんな中、現れては大量の食料と水を齎す黒髮の青年の噂が瞬く間にバロン中へ広がり、現在も黒髪の青年、蒼井奏多は食料調達の為、仲間と共にこの場所へ来ているのであった。
「しょうがねぇだろ?俺達の仕事は強い魔物を倒すことじゃなくて食料の調達なんだ。
これを頑張りゃ冒険者ランクも上がって“数持ち”に向かって一歩前進出来るかも知れねぇ」
「けどよぉ・・・」
「仕方ない事だが・・・確かに退屈だな。グラン、上に戻ったら俺と特訓でもするか?」
「おお!!そうしよう!!」
駄々をこねる少年グランに、黒い角の生えた大男アステリオスがそんな提案をする。
グランの親は吸血鬼と竜人族、アステリオスは青い炎を操る禅鬼という珍しい種族から進化した、不禅夜叉という鬼族の一種であり、双方ともに並々ならぬ実力者である事から、良き稽古相手として心を開いている様子だ。
「ハハ、良かったなグラン。
レオ達が国の復興・・・ってより発展か?ありゃ。
まあ兎に角、レオ達が任務に追われてる今、アスっちが居なけりゃどうなってたことか」
アスっちとは、アステリオスという長い名を煩わしく思ったカナタが付けた何の捻りも無いアダ名なのだが、カナタ以外誰もそう呼んでおらず、先に六獣騎士ネオが発案していたアスティーという呼び名の方が浸透している。
「本当だな!カナタは俺の修行に付き合ってくんねぇし、レオ達も忙しそうだし、ミアなんか滅多に会えもしねぇからな」
「まあなんたって聖獣様だかんな。王が不在の今、国民を元気付けられんのはミアしかいねぇだろうさ。
本当、ありがとなアスっち!」
「なに、礼を言うのは俺の方だ。
命を救われ、力まで貰ったんだからな」
アステリオスは黒い炎雷を纏わせた拳を強く握りしめる。
「不破雷火・・・、聞いた時は何も壊さないって意味かと思ったが、全てを壊すって意味だったとはなぁ。
グランがちょっと血を入れただけでとんでもねぇ能力が身に付いちまうんだからよ・・・。
そんなの最強じゃねぇかよ、ったく」
グランの特級魔法・血族ノ王は、グランが今までに吸った事のある種族スキルを他者へ植え付けるという力を持っているのだが、カナタは自分自身がグランの力では強くなれぬ事を聞かされている為、アステリオスを恨めしそうに見るのであった。
「そうでもないさ。
全てとは言っても壊せるのは生き物限定だからな。
魔物相手には強くても、武器や防具を扱う生物が相手なら然程意味は無いし、雷火はマナの消費が激しい。
それに、以前は出来ていた禅火や雷魔法の遠距離操作も出来なくなったしな」
大抵の場合、アステリオスの力があれば能力など使わずとも敵に当たれば大ダメージを与えられるのだから、確かに防具を装備するようなか弱い生物相手にこの力はそれほど意味は無いのかも知れない。
その力と引き換えに魔法の遠距離操作能力を失ったのだから、確かに手放しで喜べる状態ではないのかも・・・カナタがそんな事を思っていると、グランが茶々を入れる。
「前にも言ったろ?俺の力で強くなるには、才能と努力と運と運が必要だって。
アスティーは普段から自分を鍛え続けてたからこの力をーーー」
「ってるよ、うっせぇな!
ーーーまっ、いいさ。
どうせ俺は物質変化の修練で忙しくて新しい能力なんか手に入れても構ってやれねぇしな。
にしても、アスっちの力ってやっぱロキと関係あんのかな?
ロキの奴には物理攻撃が殆ど効かなかっただろ?」
「あるだろうな。アスティーは強い怒りでミノタウロスの力を受け入れただろ?
それと一緒で、ロキをぶっ飛ばしてぇって強い思いがあったから、そんな事が出来る力と融合出来たんだろうな。
それよりカナタ、この鞭の双剣はそんなにカッコよくねぇ。
別の武器に変えてくれよ」
「おっ、そうだった!さっきの岩蛙との戦いを見てても微妙だったし、俺も言おうと思ってたんだ。
物質変形の時とは違って、物の状態まで変化させられるようになったから試してみたんだが、やっぱ鞭みてぇにフニャフニャした双剣ってのは見た目が良くねぇ」
カナタは物質変形が強化されたことで名を変えた物質変化という力の修練を日課としており、その際、修練の一つとして様々な素材を使いグランの双剣を作っている。
物の状態を変えるとはつまり、鉄を水のように変化させたり、霧のように霧散させたり、ゴムのように伸縮性を持たせることも可能だということ。
その特性を活かし、実に様々な武器を作り出しグランに持たせている。
自身の体を使って戦うのが得意なグランではあるが弱い魔物と戦う際、ハンデとして双剣を使うことにしているのだ。
その理由は単純明快、双剣がカッコ良いから。
カナタの着せ替え遊びに付き合っている内に、グラン自身も双剣という武器の格好良さに惹かれるようになっていた。
故に、グランが双剣に求めるのは見てくれの良さと耐久性のみだ。
カナタは妖精ソフィーより受け取った宝巾着に手を入れると、昨晩作ったばかりの新作を取り出した。
「なら、次はこいつを使ってみてくれ。
素材は飛竜の骨。刃の周りに風魔法を纏っているかのように飛竜の骨を煙っぽくして竜巻状に纏わせてみた。
名付けて“砂塵”。
どうだカッコいいだろ!?」
「おおおおお!!!久しぶりにカッコいいやつ見たぞ!!
すげぇ!!」
「ただ難点があるんだ。
刃の周りに纏わせた竜巻は、飛竜の骨を煙にした物だ。
故にそのままだと剣を振った時、竜巻を置き去りにして霧散させちまう。
そうならないように俺はどうしたかーーーー?
ふっふっふ、教えてやろう。
答えは刃に竜巻を固定した、だ!
簡単に言うとだな、竜巻が邪魔で刃の部分が敵に届かねぇ。
つまりそれは最早、剣じゃねぇ。
竜巻型の鈍器だ」
「ええええええええええ・・・」
能力の修練は順調に進んでいるが、カナタの双剣作りは近頃迷走していた。
*******
賑わいを見せる死の穴入り口の仮設住居。
建物の数は増え、周囲には魔物避けの柵が張り巡らされ、それは既に仮設の住居では無く、大きな村と化していた。
王都バロンより流れた大量の難民の為に作られる家は日に日に増え、それらはこの一ヶ月ほどで迷宮入り口の元駐屯地と、ティキ村を繋げてしまったのだ。
元より死の穴への中継地として存在したティキ村は、王都バロンのあった土地から距離を置くように、そして駐屯地だった場所からは、少しでも安定した生活を送れるようにと、元々村として存在していたティキ村へ向けて集落を広げたのだった。
多くの怪我人が回復し、騎士団や冒険者達の活躍もあり、生活水準は日に日に高くなっている。
時が経ち、国外にも王都バロン崩壊の報が伝わったのか、ティキ村と駐屯地を合わせたこの土地には、周囲の国にて救援クエストを受けた多くの冒険者達が集結しつつあった。
そんな賑わいを見せるこの村の外れにて、悲鳴にも似た騒めきが沸き起こっている。
その理由の一つが、ミアと六獣騎士の存在。
国が危機に瀕した時に現れる救世主だと言い伝えられる聖獣、それはつまり平和の象徴と言える存在であった。
穢れを祓うように美しく伸びる白い髪、まだ幼さを残しつつも何処か大人びた輝きを放つ紫紺の瞳。
必要に応じて姿を変える霊装カフヴァールが、所謂、正装へと姿を変え、少女を品良く着飾っている。
そしてミアの前を歩く屈強な片腕の男と背後を扇型に囲むように歩く小さな三体の妖精猫族。
彼等も又、騎士としての正装に身を包み、進む度に惜しみない歓声が巻き起こっているのだ。
「姫は中でお待ちですぞ」
そんな五人の前に現れたのは、無骨な木の杖を持った妖精猫族の老人。
元六獣騎士のロウレンだ。
ロウレンは背後に聳える大木を見上げると、急かす様にゼノス達を案内する。
大木には幾つもの窓があり、中を住居として使っているであろう事は、この土地に来た事がない者でも分かるだろう。
ロウレンはその大木のタワーの最上階に設けられた大広間に、ゼノス達を案内した。
「アオイ殿も既に」
そして大広間への扉を開ける直前、ロウレンは誰に向けてか、そんな事を小さく呟くと杖で軽くノックして木の扉を押し開けた。




