五十七、走れレオル
今回短いです。
一緒に来いーーー。
それはつまりレオルの力を間近で観察し、それでも尚、自分の力が優れている。
そう考えているからこそ出た言葉なのだろう。
レオルも言葉の意味を理解し、目の前に現れたフロウという男だけが放つ別次元の異彩を、肌で感じ取っていた。
そしてこの場に近づく見知った気配が一つーーー。
フロウの異質性と同時にそれを背後に感じ取ったレオルは、振り向くことなく叫んだ。
「ゼノス!!来るな!!」
異変を感知し、全速力でレオルの元へ駆け付けていたゼノス。
雷を纏う戦士のその姿をフロウの目が捉えた。
「ゼノス・・・、そうか、アレがレオルの右腕の・・・」
何かを考えるように呟くフロウやレオルの制止の声を他所に、ゼノスはレオルの背後へ一緒で現れ、目の前の三人を見る。
「誰だーーー、此奴等は?」
「魔王級神徒フロウと手下二人だ」
「フロウだとーーー!?
此奴が・・・・。
いや、それよりこいつを含めもう一人真神教が居ると言うのか!?
それが分かっているなら何故さっきーーーっ!」
先程レオルから真神教の神徒が二人現れたと聞かされていたゼノスは、その内の一人がフロウだと聞かされ驚愕していた。
正体こそ不明のままではあるが、フロウの名と魔王級と噂されるその実力と危険性は世界的に見ても有名なものだからだ。
その魔王級神徒のフロウが、大量の魔物の軍勢やレオルの天獅子を無効化したであろう蛇を操るほどの手下を二人連れて現れたというのに、それに加えもう一人の神徒まで居るとなれば不利などという言葉では到底足りぬ程、手のつけようが無い事態に追い込まれていることになる。
それ程の事態に陥っていることを何故さっき自分に話さなかったのかとゼノスはレオルを見る。
「いや、俺が言った神徒と言うのはあの手下二人のことでフロウでは無い。
会話を聞くにあの手下二人は恐らく別の神徒の部下だろうが、俺はさっきまで奴等二人を神徒だと勘違いしていたのだ」
「しかし、ならばやはり神徒はもう一人居ることになる・・・。
状況が最悪なことに変わりは無いな。
それと・・あの蛇が天獅子を無効化したと考えていいのか?」
「ああ・・・、あれは俺の熱を食って巨大化した蛇。
容易に力は使えん状況で、あの女は触った物全てを腐らせる力がある」
「力が使えん上に全てを腐らせる女・・・?
それだけで厄介が過ぎるがーーー、肝心のフロウの力は?」
まだ見ていない、レオルがそう答えようとした時、フロウが静かに口を開く。
「俺が力を見せていれば、レオルは今お前と会話していない。
それより副官ゼノス、貴様はレオル王の言葉が聞こえなかったのか?」
「なっーーーー!?」
それは一瞬だった。
たった今、レオルの横で目の前のフロウと対峙していた筈のゼノスが、突如としてレオルの視界の中に現れたのだ。
レオルは一瞬たりともフロウから目を離してはいない。
ゼノスが動いた気配を感じてもいない。
にも関わらず、変わらず佇むフロウのその左腕にはゼノスが抱えられている。
レオルは咄嗟に先程までゼノスが立っていた己の右隣を見るが、やはり其処にゼノスの姿はなく、フロウに抱えられたまま動かないゼノスに視線を戻すと、警戒の色を強めてフロウを睨みつけた。
「貴様・・・、ゼノスに何をした?」
「安心しろ、まだ生かしてある。
それよりレオル王、一つ俺と賭けをしないか?」
「賭け・・だと?」
「こちらの事情で悪いんだが、今お前を連れ去っても俺はどの道、穴倉に篭って遊んでる馬鹿を待つ必要がある。
だからこうしよう。
俺は今からこいつを抱えてバロン城の最上階へ行きお前を待つ。
あの馬鹿が戻って来るより先に俺の元に到達出来れば、お前の勝ちだレオル王。
そうなればゼノスの命は助けてやるし、クリスタルも諦めよう」
「ここまで入念に計画を進めたお前達がバロンから手を引くだと?
到達信じられんが・・・、どの道、貴様を倒さねばバロンに未来は無い。
その勝負は受けて立とう。
だが、ゼノスは置いて行け。
人質など無くとも俺は王として必ず貴様を殺しに行く」
「嘘でなないだろうが・・却下だ。
こいつが居れば周囲の魔物を倒す速度は単純に考えて倍になる。
それでは賭けの意味がないからな。
それと、お前達は少し離れて魔物の群れに隠れていろ。レオルが強い炎を使えんよう蛇だけを嗾けていればそれでいい。
ーーーーでは健闘を祈る、レオル王」
フロウはそう言い残すと、ゼノスを抱えたまま振り返り、魔物達の群れの中に姿を消した。
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フロウが姿を消した後、その指示通りザルとモウルは魔物の群れの中に姿を眩ませた。
大量の魔物の群れと巨大なマグマの蛇、ヨルムンガンドの強襲によりレオルは力を使えず、次第に疲弊して行く。
何よりも厄介なのはやはり巨大なマグマの蛇ヨルムンガンド。
力を抑えられるだけでは無く、単純にその巨体を振るうだけでこの上ない大破壊を巻き起こすその攻撃力、そしてヨルムンガンドが一つの生物では無く、単なるザルの尻尾なのだという事実が、レオルを追い詰めていた。
長さ数キロメートル、太さ数十メートル。横たわった胴体はマグマの川にしか見えないその巨体にも関わらず、攻撃しようと傷は忽ち塞がり、例え頭部を斬り落とそうと、実際にはザルの尻尾の先端を切り落としたに過ぎず、ヨルムンガンドが動きを止めることは無い。
少し経てば短くなった尻の先端にまた新たな頭部が形成され、斬り落とされた頭部を喰らい元通りになるだけだ。
レオルの力を以ってすれば、炎の力が無くともヨルムンガンドの身体を両断することはまだ可能であるが、頭部の復活を見たレオルは最も厄介なヨルムンガンドの討伐を諦め、周囲の魔物へ向かい合う。
「やはり本体を仕留めねばならんか」
尻尾を操るザルは魔物達とヨルムンガンド、そしてモウルによって守られ、容易に近づくことは出来ない。
レオルは己の剣技のみを使い、万を超える魔物との戦いに臨む。
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