五十五、戦慄のバロン
カナタ達が死の穴最下層を目指し中層を過ぎた頃、死の穴の入り口を封鎖するように設けられた兵たちの駐屯所にて、ある異変が起きていた。
「ロウレン殿が居られない?」
駐屯所にて待機するゼノスの元へやって来たのは三番大隊所属、第十三師団副師団長モモ。
この第十三師団の師団長を務めるロウレンの副官である。
元六獣騎士でありレオル王の父、オウガが王を務めた時代からバロンに仕える重鎮でもあるロウレン。
教育係として若き日のゼノスやレオルを育てた師でもあるロウレンが、この非常時に姿を消すという事態に、モモは混乱していた。
「はっ、はい!もしロウレン様の身に何かあれば私はーーーー!!」
「落ち着くのだ。六獣騎士の力を失えどロウレン殿は強い。
それはお前もよく知っているであろう」
「ですが・・・」
「ロウレン殿のことだ、何か思惑があるに違いない。
この事は周囲には漏らさず黙っていろ。
良いな?」
「・・・・はい」
「ハァ、ハァ、ーーー失礼致します!至急ゼノス様にお伝えしたいことが!!」
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「そうか・・・、良くやってくれたな、ロウレン」
「ヒャヒャ、何のこれしき。しかしこれでバロンは崩壊する事になる。
覚悟は良いかにゃ?」
「・・・ああ」
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「なんだ?」
「レオル王よりゼノス様に帰還命令が出されております」
足を踏み入れたバロン騎士の手には巻物が握られており、割印のような形で小さな魔法陣が描かれ封が施されている。
巻物はゼノスのマナに反応すると光を放出して消え、それを開いたゼノスは巻物を読むなり立ち上がった。
「モモ、直ちに兵を結集させよ。俺はバロンへ帰還する」
「如何されたのですか!?バロンに何がーーー」
「バロン周辺に大量の魔物が発生したそうだ。
現在バロンは囲まれ、冒険者ギルドには緊急クエストが発令されている」
「そんなーーー!?死の穴は私達が見張っているのに・・・」
「恐らく、例の二人組が予め魔物を森に集めて隠していたんだろう。
死の穴最下層付近の魔物が多数目撃されている。
それより急ぐのだ。
緊急クエストが発令されているとは言え、バロンの高ランク冒険者の多くは死の穴へ出向いている。
それに、予め魔物を準備させていたのなら、かなり長期間に渡って練られた計画と言うこと・・・。
恐らくこれだけでは終わらんぞ」
********
王都バロン。
現在、押し寄せる魔物達により町を守る障壁や外壁が突破され、大破壊が巻き起こっていた。
「急げ!!早くバロンから出るんだ!!」
そんな中、バロン騎士や緊急クエストを受けた冒険者達が、未だに残る住民を避難させるべく声を荒げている。
「だ、だが家を守らねば・・・!」
「テメェの家なんか知るか馬鹿!いいから逃げろ!」
目の前に迫る危険から自分達の町を、家を、財産を守ろうとする者達や、悲鳴を上げて逃げ惑う者。
逸れた家族を捜し求め彷徨う者。
突如として起こった魔物の襲来により、バロンは混乱に包まれ、阿鼻叫喚が沸き起こっていた。
「急げ急げ!!早くバロンの外へ逃げるんだ!」
「ったく、ギルドは何考えてやがんだ!?
王都を捨てて魔物が溢れる森へ住民を避難させて如何するつもりだよ!?
どう考えても王都に残って闘うべきじゃねぇか!!」
「知るかよ!いいから早く住民連れて俺らも逃げるんだ!!
あんな化け物みてぇな魔物と戦っても絶対に勝てねえ。
なら一か八か逃げるしかねぇだろうが!!」
バロンに残った冒険者達に発令された緊急クエストは、バロン騎士と共に全住民をバロンの外へ避難させ、護衛すること。
早々に王都を捨て、逃げるという方針に多くの冒険者や住民から疑問の声が上がっていた。
「おい、お前ら!!騎士なら魔物と戦えよ!!
バロンを守るのが仕事なんじゃねえのか!?」
「そうだそうだ!バロンにはレオル王や六獣騎士が居るんだ!お前らも逃げずに戦え!!」
「うるさい、いいから命令に従え!!
住民を避難させると言うのは王命だ。従わぬ者の命は保証出来んぞ」
「なっーーー!?」
「横暴だぞ!!国を破壊する魔物とは戦わず、住民を攻撃する気か!?」
噴出する不満の声。
一部では住民を避難させる騎士に詰め寄り、任務を妨害する者まで現れていた。
そんな中、一人の冒険者が暴れる住民へ近づき、頭を鷲掴みにする。
「五月蝿えよ、馬鹿が。
雑魚は黙って逃げやがれ。さもねぇと俺がこの場で殺す」
馬面の冒険者は背の剣に手を掛けて住民の妖精猫族を持ち上げ、投げ捨てる。
「あ・・・、馬糞の・・・ホス?」
「おい・・・、今何つった?」
Cランク冒険者であるホスが背中の剣に手を掛けて顔を痙攣らせ住民の男に詰め寄ると、男は震えて立ち上がり走り去ってしまう。
冒険者ギルドにてFランク冒険者にもなっていない青年に負けたことと、馬糞のホスと言うキャッチーな名により、ちょっとした有名人となっていたホス。
同時に広まっていた彼の気性の荒さが今回は役に立ったようで、ホスが声を荒げる度、避難に否定的な態度を見せる住民達は、次々と意見を変えて避難を始めた。
しかし、この広い王都全ての民をホス一人が避難させることは到底不可能。
そんな中、街中に声が響き渡る。
『儂は第十三師団長ロウレン。
バロンの民よ、聞いてくれ』
「ロウレン・・って、あのロウレン様か!?」
「この声は間違いない、元六獣騎士のロウレン様だ!」
「ロウレン様!?近くに居るなら魔物をどうにかして下さい!!俺は町を捨てて逃げるなんてーーー」
「馬鹿、聞こえねぇよ!!いいから黙って聞け!!」
ロウレンの声を聞き様々な声が上がる中、ロウレンは続ける。
『今、バロンは未曾有の危機に瀕しておる。
敵は大量の魔物、そしてーーーー真神教』
それを聞いた者達から大きな騒めきが起こる。
『真神教の目的はバロンそのものであり、敵は其処まで来て居る。
よってこの地が戦場になることは最早避けられん。
皆の家は焼かれ、砕かれることになる。
じゃがーーー、バロンにはレオル王が居る。
王は必ず、この地を救って下さるじゃろう。
じゃから皆は安心して避難していれば良い。
家ならまた作れば良い。財ならまた成せば良い。
そうして再び街を作れば良いのじゃ。
王からの言葉を伝える。
“我が名はレオル・A・レイフィールド。バロンの民よ、生きろ”
以上じゃ。
これからバロンは戦場となる。皆が残っていては王が本気で戦えぬでな。
一刻も早く逃げるのじゃ』
こうして、バロンから人影が消えることとなったーーー。
「助かったぞトト。
それにソフィアちゃんもな。二人も早く避難するのじゃぞ」
大きな魔法陣から光が失われ、その中心に立っていたロウレンはトト達に向けて言う。
「ホッホッホ、この程度で民の命が救われるなら安いものでございます。
ソフィアちゃん、行こうか」
「はぁい!ロウレンさん、またね!!」
「ヒョヒョ、ああ、またね」
*********
「ーーーそろそろか」
バロン城を取り囲む城壁、その最も高い位置に設置された見張り台に立つレオル。
レオルは腕を組み、返り血を浴びた鬣を風に靡かせ、誰も居なくなったバロンに攻め入る敵を見下ろしていた。
「待たせたな」
そこへ現れたのはゼノス。
森へ逃げた者達の護衛をモモ達に任せ、全速力で王の元へ駆け付けていた。
「ゼノスーーー、敵の姿は見たか?」
「魔物達に混ざった黒いマントを羽織った奴等は恐らく信徒だろうが、それ以外にも獣人や妖精猫族も居る。
だが、あれはもう手遅れだろうな・・・。操られるだけでは無く、見た目もかなり変わっていた」
「そうか・・・。殺したくはないが状況が状況だけに止むを得まい。
率先して殺す必要は無いが、いざとなったら躊躇はするな。
行くぞ」
二人はその場から姿を消した。
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群雄割拠する魔物達のど真ん中へ突然現れるゼノス。
人影の消えたバロンに現れた標的へ、魔物達が群れを成して襲い掛かった。
ゼノスは静かに背の大剣を抜き放つと、それを天へ掲げ唱える。
「雷滅ノ太刀」
するとその瞬間、起こった落雷によりゼノスは包まれ、手に持った大剣は雷のような形に変貌を遂げると、放電を起こしつつ揺らめき始める。
そしてその剣を振り抜いた瞬間、極大の雷が幾重にも分かれて横方向へ向けて走り抜け、周囲の魔物達へ襲い掛かった。
稲びく光は魔物や黒いフードを被った者達を貫き焦がし、再び近くの生物へ襲い掛かる。
その一太刀によって放たれた雷は稲光が消える迄の刹那にて、優に百を超える生物を絶命させていた。
「幹部は居ないか・・・」
ゼノスは次なる魔物の群れへ向けて姿を消した。
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「体毛が蛇の阿修羅大猿に、頭が二十七つのヒュドラ、八本足のケルベロス、黒い火喰鳥・・・、これが例の二人組の力か」
レオルが降り立った場所には、特に危険な雰囲気を纏う魔物達が居た。
その中には、死の穴にてネオ達が苦戦したのと同じような姿のヒュドラもおり、三体の魔物の背後には、黒いマントを羽織った銀髪の女が立っている。
頬が痩けている細身の女は、長い前髪から覗かせた目でレオルを見ると、高く震える声で言った。
「ああ・・あ貴方がが・・レレ、レオルルル・・・かかしらら?」
「如何にも。うぬは真神教か?」
「そ、そそそそうねねね。わわわたしはは、しし神徒・・モモモウルルル・・ちち違ううう、モモモモウルルル・・・・・モモモモモモ・・モウルルルルル・・・・モモモモモモモモモモモモウウウウウウウウウウァァアアアアアアアア!!!!
ななな名前ががが・・・いい言えないいい!!!
モモモウルルルル・・・ちち違ううう、モウウウルルル・・・ちちちち違うウウウウウウウウウウ!!!」
「ふむ、真神教神徒モウルだな。
バロンに何の用だ?」
「そ・・・・そそうねね。わわ私ははは、モモウルル・・・だわわわ。
クククリスタルルルををささ探しにににきき来たののの。
し、しし知らないいいいい?」
「クリスタル?知らんな」
「ししし知らないいいののの?レレレオルルルなななのににに?」
「そうだ」
「・・・・・・・そそそううう。
せせせっかくくいいいい男こここだだだとととおお思ったたたのににに・・・、モモモモモウルルルにに、ううう、嘘そそそつつ吐くくんだだだ。
なななららら・・・・・、
死ねよ」
突然、口調の変わった神徒モウル。
その瞬間、ロキの力によって姿を変えた魔物達がレオルに襲い掛かる。
体毛が蛇の阿修羅大猿は木を飛び跳ねつつ高速で移動し、全身から生える長い蛇と六本の腕をレオルに向けた。
だがレオルはそれを気に止める様子も無く、モウルの様子を伺い、ゆっくりと歩みを進める。
「嘘?何故、嘘だと決めつける?」
そして阿修羅大猿がレオルに触れようとしたその時、阿修羅大猿の身体が突然、消滅してしまう。
指先や蛇のような体毛の先端、レオルに近い部分から消滅して消え去ってしまうのだ。
一瞬で起きたその現象は、阿修羅大猿の体毛や腕、脚や胴体、などというより、阿修羅大猿の前面全てを深く消滅させ、その存在のほぼ全てを一瞬で消し去ってしまった。
地面に落ちる残った体の一部も、レオルの歩みに合わせ消え去ってしまい、その後ろからレオルに襲い掛かっていたヒュドラと八本足のケルベロス、黒い炎で体を包まれた火喰い鳥も又、レオルに近づくなり消滅して消え去ってしまう。
一体でも国の近くに現れれば、国を挙げて討伐部隊が差し向けられるであろう凶悪な魔物達が、近づいただけでその存在を消されてしまったーーー。
モウルは前髪の隙間に見える目を丸くさせ、少しずつ後退りする。
「どうした、俺を殺すんじゃなかったのか?
何処へ行く気だ」
一歩、また一歩、レオル王が進む度にモウルも後退る。
「何か答えたらどうだ?
俺がクリスタルを知らぬと何故嘘になる?
この国にそのような物があるなどという嘘を一体、誰に吹き込まれたのだ?」
「くく来るななな・・・くく、来るなァァァアア!!!!」
「会話が成立せんな・・・。
もう良い、俺は忙しいのでな」
レオルが脚を進めると同時、モウルは脚を引っ掛け尻餅をつく。
「なぁにやってくれてんだよぉ、オリの相棒にさぁ」
その時、レオルの背後から軽い声が聞こえる。
黒いマントを羽織った男は、細い棒を持った猿の様な見た目の男。
「嫌がってんだろぉ?」
「ザル!」
猿の様な男の姿を見るなり、顔を上げて別人のような明るい声を発するモウル。
「バロンに攻め入って来て攻撃を止めろとは随分な言い様だな。貴様ら、バロンに何の用だ?」
「だぁからぁ、言ってんだろぉ?
クリスタルは何処だってさぁ」
「またそれか・・・、悪いが知らんな。
まあ良い。貴様らがバロンに攻撃を仕掛けた真神教ならば、俺が取るべき行動は一つ」
「やぁめとけよぉ。オリは殺せねぇぜぇ?」
レオルが脚を進めようとした時、ザルという男は左手を突き出して動き出そうとするレオルを制止させる。
「まぁ?オリもお前みてぇなバケモンは殺せねぇけどなぁ?カッカッカ。
けぇど、なんとなんと、オリら二人ならお前を殺せちゃうんだぜぇ?」
「そうか、ならば試してみるが良い」
「カッカッカ!やぁだよぉ。オリらは忙しいからなぁ、後で相手してやっから、其奴らと遊んでてくれやぁ」
ザルがレオルの足元を指差した時、地面に大きな亀裂が走り、レオル目掛けてマグマの様な体を持つ巨大な蛇が襲い掛かる。
地表に飛び出るその姿は、まるで火山が噴火したように立ち昇り、ザルとモウルの姿を隠してしまう。
レオルは腰に挿した剣で瞬時にマグマ蛇の頭を切り落とすが、その時既に二人の姿は消えていた。
雷使いが多いのには、やんごとなき事情が・・・
もうちょっと進むと特級魔法の方も沢山出て来ると思います。




