五十四、目覚め
本日、三度目となる不落之果実の発動。
霊核の増加により如実に現れる、能力の強化。
カナタは脳内に響いた鐘の音により、三度目の発動が可能であることを確信していた。
普段であれば三度目の発動による揺り返しがどうなるのか不安に思っている所であろうが、カナタは今、ある不測の事態に見舞われており、揺り返しのことなどすっかり頭から消え失せ混乱している。
なんと、吐息の軌道上で固まっているロキの右半身へ、グランの放った吐息が直撃したのだ。
カナタ以外の全てが止まる筈の世界で、直進を続けたグランの放った叛逆之吐息。
それは固まったロキを捉えたままウィンザー広場の天井に打つかるまで進み続け、漸く消える。
(この世界の中で動き続けた・・・?
さっきのはグランの言ってた無属性の吐息だろうが・・・。
あれが不落之果実の中で動き続けたなら、何でグランは動いてねぇんだ?
グランは光属性と闇属性を合わせた無属性の闘気を纏ってた筈・・・。
そのお陰でロキの魔法を無効化してたんだから、不落之果実を無効化してもおかしくねぇはずだが・・・。
ロキの体に破壊されたような痕はねぇし、グランも動かねぇ。
無属性を使った攻撃が止まらねぇだけで他の法則は護られてるってことか・・・。
何にしても、ロキがあんな高え場所に居るんじゃ俺にはどうしようも無い。
グランの攻撃が通用するのを願うしかないが・・・・)
仮にダメージを与えたとしても、また再生されれば意味は無い。
そんなことを考えていると、カナタの視界の端から中心に向けて色が戻り、世界が再び動きを取り戻す。
グランは自らが発した攻撃が突然消え、目の前に居た筈のロキが広場の天井に激突していることで一瞬戸惑いを浮かべるが、カナタが何かしたのだろうと飲み込み、傷の再生に努める。
マナの残量から言って全身の傷を全快させることは難しいだろう。
天井で右半身を失いウィンザー広場へ堕ちるロキが再び動き出さぬことを願いつつ、周囲の状況を確認する。
「・・・カナタ?」
突然上から聞こえた衝撃音に皆が驚き半身を失ったロキを目で追う中、カナタはただ一人それに反応することなく、額を打ち付けたのか、うつ伏せで頭から血を流し倒れている。
直ぐにニケも異常に気付いてカナタの元へ駆け寄り体を揺さぶるが、カナタからの返答は無く、その様子を近くで観察するニケの表情が次第に凍り付いて行く。
グランは最悪の事態を想像するも、ニケの視線がカナタでは無い別の方へ向けられた事で、起きている事態に気が付いた。
「あははぁ・・・またまたやられちゃったよ」
傷を再生させ立ち上がったロキの気配が、今までとは違うーーー。
グランは咄嗟に気配の元凶を見る。
「・・・・お前・・・何なんだ?」
其処には、闇が居た。
全てが漆黒に包まれ、黒く染まる闇。
「エキドナ・・・、
そろそろ行こうか」
戦うエキドナは人型に戻ると、直ぐさまアステリオス達を振り切りロキの背後へ現れる。
闇は口が裂けたかの如く口角を上げて笑うと、ゆっくりと両手を広げた。
「残念だけど時間だ。ーーー【黄泉國】」
魂を喰らい尽くす闇が放たれるーーーーー。
だが今回、その闇がこの場の者へ降りかかることは無かった。
ロキの前に立ちはだかったのは、白髪の小さな少女。
放たれた闇は少女が立ちはだかった瞬間、霧散して消えてしまう。
「・・・・そうか、聖獣には絶対的な闇への耐性があるんだったね」
倒れるカナタも、アステリオスもレオ達も、グランも。
その光景を前に、誰一人として声を発する者は居ない。
聖獣が居なければ確実に死んでいたという恐怖からか、つい先程まで魔獣だった少女の所作の美しさのためか。
ロキを見据え構える少女を見て、全員が押し黙り、息を飲んだ。
「はぁ・・。
まあいいか、今回は見逃してあげるよ。
これ以上マナを使わされると後に響きそうだ。
遺産も聖獣も何れ僕が貰いに来る。
だからそれまでに精々強くなっててよ」
ロキはそう言うと空中へ掌を翳し、魔法陣を浮き上がらせる。
直後、ロキはエキドナと共に闇に包まれ姿を消したーーーー。
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蒼井 奏多
特級魔法
不落之果実
物質変化
加護
言霊の加護
装備
不折剣
鱗の鎧
持ち物
宝巾着
趣味・特技
料理、見たことが無いものの鑑定、珍しい石や素材の収集、細かな作業全般、妄想
好きな食べ物
ギリル鳥と山菜のスープ、針千牛の生レバー、魚全般、肉全般
嫌いな食べ物
虫全般
ーーーーーー
グラン・イプシロン
種族 血聖竜鬼
特級魔法
血族之王
加護
賢者の加護
烈火の加護
疾風の加護
特筆すべき種族スキル
高速再生
血液操作
血竜鋼牙
竜之吐息
竜鋼鱗
竜鋼爪
竜化ーー部分竜化ーー流動竜化
無属性《聖魔混合》
趣味・特技
トレーニング、狩猟、果実の鑑定、異世界しりとり、極夜鋼探し
好きな食べ物・最近ハマってる料理
針千牛のステーキ〜リィムソースと共に、肉全般、虫全般
嫌いな食べ物
苦味の強い山菜
ーーーーー
アステリオス
種族
不禅夜叉
特級魔法
不破雷火
ーーーーー
レオ
獅子の妖精猫族
特級魔法
獅子舞闘
加護
火の加護
火精霊の加護
光妖精の加護
ーーーー
ニケ
妖仙猫の妖精猫族
特級魔法
大地の化身
加護
聖光精霊の加護
大地精霊の加護
火精霊の加護
水精霊の加護
風精霊の加護
ーーー
ネオ
雲豹の妖精猫族
特級魔法
風雲童子
加護
風精霊の加護
氷精霊の加護
雷精霊の加護
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ロキが姿を消してから丸一日。
カナタは激しい揺れに見舞われ目を覚ました。
「・・・・はっ!どうなってーーー!?痛ーーっ」
体を酷使し過ぎたせいか、この寝苦しさのせいか、体が軋んで全身に広がる痛みを感じたカナタは、自分が誰かの背中に背負われていることに気が付く。
「目が覚めたようだな」
大きな背中に見覚えのある黒い角。
「アステリオス・・・?
そうだ、アレからどうなった!?ロキは!?美少女はーーーー!」
カナタは咄嗟に首を振り情報を得ようとする。
まず、目に入ったのはボコボコとした岩盤の壁。
迷宮の中のようだが、少なくとも百六階層と九十九階層ではないらしい。
そして周囲には、グラン、ニケ、ネオ、レオ、そして美少女の姿が。
「ぬぅおおおお!!居た!!」
「そんなに痛いのですか?ニケが治してあげるのです!」
「違う!!確かに体は痛いけど、そうじゃなくて居た!だ!
それよりロキは!?エキドナはどうなった!?あれからどんくらい経った!?」
「起きた途端騒がしい奴だ。・・まあ仕方がないがな。順に説明してやるから落ち着け。
レオ、一度休憩にしよう。このまま焦って向かっても、こうも疲れ切っていては何も出来ん」
「・・・確かに仰る通りだ。
一度休憩にしましょう」
少女を除く全員が倒れ込むようにその場に崩れ、休息を取る。
その間、興奮するカナタを宥めるように、アステリオスが説明を始めた。
カナタが意識を失った後、ロキが姿を消したこと。
その際、重要な役目があるような口振りだったことから、バロンに向かったのではないかと言うこと。
クフトは何処かに姿を消したこと。
ロキ達を探すために結成されていた捜索隊は、中層を過ぎた頃から安全だと判断し別行動を取っていること。
現在、死の穴の四階層を走っており、バロンを目指していること。
カナタは自分が寝ていた間に起こったことを聞き、状況を把握して行く。
「なるほどな・・・。あんだけ殺されかけた後で丸一日走り続けたわけか。
そりゃこうなるはずだ」
バロントップクラスの騎士三人に、新たな高みへ達したグランとアステリオス。
少女を除く全員がらしくない格好で休憩している姿に納得したカナタは、宝巾着からマジックハニーを取り出して全員へ配る。
「これは・・・」
「マジックハニーだ。依頼の分を除けばこれが最後だから食っててくれ。
すぐに飯の準備してやるからな」
素人のくせに何処かの海賊船のコックのような台詞を吐くカナタ。
だが、全員が死に物狂いで戦い、此処まで自分を背負って走り続けてくれたのだ。
食事の支度くらいしなければ自分の存在価値が無くなり兼ねないと、宝巾着からマチェラと火起こし用の魔法陣を取り出し、手当たり次第に魔獣の肉を取り出して焼いて行く。
その中には大量のパラライズキャットの肉もあり、少女を見て気まずさを覚えたカナタだったが、当の本人は気にも止めていないようだ。
グランも喜んで竜を食べることから、あまり気にする必要はないのだろうと、カナタは一人で納得する。
「それでその時、聖獣様が飛び出して皆んなを守ってくれたのです!!」
「へぇええ、そりゃスゲェな!
ロキの闇でも通用しねぇのかよ」
「当然なのです!聖獣様は凄いのです!」
「にゃは〜、カッコよかったのにゃ!」
「ですです!それであのロキが、今回は見逃してやる、精々強くなれ。って気持ち悪い捨てゼリフを吐いて逃げやがったのです!
負け惜しみなのです!」
ロキとの戦いを振り返り興奮するニケとネオ。
グランは今か今かと焼ける肉を見ており、アステリオスは仲間の死を考えないようにしているのか、ニケ達の話を聞いて静かに笑ってはいるが、何処か寂しそうにも見え、レオは今回の自分の不甲斐なさを悔い、落ち込んでいる。
其々が様々な思いを募らせる中、黙って話を聞いていた少女が口を開いた。
「・・・違う」
「にゃは!?」
「聖獣様が・・・」
「初めて喋ったのです!」
丸一日、共に走り続け、誰とも一言も話さなかったという少女。
全員が話す余裕も無く走り続けていたのだから仕方がないのだろうが、その事にカナタは驚きを隠せない。
「初めてって・・・、誰か話し掛けてやれよ。
ーーーそれで、何が違うんだ?」
「・・・逃げてない」
一瞬、何のことか分からず話を遡って考えるカナタは、少し間を置いてから少女の言いたい事を理解した。
「逃げてねえってのは、ロキのことだよな?」
その問いに少女は何も言わずにただ頷き、肉を見ていたグランが突然、話に参加する。
「そいつの言う通りだ。ロキが本気なら俺達もそいつも一瞬で殺されてたな。
カナタが倒れた後のあいつは本気でヤバかった」
「俺が倒れる前も十分ヤバかったけどな・・・。何にしても、こうして俺たちが無事だったのは君のお陰みたいだ。ありがとな!」
カナタは少女の頭に手を置き軽く撫でてやる。
ニケの場合はこうすると恍惚の表情を見せるのだが、白い髪の少女は、驚いたように見開いた目でカナタを見ると、何も言わず固まってしまう。
同時に、聖獣様と崇める少女の頭に、素性の知れぬ黒髮一般人が気安く手を乗せるというあるまじき行為に、ニケが頬を膨らませ、レオの表情が引き攣ったように見えたことで、カナタは失敗したと内心落ち込みつつも、それを見せぬよう話題を逸らした。
「それよりさ、お前らずっとこの子のこと聖獣様って呼ぶ気なのか?
どう見ても獣じゃねぇのに聖獣様って、少なくとも俺の常識ではおかしいんだが、此処では普通なのか?」
カナタの思わぬ問いに、レオ達へ顔を見合わせ首を傾げる。
「知らないです!聖獣様は聖獣様なのです!」
「けど、初代聖獣様にはバロンって名があったんだろ?」
「確かに・・・」
「そうだにゃ」
「だけどバロン様以外の聖獣様の名前なんて聞いたことないのです」
「初代にしか名前が無い・・・?ニケが知らないだけじゃないのか?
兎に角、バロンじゃどうか知らんが、少なくとも俺は女の子のことを獣呼ばわりはしたくねぇ。
この子は俺達の命の恩人だぞ?
それにニケだって、ニケじゃなくて妖精猫族って呼ばれ続けんの嫌だろ?」
「確かに嫌なのです!ニケはニケなのです!」
「俺も賛成だな。名前ってのは付ける奴の想いが篭った大切なもんだ」
カナタが頑なだったことか、珍しくグランがいい事を言ったお陰か、レオ達も納得した様子を浮かべ、少女を見る。
「一理ありますが・・・」
「じゃあ何て呼べばいいにゃ?」
各々が少女を見て候補を考えるが、いい名前が思い付かなかったのか、直ぐに命名の案を出したカナタへ視線が集まった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミア」
「・・・ミア様にゃ?」
「・・・ミア様」
「ミア様・・なのです?」
「おお!!ミアか!その名前にはどんな意味があるんだ!?」
目を輝かせるグランに、カナタは頭をフルで回転させる。
名付けが想いの篭った大切なものだとグランが力説した後で、進化したばかり→生まれたて→子猫→ミャーミャー→ミヤ→ミアなどとは口が裂けても言うわけには行かないだろう。
「ミアってのは俺の国では、強く、気高く、美しいって意味と、幸せな人生って意味がある。
どうだ?」
「強く・・」
「気高く・・」
「美しい・・。完璧なのです!!」
「それに幸せってのもいいな!そんなに想いの篭った名前ならいいんじゃねぇか!?
流石カナタだ!」
「そうか、気に入ってくれたなら良かった。
そういう事なんだが、それで良いか?ーーーミア。もし気に入らないなら別の名前にーーー」
「いい」
少女はカナタの言葉を遮り、食い気味に首を縦に振って見せる。
「いいってのは・・・」
「・・ミアでいい」
もう一度、首を縦に振ってそう答える少女。
こうして少女は、ミアと名付けられることとなった。
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ミア
種族
白雷牙猫の妖精猫族
特級魔法
白雷絶唱
加護
聖獣の加護ーー闇無効、人型妖精
神聖精霊の加護
雷轟精霊の加護
装備
霊槍ブリューナク
霊装カフヴァール




