↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
バロン王国と死の穴
40/72

四十、バロンの危機

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。




「ラミス・・貴様、どういうつもりだ?」


 杖を突き付けられたゼノスは顔だけを背後に向け、紅く発光する杖の先を見る。

 バロンが誇る六獣騎士副長のゼノスに、同じ六獣騎士であるラミスが攻撃を仕掛けようとしている。あってはならぬその光景を前に皆が眼を見開き言葉を失う。


「ラミス様ーー、いっ、一体どういうおつもりですか!?ゼノス様やロウレン様が真神教の神徒などということ、あり得るはずがーーー」


「落ち着きなさいレオ。勿論、ゼノスは真神教ではありません。

 私は目の前の真神教に止まりなさいと言ったまでです」


 しかし、ラミスが杖を向けるのは誰がどう見てもゼノスともと六獣騎士であるロウレン。

 カナタと迷宮の入り口にて交わした会話を把握出来ている以上、二人組が魔法で姿を変えているとは考え難い。ゼノスは溜息を吐くとラミスを窘め、カナタへ弁明を求めるように話を振る。


「冗談はよせ、ラミス。今は例の二人組の発見と聖獣の保護が最優先事項。

 遊んでいる場合ではないぞ。

 アオイ、俺と迷宮入り口の屯所で話したのは覚えているな?」


「ラミスさん、俺は確かに迷宮の入り口でゼノスさんと話しをした。冒険者ギルドでの依頼についての話だったんだけど、さっきゼノスさんはそのことを知ってたんだよ」


「それがどうしたというのでしょう?目の前の二人は間違い無くゼノスとロウレンではありません」


「ラミス、言ったはずだぞ・・・、今は遊んでいる場合では無いとな・・・。何の根拠があって俺の邪魔をする?

 状況が状況だ。答えによっては、国に対する反乱と見なすぞ」


 ゼノスは怒気を込めて言うが、ラミスの杖に宿る光は収まるどころか更に強く発光する。


「根拠?私にその程度の変身魔法が見破れない筈がないでしょう。

 それだけで十分な根拠ですが・・・、いいでしょう。レオ達にも分かるように説明して差し上げます。

 ゼノスが聖獣様のことを“聖獣”などと呼ぶことはあり得ません。それが理由でよろしいですね?レオ」


「確かに、以前ゼノス様が聖獣様と呼称しているのを聞いた覚えはありますが・・・」


「そんなものは単に急いでいたからに過ぎん。それにまだ本物かも分からんような状態だぞ」


「そうですか・・・、ならば、ネオがもう直ぐレオル様と共に此処へやって来ることは知っていましたか?」


「何・・・?ネオがレオル様と此処へ・・・?貴様、何を言っている?

 レオル王がバロンを放棄してこんな場所まで来ると言うのか!?」


「あら?何を焦っているのですか?」


「当然だろう!多くの騎士が此処や屯所に出払っている今、レオル王がバロンを離れれば国を守る者が居なくなるのだぞ!?

 そんな判断をレオル王が下す訳が無かろう!状態も休み休み言え」


 レオル王の性格を知り尽くすゼノスだからこそ言える台詞である。

 周囲の騎士達は自信満々でレオル王のことを語るゼノスを見て、一安心したような様子を浮かべているが、レオやニケ、それにカナタ達はゼノスに向ける眼の色を変えた。


「レオもニケも分かりましたね?」


「ハッ」


「ハイなのです」


「貴様ら・・何を言っている?」


 ラミスはその問いには答えず、視線をゼノス達へ向けたまま言った。




「ネオ、闘いの準備を」




「ハイなのにゃ」


 ポルトスがそう言うと、次第にその体は縮み、豹柄の体毛が生え揃う。

 妖精猫族であるネオは本気で闘いに備えるべくして、本来の姿を現したーーー。





 *********





「お前はーーー、そういうことか」


 ポルトスの姿がネオへ変わったのを確認した時、ゼノスの表情が曇る。

 もしゼノスが本物であれば、ポルトスの正体を知らない訳がない。

 ネオがこの場に居ると分かっているのであれば、ネオがレオルとこの場へ向かっていると聞いても取り乱したりはしないだろう。

 これにより目の前のゼノスが偽物であると理解したレオ達は武器を抜き放ち構える。


 六獣騎士四人にカナタとグランに囲まれるゼノスの姿をした者は、表情を崩し、醜悪な笑顔を浮かべた。

 精悍なゼノスの顔は見る見る歪み、目は三日月のように垂れ、口は三日月のように、不気味に吊り上がる。



「あはぁ、バレちゃったかぁ」



 それを見たカナタは、まるで黒い靄に包まれるような感覚に陥り、グランや、周囲でその状況を見守っていた騎士達や冒険者達も同じ感覚を覚えたのか、咄嗟に身構える。


「そんなに緊張しなくてもいいじゃないかぁ。六獣騎士ラミスがこんなに近くで杖を構えてるんだから何も出来やしないさ。

 ロウレン・・じゃなくてエキドナ。お前も戻っていいぞ」


 ゼノスが縮んで灰色髪の少年の姿が露わになると、少年はロウレンの姿をした者へそう指示する。

 すると背の小さな妖精猫族の老人の姿は見る見る大きくなり、赤い髪の女へと変貌を遂げた。

 エキドナと呼ばれた女はガルーの情報通り太い尾の先や長い髪の先は蛇のようになっており、手足の末端付近には竜人族を思わせる鱗まである。


「ちょっ、ちょっと待て!お前がゼノスさんじゃねぇなら、何で俺とゼノスさんが上で話した内容を知ってた!?」


 少年が知るはずのない情報を知っていたことを不審に思い問い掛けるカナタに、少年はラミスの杖から目を離し、敵に囲まれていることなど忘れているかのような不敵な表情でカナタを見つめると、大きく口を裂くように笑う。


「あはぁ、確か君はーーー、超人的な治癒術だけが取り柄の人族の少年か。何故ってそりゃーーー」


 灰色髪の少年が答えようとした時、ラミスが口を開く。


「止まりなさい、ガルー。指一本でも動かせば命はありませんよ」


 ラミスがそう発した時、ニケはガルーに杖を向け、ネオは抜き放った双剣をガルーの首筋に当てた。

 ガルーはカナタとグランの背後にて背中の大剣に手を掛けたまま固まる。


「・・・えっ?ガルー・・・さん?」


 カナタが治癒能力を持つという嘘を知っているのは、カナタとグランを除けばポルトスとガルーのみ。

 状況から考えると、二人の何方かが灰色髪の少年に情報を流していた可能性が高い。

 それを裏付けるようにガルーは笑うと、カナタを無視してラミスに問う。


「ガハハハッ。バレちまったか・・!どうして分かった?」


「私は貴方が敵の内通者である可能性を最初から疑っていました。だからこそ、レオ達を見張りに付けることを許したのです。

 必ずアオイさんに再び接触してくるであろう貴方を監視するためにね」


「最初から?じゃあ、レオ達もその事を知ってて俺やグランの監視任務に?」


「そうにゃ!ラミス様からその可能性を聞いてたから、ずっとガルーを監視してたのにゃ」


「ニケは師匠に聞く前からガルーは怪しいと思ってたです。石化したケンロイ達を連れて全員で死の穴から出ようとしてた時、ガルーは妙に焦ってたのです」


 探偵物の小説でも、名探偵ではなく迷探偵が言い出しそうな後出しの意見により自分の意見を述べるニケ。カナタはその意見に見解を示すことなく話を進める。


「じゃ、じゃあメイナさんやケンロイさんは!?あの二人もコイツらの協力者ってことか!?」


「ハハ、そいつぁ違えな。俺ゃ、犬猫団のリーダー、犬人族のガルーとして昔からあいつらを知ってる。そしてこれがーーーー」


 その時、ガルーの薄暗い毛色が漆黒に染まって行く。

 長い口には皺が増え、口からはみ出る牙は長くなり、元から筋肉質の身体が更に一回り大きくなる。


「動けば命は無いと言った筈ですよ?ネオ、やりなさい」


 ラミスの命を受けたネオは返事をするでも無く、両側からガルーの首に添えていた双剣に力を込める。


 だがーーー、


「金剛!!」


 ガルーがそう叫ぶと、ネオの双剣を押し返すように筋肉質の首が凝縮されて膨らみ、僅かに出来た双剣の隙を突いて、ガルーは体を捻ってネオへ拳を飛ばす。


 その拳は空を切るが、回避を選択したネオはガルーの肩から飛び上がり、後方へと着地する。

 着地したネオは相変わらず軽い表情を浮かべているものの、その実、その腹部は凄まじい衝撃波に襲われており、口には薄っすらと吐血の跡が滲んでいた。


「ったく、人の話は最後まで聞くもんだぜ?

 そしてこれが、あいつらも知らねぇ俺の本当の姿、人狼族のガルーだ」


 ガルーは、背の大剣を抜き放つと、それを頭上に掲げるとーーー、


「金剛と剛衝拳・・・、確かガルーは一つしか魔技が使えない筈なのにゃ」


「犬人族でBランク冒険者のガルーはな。俺は、人狼族のガルーだ」


 頭上に掲げた大剣を振り下ろすーーー。


「剛衝烈波斬!!」


 剣先から放たれる衝撃波、斬撃と打撃の性質を兼ね備えた巨大なそれは地面をえぐり取りつつ、真っ直ぐにカナタへ向かい進む。

 腹に空いた穴を瞬時に再生させてしまう能力者で、尚且つ戦闘能力は低い。

 カナタが先に狙われるのは自然な流れであった。


「大地の手(アースハンド)なのです」


 身構えるカナタとグラン。その隙間に、ニケの作った巨大な手が三本突き上がると、衝撃波を掴むように動きのしかかる。


 だが、ガルーの放った衝撃波は、ニケの作り出した三本の手を砕き、尚も突き進む。

 威力こそ衰えてはいるが、未だにカナタの命を押し潰すには十分すぎる力を備えて・・・。


「カナタ下がってろ!!」


 グランはカナタの目前へ躍り出ると、前方に向けて拳を振るう。

 先程、ガルーがネオに向けて使ったのと同様、衝撃波を前方に飛ばす魔技を使用したグランの拳からは小さな衝撃波が発生し、ニケの大地の手を壊し向ってくるそれにぶつかる。

 ニケの大地の手によって衰えていたお陰か、グランが意図的に威力を合わせたのか・・・、互いの衝撃波は相殺され、消滅した。


「ガッハハ、そう簡単にゃ始末出来ねぇか」


「なっ・・・、ほ・・本当に其奴らに情報を流してたのはガルーさん・・なのか?」


 付き合いこそ長くないが共に迷宮へ入り、寝食を共にしたガルーが。

 呆れたような顔をしつつもカナタを肩に担ぎ走ってくれたガルーが、気の良い冒険者だと思っていたあのガルーが、まさかずっと自分達の情報を二人組に流していたなどとは信じられないカナタだったが、迷わず自分を殺そうとするガルーを見てしまった以上、そう口に出さずにはいられなかった。


 ガルーは凶悪になった顔に皺を寄せ、白い牙を見せて笑うと、その疑問に答える。


「ガハハ、まあそう悲しそうな顔をすんじゃねえよ。俺ゃこれでも兄ちゃんとボウズにゃ感謝してんだぜ?」


「感謝・・?一体どういう・・」


「元々はロキ様の力で起こした森の異常を利用して、最終的にはバロンの六獣騎士をここへ誘き寄せる事が目的だったんだよ。

 それをどういう理由か、兄ちゃん達が都合良く六獣騎士を連れてティキ村に現れたもんで、計画が大幅に早まったっつぅ訳だ」


 ガルーが灰色髪の少年を指差してそう言うと、カナタへ振り返り、再び白い牙を見せ、六獣騎士を誘き寄せることが目的だったと聞いた瞬間、ラミスの持つ杖がピクリと動いた。


 森に異常を起こしたのが二人組の力であるというのは、迷宮にて見た上層を目指す魔獣達の様子から何と無く想像が付いていた。

 だが、六獣騎士を此処へ誘き寄せる事が目的というのはーーー。

 そんな台詞を吐けるのは、自分達を凌駕する力を持つ者のみ。

 そして、バロンの守護者達を殺そうと行動する者達の目的、考えられるのはただ一つ。


「そうですか・・・。バロンに戦争を仕掛ける気なのであれば、私としても好都合です。

 此処であれば、国や民を傷付ける事なくバロンの敵を屠る事が出来ますから」


 二人組の捕縛を第一の目標としていたラミスであったが、目の前の者達がバロンに仇なす敵だと分かった以上、そして二人組が此処まで六獣騎士を誘き寄せるという作戦を実行するだけの実力者である以上、ラミスは捕縛という選択肢を捨てた。

 そして杖に籠るマナを高め何かを唱えようとした時、少年は醜悪な笑みを浮かべ言った。


「あれぇ・・いいのかなぁ?」


 ラミスは、このまま攻撃を加えるのか、少年から感じられる余裕の正体を探るのか逡巡した後、後者を選ぶ。


「どういうことでしょう?」


「僕が君達を此処に誘き寄せたのは何故だい?そうだ、ーーーそこの君。あの時みたいな名推理を見せてくれよ」


 ロキは再び余裕の表情でラミスから目線を外すと、カナタへ向けてそう言う。あの時とは、ゼノスに迷宮奥を目指すべきかどうか判断を委ねられた時の事を指すのだろうと、暫く迷った後で理解したカナタが答える。


「けっ・・結果だけを見ればだが、バロンを守る六獣騎士やその他の騎士、上位の冒険者がここに集まっている以上、それがお前の作戦だってんなら、その目的はバロンから大戦力を遠ざけ、潰すことだろう。王の行動まで読んでたんなら、目的は国じゃなくレオル王そのものって可能性もあるか」


 目的がレオル王ーーー、そう聞いたラミスは穏やかな表情を初めて変え、目を丸くした。

 周囲で状況を見守る多くの騎士や冒険者達から騒めきが起こるが、少年はそれを無視して、カナタへ次の質問を投げかける。


「へぇ・・・。じゃあ次だ。僕は此処に居る。なのに、一体どうやってバロンを潰すつもりなんだろうね?」


 離れた場所にあるバロンに戦争を仕掛ける方法。

 幾ら戦力を削いでいるとは言え、バロンにはレオル王や、近には副官のゼノスも滞在している。生半可な方法ではバロンを陥落させることは出来ないだろう。

 カナタは、遠距離にあるバロンへ攻撃を加える方法を口に出しつつ、考えを纏めて行く。


「遠距離にある国に攻撃を加える方法・・・、遠距離の大魔法か・・・時差式の魔法陣や何らかの条件を満たした時のみ発動する魔法陣、あとは協力者ーーーー、そう言えばお前かそこの女は魔物を操る力を持ってるはずだ。

 けど、迷宮の入り口はゼノスさんが護ってんだから、ここから魔獣は出れないはず」


 そこまで口に出した時、カナタはある可能性に気が付き目を見開いた。


「待て・・・、もし六獣騎士を此処へ集める以前から予め操った魔獣をバロン周辺の森に集め、密かに数を増やして待機させているとしたら・・・」


 それを聞いたレオやニケは同じことを考えていた。


「確かに、迷宮下層に生息しているはずの強力な魔物達の姿が消えている」


「ニケもそう思ってたのです。けど・・」


 そこまで聞いたラミスは丸くした目を細くして少年を見つめ、興味を失ったように言う。


「例えこの百五階層全ての魔物を使ってもレオル王を討ち取ることなど到底叶いません。

 まさかその様な浅はかな考えで我らを此処へ誘き寄せていたとは・・」


「アハッ、浅はかは君だよ、六獣騎士ラミス。

 僕が操れるのは何も魔物だけじゃないし、僕は手下にした生物を強く作り変えることが出来る。

 単純にここの魔物達を相手にするのとは全く違うんだよ。

 それにーーー、君は初め僕の事を何と呼んだのかな?」


「真神教・・・、まさか、他の幹部クラスが地上に居るとでも?」


「そのまさかさ。今地上では二人の神徒と僕のお気に入り達が暴れてる筈だよ。まあ僕としてはこんな地下深くであいつらに使われてるみたいで不本意ではあるが、あいつらとは違う目的が此処にあるから、それはそれでいいんだけどね」


「真神教が・・二人?」


 その事実を前に、周囲で起きていた騒めきが消える。


「ちょっ、ちょっと待てよ!さっきから何なんだ、そのマジン教ってのは!?魔王級を超える魔神レベルのやべぇ奴等が徒党を組んでるってことか!?」


「真神教と言うのは、自分達の信仰する神こそが真の神。それ以外を神とは認めず、神徒や信徒以外を此の世から消すべき害悪と捉え破壊行為を繰り返す危険集団のことです。

 その構成員の中には魔王級も確認されています」


「グランでも一人で闘えねぇっとかっていう魔王級が・・・。だ、だけど上にはレオル王だけじゃなくゼノスさんだって居るんだし、二人くらいなら何とかなるんじゃねぇのか!?」


「アオイさんにも分かりやすく言うならば、魔王級を一人で相手に出来るのは、バロンでレオル王ただ一人。

 この少年の放った最下層の魔物やもう一人の神徒の存在を考えれば、もし、地上に居る真神教のどちらか一人でも魔王級に匹敵する者ならば、バロンは終わりです」


「うそ・・だろ?」


 バロンが今、恐ろしい魔物や真神教に襲われている。それを聞いたバロンに住む者達は誰もが残してきた大切な者の顔を浮かべ、絶望したような表情を見せている。

 そんな中、レオが声を上げた。


「ラミス様!!ネオとニケを連れて今すぐ救援にお向かい下さい!!ネオの早さと風を読む力、そしてニケの力があれば、半日も掛からず地上に出られるはず!!」


 この場に居るバロンの騎士達の誰もが地上に残して来た者を思いながらも、行動することを諦めている。

 だが、レオル王が簡単にバロンの崩壊など許す訳がない。

 六獣騎士が即座にバロンへ駆けつけてくれるのならば、バロンにはまだ希望がーーー。


 そんな中、希望を絶望に変えるよう少年が言う。


「はぁーー、そんなことさせる訳ないだろ?

 エキドナやガルーだけじゃなく、この階層の下、百六階層には大量の魔物を控えさせてあるんだ。

 それが今、君達の脱出を防ぐ為に別の通路から百四階層に移動してる。

 君達は、ここで僕の傀儡(オモチャ)になって、一緒にバロンを潰しに向かうんだよ」


 少年の笑顔がこれまでにないほど歪む中、この階層の何処からか、冒険者や騎士の悲鳴が聞こえて来る。

 少年の合図を受けたかのように押し寄せる大量の魔物達。

 その、音を聞いたラミスはため息を吐く。


「大量の魔物?ニケの力を知っているとは思えない無様な作戦ですね。

 それでは、私達は貴方を殺して地上へ向かうとしましょう。

 レオ、後は任せても大丈夫ですね?」


「ハッ、お任せを。

 グラン殿、アオイ殿にはガルーの相手をお願いしたい。私はあの蛇女の相手をします」


「よし、オッさんは俺とカナタがぶっ殺すぞ!

 石にされんじゃねぇぞ、レオ!」


 取るべき行動が決まり身構えるグランやレオ。集団の者達も武器を抜き、全ての通路から押し寄せる大量の魔物達と戦うべく備える。

 だが一刻も早くここから脱出すべきだと判断したニケは、自分の前に居る者達へ退がるよう命じると、押し寄せる魔物へ両手を向けた、その時だった。


「大地の(パペット)ーーー」


「能力施錠(スキルロック)」


 少年が指を鳴らしてそう唱え、同時に、ラミスの杖から魔法が放たれる。


「爆ぜなさい。大爆発(エクスプロージョン)」


 周囲の者を巻き込まぬように、しかし確かな殺傷能力の凝縮された爆発が捲き起こる。

 その場に居るものの目を焼くような凄まじい爆発の光は、それを受けた者の体を弾き飛ばし蒸発させ、その場に影すら残さない。


 中央に吸い込まれるようにして爆発の光球が消えた時、その場から少年の姿は消え失せていた。


「めっ、目がーーー!!や、やったのか!?」


 カナタが眩んだ目を抑え問い掛けると、ラミスが答えた。


「いえ、魔物を楯に逃げられました」


 ラミスの見立てでは、少年と周囲の魔物の群れを片付けさえすれば、赤毛の女とガルーの相手をレオとグランに任せられると判断していた。

 だが、少年の姿が消えた今、レオやグラン、そして多くの騎士や冒険者を残したまま地上へ出るという判断が、どういう結末を招くことになるのか。


 もし自分が去った後で少年が現れれば、レオ達の命は無いかも知れない。

 だが、少しでも早く地上へ向かわなければ国が滅びるかも知れない。

 部下の命と、国の存亡。

 国を守る者の秤に掛ければ、取るべきは国。

 だが、自分が向かったからといって、国を守りきれるという確証は無く、かえってレオル王の邪魔になってしまう可能性すらある。

 一方で、ここに残れば恐らく少年からレオ達を守り抜くことは可能だろう。

 ラミスはそう考えていた。


 そんな中、その計算を根底から崩す事態が発生してしまう。


「師匠・・・、大地の化身(パペットアース)が使えない・・なのです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。