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GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
バロン王国と死の穴
37/72

三十七、ユノ



 

  ーーー着いたか。



  なんかグランが向かった女王の部屋からすんごい音がした。

 と言うか、続いた。


  絶対戦いになってたよな。


 俺の回復を待つ間、ポルトスのソワソワと言ったらもう・・・。なんかゴメンね?


 マジックハニーのストックがもっと必要なように感じたから、あまり俺の回復に大量消費するのは避けたかったのもあって、直ぐに駆け付けることはしなかった。グランも一人の方が戦いやすいだろうし。


  そうそう、それと女王が作る白いドロドロとした蜜は、ポルトスの情報によると王蜜(ロイヤルハニー)と言うらしい。

 なんか知らんが、ものすんげぇレアアイテムっぽい。

 それならそうと早く言って欲しかった。

 音が鳴り止んで暫く経つし、女王は多分死んでるだろう。

 これで入手可能な王蜜は、壁の蛹や卵を覆う王蜜のみとなったわけだ。

 念の為に気配を殺し、女王の部屋までやって来たのはいいが・・・。


『やっぱり居ないか』


  部屋に女王らしき姿は見当たらない。

 落ち込むなポルトス。


『ん?グランーー!その子は誰だ?』


 っと、念話の陣は発動の時に範囲内にいた奴との間でしか効果が発揮されないんだったな。

 にしてもーー、マジで誰だ?あの女の子。グランの隣でシャルピアの花を見上げているけど・・。

 俺と同じくらいの身長に華奢な身体。背には、五枚の白い花冠の様な羽。

  見た所、実際の羽は五枚の花弁の内四枚で、下の二枚は真っ白。それは少女の足下を超える程に長く、燕尾のような形で広がっている。

  後の二枚は背中の半ばから斜め上に向かって伸び、羽ではない最後の一枚は頭部の後ろに大きな襟を立てたようにして縦に聳える。

  五枚の花冠の隙間からは花糸のような細い管が伸び、その先には花が花粉を蓄えるヤクのような物まで。


  ーーー綺麗だ。


  シャルピアを見上げる少女のその姿を、カナタは何故だか、この上無く美しい光景だと感じた。


  だが一方で、その背の純白の花に描かれる赤紫色の怪しげな模様。

  髑髏のようにも見えるその模様の周囲と、上方三枚の羽先は薄紫に染まり、見るからに毒々しい。

  羽の怪しげな模様の色と合わせたかのような唇と、何かを思い出すようにして微笑するその顔が、少女の怪しさに拍車をかけていた。



  ユキノシタの花の様な美しい少女。



  ふん。見方によれば、大きなシャルピアの下に咲く、小さく美しい花にも見えるだろう。


  だが、騙されんぞ。


  美しい花には棘があるとはよく言ったもんだ。


  俺は激怒している。


  何故かって?以前、部屋の中に無数にあった穴。そこには余すことなくホワイトビーの蛹が入っていた。


  だと言うのに現在ーーー。


 その穴に蛹の姿は無く、王蜜も無い!


  状況を見れば、犯人はシャルピアの下に立つ少女、もしくはグランだと容易に想像できる。

  王蜜も蛹も消え、周りには卵も幼虫もいない。ということは・・この巣の中で王蜜は、もう作れない・・?


  ごくっ・・・。


『おい』








  ・・・・














 ・・・・・・









  しまった。念話で話してたからつい・・・。

  シカトされたのかと思って軽く傷ついたぞ。


  今度こそ。




「おいグラン」




  上を向いて笑みを浮かべていた少女の顔が強張り、ゆっくりと俺を見る。


  こんな危険な巣に突然現れた人間だ。無理も無いが・・・。



  どう出る?




「ーーーーあなたが?」




 ーーーが?


 が?ってなんだ。分からん、その続きを言えよ。


 少女はカナタを見るなり、羽を高速で羽ばたかせ、シャルピアの梺から体を浮かせる。


「ま、待て、俺はただ話がしたいんだ!

 おい、それ以上近づくな!」

 

  すると女王は、ビクンッと体を震わせてそこで止まり、羽を止めて地面に降り立った。


「待って!私は戦う気なんてありませんわ!!」



 ほ、本当かーー?



「俺も戦う気は無いよ。分かったらそれ以上近づくな」



「でっ、ですがっ!」



「話ならこの距離でも出来るだろ?」



  そう言うと、少女は視線を下に向け少しもどかしそうな顔をして逡巡した後、顔を上げた。



「分かりましたわ。では・・・、ではせめてお礼をっ!!」



  ・・・お礼?



「いや、何のだよ」


  トンネル工事をした記憶しか無い・・・。


「私は貴方様とグラン様が居なければ、あのまま此処で死んでいたでしょう。心より御礼申し上げます」


  深々と頭を下げるのはいいが・・・・・なんの話?


  意味が全く分からん・・・。


「私は・・その・・・、貴方とグラン様のお役に立ちたいのです!

 何か、私がお役に立てる事はないでしょうか?」


「話は見えて来ないけど、役にねぇ・・・、それならこの部屋にあった王蜜が欲しいな。結構な量があったと思うけど何処に行ったんだ?」


  「蜜・・、貴方は私の王蜜が必要なんですの?」


 私の・・?何言ってんだこいつ。最初に手に入れたのが自分だから、それはもう自分の物ってことか?

 ふざけーーーてないか。


 ーーーそりゃそうだ。迷宮に入って最初に手に入れたなら所有者はそいつに決まってる。

 命が救われたようなこと言ってたし、王蜜には病気を治す力でもあんのか?


「そりゃそうさ。王蜜には高い回復作用があるらしいからな。だから危険を冒してまで取りに来てたんだ」


 本当は違うけど。グランやポルトスが女王と戦いたかっただけだけど。


「そんな・・・っ!命を賭けてまで、私の事を・・!!つっ、作りますわ!

  私、これからは貴方様とグラン様の為にだけ、蜜を作ります!身体中から絞り出しますわ!」


  いや、どんな耳してんだよ。話が捻じ曲がりすぎだ。

  下ネタにしてもやり過ぎだぞそれは。自分を抱き締めて頬を赤らめんじゃねぇ。


「カナタ、ちょっとこい」


 ん?なんだ手招きまでして?ポルトスやガルーさんに聞かれちゃまずい話ってことか?


 ポルトスは女王を探し回って部屋を駆けずり回ってるし、ガルーさんは女王が出てこねぇかビクビクして周り見張ってるし聞こえねぇとは思うが・・。


 まぁ用心は必要か。


「なんだ?」


「こいつ白女王蜂(クインビー)だぞ」



 へ・・・・・?




 ******




白花蜂妖精フラワービー・トレント?あのデケェ女王が進化して妖精になったってのか!?」


「そうだ。魔花(シャルピア)の種のタネを取り込んだら進化したんだ」


「だからシャルピアの様子が少し変わってんのか・・?なんでそんなことに・・・」


 種のタネを取り込んだら進化したってことはつまり、グランが進化させたってことだ。何がどうなったら女王蜂なんか進化させようと思うんだ?


「そういえばお前、進化しても王蜜は作れるのか?幼虫や蛹も居なくなってるみたいだし、どうなってんだよ」

「この姿になる前にまで、王蜜はあのシャルピアの出す猛毒の蜜を私の体内で分解して作り出していたのですわ。

  今はその猛毒の蜜を作る力は私自身も持っておりますから、シャルピアが無くとも蜜の精製が可能です。

 もっとも、王蜜(ロイヤルハニー)では無く妖精蜜(フェアリーハニー)という名前の蜜ですけど・・、王蜜でないとダメでしょうか・・?」



「妖精蜜? それ、毒はねぇんだよな?王蜜と比べてマナの回復力はどうなんだ?」


 羽の模様が毒々し過ぎて、こいつが作った蜜を口に入れるのは危険な気しかしねぇ。


「勿論、毒はありませんし妖精蜜の回復力が断然上ですわ。王蜜のように体を大きくする力は無いですけれど。

 ーーーはっ!気にすることはありませんわ!殿方に大切なのは大きさでは無く、心ですわ! 」



 ・・・・・



「いや気にしてねぇから」


  本当に気にしてねぇから。

 ウゼェが情報の為だ。我慢我慢。


  ふむふむーーー、ふむふむふむ。


  つまり情報を纏めると王蜜とは、ホワイトビーを育てる為に作られる蜜で、体を大きくしたり強くする力がある。

 女王とは、巣の中で王蜜を食べ続けた最強のホワイトビーが成長した姿だと。

  一方で妖精蜜とは、ほぼ純粋なマナで構成されてるのか。

  回復力は抜群だが、滋養強壮のような効果は無い。

  欲を言えば王蜜も欲しいが、無いものはしょうがない。

  女王の話によれば、王蜜を頻繁に摂取している個体は、体の大きさや力の強さが倍くらいになるらしい。


 けど、無いものはしょうがない。



「あら、少しお時間を頂ければ、王蜜くらい作れますわよ?」


「えっ、マジで?どうやって?」


「今、私は新たな女王を育てておりますの。ですから、その個体が生まれれば直ぐにでも」


  個体を育ててるって・・・、どこにだ。幼虫も蛹も居やしない。

  それもそのはずだ。こいつがたった今、消耗した体を回復させるために全部食ったらしい。

 

  それに、女王に備わる種族スキルに産卵ってスキルがあるらしいが、それも無くなってるようだ。

  つまり、こいつはもう女王じゃない。


 カナタがそんなことを考えていると、元女王がシャルピアを指差す。



「アレですわ」



  大木のようなシャルピアの太い幹から分かれる枝。

  しかし、その先には葉が無い。代わりのように枝に付いているのは、白く丸い果物のような何かだ。


  そういえば、前はあんなの無かったな・・・。


  元女王の説明によると、アレは果樹卵ってスキルで作った卵らしく、あの中で産まれた幼虫はそのまま蛹になり、成虫の姿となって出てくるんだとか。

  今までのように幼虫や蛹を蜜に付ける必要は無く、シャルピアの栄養を直接吸い取り成長した生体は、普通の産卵によって産まれた個体よりも強くなるらしい。

  今はその果樹卵を多く作るためにシャルピアの花を増やしている最中で、そのシャルピアを作るにも、妖精蜜を使うとのことだ。

  枝を地面に突き刺して妖精蜜を垂らす。それだけでいずれあんな巨大な花が咲くんだから驚きだ。

  言われてみれば、そこら中に細く小さな枝が挿さってるな。


  そして、確かにこいつの言う通り、シャルピアに付いてる果樹卵の中に一際大きな物が一つある。

  あれから女王が産まれるんだな。


「ん?シャルピアを沢山作ってるって事は・・・」


「はい。私は複数の女王を配下に納め、さらに下の階層を支配致しますわ。

  先程は、貴方様に許可を得ずにそれを実行しようとしていましたので、つい取り乱してしまいましたの」


「許可って・・・。なんで俺の許可が要るんだよ。好きにすりゃいいだろ」


「いいえ。私はグラン様にこの迷宮の全てを捧げるべく・・・、間違えましたわ。

  私と、この迷宮の全てを捧げるべく、女王を育てるのですわ。

  だからと言って、勝手な行動を取った事実は変わりません。どうかお許し下さいませ」



  重い重い。さっきから何言ってやがんだこいつは。



「だから、なんで俺の許可が要るんだよ」


「それは、私がグラン様に恋をしたからですわ。そしてグラン様は貴方様の付き人なのだとか。

  私、自分より強い殿方に出会ったのは初めての経験でしたの。

  ・・ああぁ、私の初めて、ですわ。

  私より強いグラン様にお仕えする。これの何処に矛盾が御座いましょうか」


 

 それってつまり・・・。



「お前は俺達の仲間になりたいのか?」


「はい。ですわ」



 

  元女王の名前はユノ。

  グランに名前を決めるよう求められ、見た目が余りにもユキノシタって花に似てたから、そう名付けた。


  斯くして、俺達は新たにユノを仲間に向かい入れる事となった。

 とは言っても、こいつは迷宮の中に住んで各階層を支配するらしいから、俺達とは一緒に行かないみたいだけど。

 勝手に頑張ってくれ。王蜜が完成するのもユノの感覚じゃすぐなんだろうけど、何年かかるか分かったもんじゃねぇし。

 妖精蜜が入手可能になっただけでも良しとしよう。


 というか、結果的にここに残ってくれて良かったのか?だって、ポルトスやガルーさんにも、元魔獣が仲間だなんてどう説明すりゃ・・・って、それはいいんだっけか?確か輓獣も元は魔獣だってニケが言ってたし。


 それよりユノのやつ、グランより強いってことはないよな・・・?







 ********







 さて、この階層とも暫くお別れだ。



 少しだけど妖精蜜も手に入れたし、そろそろ出発だな。


  次の縦穴の深さは三十メートル程。

  ポルトスやガルーさんが下の安全を確認して飛び込む。

 当然、俺はガルーさんに抱き抱えられてる。

 穴の下、六十三階層は少し広くなってて進む道は珍しく一本のみ。


 近くに居るのは四体の魔物で、三体はパラライズキャット、もう一体は全身を黒い毛と筋肉に全身を包まれた四本腕のゴリラ、修羅大猩々(シュラゴリラ)という魔物だと言うガルーさん。

  三体のパラライズキャットは、修羅大猩々に対するように向かい合っているようだ。

 少し歩くと四体の姿が見え、岩陰に隠れて様子を見守ることになった。

  パラライズキャットは二本の尾の先にある鋭く尖った電撃針を修羅大猩々に向け、仕掛けるタイミングを探っているようだ。

  数では負けているが、ゴリラは余程自分の強さに自信があるのか、全く物怖じしていない。

 

  あのゴリラ・・めっちゃ強そうだな。なんだあの筋力。シャレにならんだろ。

  それに加えてあの四本の腕、そして何と、あのゴリラは闘気を扱えるらしい。

 

  対する黒豹に似たパラライズキャットの方は、力では遥かに劣るが、注目すべきはスピードと電撃針。

  あの二本の尻尾を敵に突き刺して電流を流して麻痺させるらしい。

  スピードで翻弄しつつ、あの針が決まればネコの勝ちは固そうだ。

  ゴリラの方がステータスでは勝りそうだが、麻痺した所を三匹で襲われてはどうしようも無いだろう。


  仕掛けたのは修羅大猩々。

 ゴリラの強烈な拳のハンマーをスピードで躱し、ネコが高速での連携を駆使してゴリラを翻弄している。

  だが、ゴリラのスピードも決して遅くは無い。

  四本ある腕を使って、一体のネコの尻尾を掴んだ。


  ネコは掴まれていない方の尾を曲げ、その先にある電撃尾をゴリラの腕に打ち込もうとしている。

  しかし、その尾がゴリラの腕に突き刺さる直前、ネコはゴリラによって振り回され、地面に叩きつけられ、投げ飛ばされた。

  叩きつけられたネコは血を吐き倒れてはいるが、辛うじて生きてるようだ。

  仲間が叩きつけられた瞬間に出来たゴリラの隙を突いて、他の二体のネコが同時に飛びかかっている。

  一体はゴリラの腕へ、もう1体はゴリラの脚へ。


  腕へ飛びついたネコは、ゴリラの残った三本の手で握られ、悲鳴をあげる。


  あのゴリラ相手に腕に噛み付くのは悪手だな・・・。


  ゴリラの握力はヤバいらしいし。


  だが脚に飛びついたもう一体は、仲間が体を張り作った時間を逃さない。


  パラライズキャットは、遂にゴリラの脚へその尻尾を突き立てた。







 〈〈バリイイイイイィ!!〉〉







 うおおおお!?なんつぅ威力だよ。



  ゴリラは髑髏が見えそうな程の強力な電撃を受け、激しく痙攣している。


  十秒程の間、電撃をくらい続け、遂には泡を吹いてその場に倒れてしまった。

 まだ生きてはいるが、体が麻痺して動く事が出来ないようだ。

  一方のパラライズキャットは、倒れたゴリラに突き刺さった尻尾を抜き、牙を剥き出しにして襲い掛かる。


  「勝負あったにゃ。仲間を集められると厄介だから仕留めるにゃ」


 ポルトスはゴリラに襲い掛かろうとしているネコの側面へ移動すると、双剣を振り降ろす。

  風を纏った二本の魔剣はパラライズキャットの首を抵抗無く切り落とし、音も無く決着を付けてしまった。


  そう言えばこの階層、パラライズキャットの数が異様に多いな。

  他の魔物と比べてとかじゃ無くて、単純に魔物の密集度が上と比べて明らかに高く、その多くがパラライズキャットの群れのようだ。

  さっきのは三匹の群だったが、多くは四、五匹で行動しているようだし、気をぬくと一瞬で囲まれ兼ねない。

  パラライズキャットの強さは弱くてもブラックビーくらいはあるらしいし、強い個体だと、デス・バッドくらいの奴もいるらしい。


 なんて事をガルーさんに聞かされてると、早速パラライズキャット五匹に遭遇した。


  これだけ魔物の数が多いと、どこを通っても魔物のいる道を通らなくてはならなくなる。


  なに?一階降りただけでえらい違いなんだけど・・・。

  まったく、先行きが不安になる。


諸事情によりユノとグランの闘いやその後については、また後日投稿します。

暫くは駆け足で進みますがご了承下さい。



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