三十四、死を振りまく悪魔
仕事が立て込んでいて投稿が遅れました。
少し短いです。
ーーー只者じゃねぇ。
ただ立ち尽くすそれを見たグランは、全身の毛を逆立たせて身構える。
油断は死を招く。グランを以ってして目の前の生物はそう感じさせ、音を立てずにその生物の様子を伺い、賢者の加護によって情報を探る。
・・・デスウォーカー。
デスバッドが進化したのか?けど、デスバッドはさっき俺が殺した。牙も抜き取ったし・・・今もちゃんと持ってる。
なら、デスバッドが二匹居たのか?だからおっさん達はここに入るのを諦めた?
さっきのデスバッドはおっさんの話で聞いてたのと比べると弱すぎた。
よく分かんねぇけど、とにかくこっちが本命だな。
強ぇデスバッドがAランク冒険者くれぇだとして、それが本当に進化したんなら・・、やっぱりよく分かんねぇけど絶対に強ぇはず。
最初っから本気でやんねぇとーーー。
ーーー竜化!!
これまでにグランが見せていたような二足歩行のままでの部分的な竜化、竜族の種族スキルであるそれを部分竜化という。
それとは違い、今回現れた竜鱗はグランの身体全てを覆い尽くしていく。
鱗の形は不揃い、並びもバラバラ、体は相変わらず歪ではあるが、グランは次第に前傾姿勢となり四足歩行の竜の形へ近づいて行くのだ。
髪の色のような白金色の鱗は先端に行くにつれて黄金味を帯び、先端には濃淡のある鮮やかな紅色が色を添える。
変形を終えたグランの体は僅かに大きくなり、体の大きさは大型肉食獣ほどだろうか。
その背からは白金色をした蝙蝠のような羽が生えているものの、やはり左右で大きさにバラつきがあり所々が破れ、太く長い尾も体に負けず劣らずの歪さだ。
血鬼血相ーーー。
グランはそんなことなど構わずに念じると、白金色の体表に赤い血管が浮かび上がり、それが全身へと広がって行く。
そして、血の侵食が体の半分ほどまで進んだ時だった。
只ならぬ気配を感じたのか、自身の体を確認するように見下げていたデスウォーカーが、ゆっくりとグランへ視線を向ける。
そして、しゃがみ込んで羽を広げると、地を蹴り、同時に空を掻いて部屋から飛び出した。
「ちょーーっ!まだ準備がーーーー」
血鬼血相の発動が完全に終わらぬままのグランへ向けて飛び掛かるデスウォーカーは、地を這う形となっているグランの頭上へと一瞬にして現れ、頭を踏み砕くように足を振り落とす。
血の侵食により体が軋む中、グランは後ろへ飛び退きそれを回避するが、デスウォーカーは踏み潰した地面をそのまま蹴って踏み切ると、グランを追尾するかのような動きで迫り、回避により空中へ飛び跳ねていたグランの下顎へ向け、黒く重厚な膝を叩き込んだ。
頭部が首から引き千切れると錯覚するほどの衝撃で顎を突き上げられたグランは、天井を見上げつつ、竜化状態で無ければどうなっていたのかと考え寒気を覚える。
予期せぬ攻撃を受け崩された体勢を立て直そうと試みるが、デスウォーカーは既に衝撃によって天井を仰ぐ形となったグランの頭上に指同士を組んだ両手を掲げており、それをハンマーのようにして振り落としたーー。
脳天への強烈な一撃を受けたグランの視界は歪み、歪んだ景色が高速で上方へ流れて行くのを感じて衝撃に備えようと体を動かすが、脳天への一撃のせいか、想像以上に高速で移動していたせいか、受け身は間に合わず、そのまま地面へと叩きつけられてしまった。
洞窟に響く衝撃音や地響きがデスウォーカーの攻撃の威力を物語り、同時に巻き起こる土埃によって視界を塞がれる中、意識が混濁するグランはその場からピクリとも動かない。
羽ばたいて上空に留まるデスウォーカーは、土埃を数秒見つめるが、グランから動く気配が感じられないことで獲物を仕留めたと判断したのか、ゆっくりと地に降り立つと、未だに巻き起こる土埃に向かい歩みを進める。
グランは、デスウォーカーの見せたその油断にホッと一息吐いた。
恐らくデスウォーカーは、吸血蝙蝠達のように眼ではなく別の何かで獲物を判別している。
種族スキルに超音波の文字を見つけたグランは、その言葉の意味を賢者によって理解すると同時に、デスウォーカーが音の反響によって周囲の構造を把握しているのだと、それとなく理解することが出来た。
だからこそ視界の閉ざされた土埃の中であっても動きを見せず、ジッと回復に努めたのだ。
そして賢者の加護によって得られたデスウォーカーの情報の内、グランは超音波とは別にもう一つ気になる項目を見つけていた。
吸血蝙蝠達の親玉であるデスバッドが進化しただけはあると言うべきだろうか、その種族スキルには吸血ではなく、“吸魂”の文字が。
魂を吸う。文字からしか敵の力を判別出来ないグランでも、その意味は瞬時に理解出来ていた。
マナを体内に貯めた吸血蝙蝠を食べ、進化に至るという吸収能力を持つデスバッドをグランは不思議に思っていた。
吸血蝙蝠がマナを体内に貯蔵させられる理由は、鑑定で得た結果によれば恐らく“血液貯蔵”という種族スキルが関係しているのだが、それを食べたからと言って、何故デスバッドは己自身を強くすることが可能なのか?
グランですら、マナの多い生物を食べて得られる効果は高効率なマナの回復だけだと言うのに、それを食べるだけで己を強くすることが可能な生物がいる。
それはまるで、グランの持つ特級魔法血族之王のようではないか。
この特級魔法ですら、複数の条件を満たして初めて己や他者の力を増幅させられると言うのに、デスバッドは種族として、それに似た力を備えているのだ。
膨大な時間が必要ではあるものの、食べるだけで己を強くするというその力は驚異と言わざるを得ず、デスバッドが発見され次第駆逐対象となるのにも頷けると言うものだろう。
だからこそ、デスウォーカーの持つ種族スキル、吸魂を見たグランは確信したのだ。
恐らくデスウォーカーは、生物の魂を吸収して己の力に出来るのだと。
ソフィアの元で学んだグランには、そして特級魔法“血族之王”を持つグランには、これがどれ程の意味を持つことなのか、痛いほど理解出来ていた。
恐らくデスウォーカーは、敵の身体能力の一部だけではなく、種族スキルや、下手をすれば特級魔法の一部ですら奪うことが出来てしまうだろう。
だとすればーーー、
「ーー霊核もか」
竜型のグランはそう小さく呟く。
そしてその音をデスウォーカーは聞き逃さない。獲物が生きていることをここで初めて悟ったデスウォーカーは、部屋から飛び出た時と同じように地を蹴り、空を掻く。
ーーーデスウォーカーは、この場で確実に仕留めておかねば何れ必ず手がつけられない敵となる。
長年穴倉に篭り、進化を果たしたばかりの今であれば、戦闘経験の無い今であれば、倒すこともーーー。
ーーーいや、今で無ければ倒せなくなる。
必ず今、この場で仕留めるのだと固く決意し、同時に血鬼血相を完成させていたグランは、肉食獣が跳躍するかの如き前傾姿勢で、頭を地に付くほど低くする。
四足ははち切れんばかりに大きく膨らみ、歪な羽は名一杯大きく広げ、太く長い尾は撓ませ五本目の脚のようにして地に付ける。
有りっ丈の血鬼血相を全身に巡らせ、闘気を纏い、今、己の持てる全てを使い、グランは踏み切った。
爆発のようなその発進は速度を上げて空間に衝撃波を出現させ、それを突き抜けるようにして、全身に纏った赤い闘気の上へ衝撃波を重ねる。
迷宮内にて赤く発光する其れは、空中に飛び出していた黒い悪魔に向かい爆進するーーーー。
「血竜星」
超速の槍の如き赤い竜星は、デスウォーカーの腹部を捉え、肉を抉り取る。
デスウォーカーは反射的に拳を振り上げグランに向けようと試みるが、それは余りにも遅過ぎた。
拳が到着するのを待たずしてグランはデスウォーカーを突き抜け、身体に纏わせていた赤い衝撃波をデスウォーカーの体内で炸裂させる。
闇の中に突如として現れた赤い流星は、刹那の内に黒い悪魔を貫き発光すると、迷宮の壁を砕き姿を消したーーー。
********
グランがデスウォーカーを貫通して壁に突っ込んでから約一時間程が経った頃、カナタ達の間には不穏な空気が漂っていた。
「ガルーさん、デスバッドの巣穴ってそんなに深くないんだよな!?」
「その筈だ。ボウズならもうとっくにデスバッドの部屋まで到着してるだろうが・・・ちと遅過ぎるな。だが助けに行くにしても、もしボウズが負けたとすりゃポルトスは知らねぇが、俺達じゃどうしようもねぇ」
「にゃ・・にゃは〜、グランがデスバッド程度に負けるはずないのにゃ。きっとお腹が減って虫でも食べてるのにゃ」
「オメェはデスバッドの巣に入りたくねぇだけだろうが。ったくしょうがねぇな、やっぱボウズは俺が・・」
「だからガルーさんが行ってどうすんだよ!」
「そうにゃ、やめるにゃ」
「だったらどうすんだ!?ボウズを見殺しにーーーー、・・・ん?」
いつまで経っても帰って来ないグランを心配し、少し前からあれこれと意見が飛び交っている。
そんな中、何かを感じたのか、ガルーが耳と鼻先をピクピクと動かしデスバッドの巣穴を注視すると、暗闇の中からグランが片手を挙げて現れた。
「悪りぃ、待たせたか?」
「グラン!無事だったか!」
「ボウズ!オメェ、待たせ過ぎだ。今から俺が助けに行くとこだったんだぞ!?」
「俺に何かあったならおっさんが来てもどうしようもねぇだろ」
「ったく、ボウズまで似たようなこと言うんじゃねぇよ!」
「にゃはは、それよりデスバッドは倒したのかにゃ?」
「おう!バッチリだぜ」
グランはズボンのポケットに忍ばせていたデスバッドの牙を見せて笑うと、それをカナタへ手渡すが、ガルーやポルトスは不思議そうにカナタの手に乗せられたデスバッドの牙を観察する。
「なんだ、えらく小せぇ牙じゃねぇか?」
「そうだにゃ。確かにデスバッドの牙だけど、小さ過ぎるのにゃ。これ位の大きさならデスバッドは生まれたての筈なのにゃ〜」
「生まれたて?吸血蝙蝠の大きさから言って、それなりに成長したデスバッドが住んでるって話じゃなかったか?」
「だからこそおかしいんだ。ボウズ、デスバッドはどんなだった?強かったか?」
「いや、クソみてぇに弱かったぞ?アレならおっさん達でも勝てただろうな」
「生まれたてでもクソみてぇに弱い訳ゃねぇが・・まぁいい。しかし、そんなら今まで何してやがったんだ?終わったなら早く帰ってくりゃいいものを」
「まあ、色々だ。良い物見つけたから集めてたんだよ。それとーー、ほら」
グランは身体の後ろに隠していた大きな黒っぽい石をカナタに見せる。
「ん?それってまさか・・・」
「超硬石だ」
血竜星によって壁に突っ込み、反対側へ突き抜けたグランが偶然衝突した硬い石。
それを何気なく鑑定したことで超硬石を発見する事が出来ただけなのだが、グランはこれ以上ないドヤ顔でカナタに超硬石を手渡す。
「マジか!?凄えぇ、一気に二つ依頼達成じゃねぇかよ!
これなら大きさも十分そうだしバッチリだ。サンキューな、グラン!
いやぁ、やっぱ頼りになるわー!」
「そっ、そうか?これくらい全然普通だけどな・・。それより、早く次に行こうぜ!」
無事にアイテムの入手を済ませ、カナタ達は次なる階層に向け、出発するーーー。




