第3話
うん、これ死ぬやつだ〜。
さっきの奴の惨たらしい死に様を思い出す。僕の末路も、もう目に見えていた。
まあ、地球だって爆発したんだし、もう一回死ぬくらい、今さら……。
それにしても、いったい何が起きてるんだ?
地球が爆発して、すっぽんぽんで月に現れたかと思えば、次の瞬間には獣人のいる異世界に転送されて……。
ん?
そのとき初めて、視界の右上に半透明のカウントダウンがあることに気づいた。
そこには、こう書かれていた。
【月への帰還まで残り23時間58分12秒。
生存に必要な物資を速やかに確保してください。死亡した場合は即座に月へ帰還し、すべての物資を失います。
次に異世界へ入れるまで:7日23時間58分12秒】
一時的な転送? また月に戻るのか?
なるほど。僕たちをこの世界に転送したのは、生きていくための物資を月に持ち帰らせるためなのか?
しかも、一度戻ったら次に来られるまで七日も空く。だから、この一日で、生き延びるのに十分な物資を持ち帰らないと……でなきゃ、七日間もあれば、飢え死にしなくたって水がなくて死ぬ。
それに、死んでも本当に死ぬわけじゃなくて、月に戻るだけ……?
さっき殺された人へ目を向けた。
死体はもう消えていた。血まで残っていない。どうやら本当だ!
でも、殺されても本当に死なないからって、今ここでやられたら、戻ってから渇きか飢えで死ぬことになる。
どうにか生き延びないと……でも……。
この虎の獣人、たぶん三メートル以上あるぞ! 上腕二頭筋が僕の頭よりでかい! こんなの相手にどうやって生き延びろっていうんだよ?!
「ワン!」
バハちゃんが突然吠えた。
虎の獣人の足が止まった。
「バハちゃん! 僕のことはいいから、早く逃げろ!」
けれど、バハちゃんはぴくりとも動かない。
虎の獣人もその場に立ち止まったまま、その目だけが徐々に見開かれていった。
縦に裂けた大きな瞳が、何かとんでもなく恐ろしいものを見ているかのようだった……。
その巨体まで、ぶるぶると震え始めた。
僕は緊張で、ごくりと唾を飲み込んだ……。
こんな獣人まで怯えさせるものって……。
何なんだ?
いっそ、こいつに殺してもらったほうがいいかもしれない。少なくとも、あっという間に死ねるなら、そこまで苦しまずに済む。
ざあっ、と風が木の葉を揺らす。森には、葉擦れの音だけが響いていた。
そのとき、突然!
ドンッ!
虎の獣人が、その巨体を地面に叩きつけるようにひざまずいた!
「お目にかかれて光栄でございます……魔王殿下!」
ま……魔王?!
終わった! 死んだ!
どうか、拷問マニアの魔王じゃありませんように……。
「ワン!」
え?
バハちゃんが嬉しそうに尻尾を振り始めた。そのふさふさで力強い大きな尻尾が、鞭みたいに僕の顔をばしばし叩く。
「ぺっ、ぺっ、ぺっ! 振るなって! バハちゃん……ぺっ、ぺっ、ぺっ!」
尻尾の毛の隙間から、バハちゃんの頭上に浮かぶ文字が見えた。
【天地創造と終焉を司る究極神獣・バハムート三世】
そう。僕の「トイレのスッポン」と同じように、バハちゃんの頭の上にも名前が出ていた。
昔、中二病をこじらせていた僕がつけた、あの名前だ……。
「……」
周囲を見回し、この森にほかの魔王がいないことを確認した。
どうにかバハちゃんの下から這い出し、地面に座って、その頭をなでた。
バハちゃんも嬉しそうに僕の手に頭をすり寄せ、そのまま僕の腕の中に潜り込んできた。
ところが、虎の獣人は信じられないものを見たような顔をしていた。
「き……貴様、この薄汚い人間が! 魔王様といったいどういう関係だ?!」
「見ればわかるだろ?! 僕は……」
バハちゃんの威光を笠に着て、僕は得意げに胸を張った。
虎の獣人は、僕たちを見比べた。
その目に、納得の色が浮かんだ。
「なるほど……
魔王様の寵妃だったのか!」
「……」




