第2話
「ああああああああっ!!」
お互いが全裸だと気づいた途端、みんな、殻をむかれたゆで卵みたいな姿で、悲鳴を上げながら大事なところを隠した。
中には、誇らしげにボディビルのポーズを決めて、隠すべきところを全部さらけ出している奴もいた。
「どうせ地球は爆発したんだし、もう何やったっていいだろ」とでも思ってるんだろう……。
幸い、僕にはバハちゃんがいる。ぎゅっと抱きしめれば、体の大半は隠せる。ちょっとはしたない格好だけど……丸出しよりはずっとマシだ!
「クソッ、ここはどこなんだよ?! 地獄かよ?!」
誰かが半狂乱になって、みんなが思っていたことを叫んだ。
「いや……空を見ろ!」
見上げた先で僕たちを待っていたのは、異世界へ案内してくれる女神……ではなかった。
青緑色の自由の女神像が、いつもどおり目を見開いたまま、ぐるぐる回転しながら空から僕たちめがけて降ってきた。
「えええええええっ?!」
幸い、地表のすぐ上で、見えない膜が女神像をぽんと弾き、宇宙へ送り返してくれた。
ほかの破片も同じだった。
空のあちこちに巨大な岩が浮かび、中には鉄筋コンクリートの残骸が乗っているものもあった。
地球は、間違いなく爆発したんだ……。
ハンマーで叩き割られたクルミみたいに、破片が宇宙を飛び交っている。
「じゃあ……僕たちが立ってるここは……」
足元には暗い灰色の地面、遠くには大きくくぼんだクレーター。それに、この体の軽さ。答えはもう、明らかだった……。
「ここって……月なのか?!」
でも、なんで月に酸素がある? なんであんなバリアまであるんだ?
それに……ついさっきまで地球にいた僕たちが、なんでいきなり、すっぽんぽんで月にいるんだ?
カスタマーサポートが事情を説明しに来てくれるわけもなく、次の瞬間、みんなの頭の上に淡い光が灯った。
光が消えると、みんなの頭の上に一行の文字が浮かんでいた。
どれもこれも意味不明な文字で、ランダムに決められて強制表示されたゲームのプレイヤー名みたいに、一人ひとりの頭上に浮いている。
「道端の雑草」の人もいれば、「タンポポ」の人もいる。「プチクッキー」や「こたつ」なんてのも……。
で、僕はというと……。
【トイレのスッポン】
「……」
頭の上の文字を引っぺがそうと必死に手を伸ばしたけど、まるで空気みたいに手がすり抜けてしまい、触ることすらできなかった。
あのぉ……地球くん、もう一回爆発してもらえませんか?
この名前、字面だけで臭そうなんだけど……。
……モヒカンにすれば、隠せるかな?
世界の終わりなんて大嫌いだ。いろんな意味で。
具体的な対策を考える間もなく、さらに上空に、突然カウントダウンが現れた!
カウントダウンはたったの五秒。考える暇なんかなく、もう残り一秒になっていた!
バハちゃんをぎゅっと抱きしめるのが精いっぱいで、次の瞬間、世界がぐるんぐるんと回り始めた!
長いワームホールを一瞬で通り抜けたような感覚。もう一度目を開けると、目の前には緑鮮やかな森が広がっていた!
少し離れた場所には、僕と同じくすっぽんぽんの人間が一人。地面に降り立ったばかりで、戸惑ったように周囲を見回していた。
「グオオオッ!」
森から低い咆哮が響いた。次の瞬間、飛び出してきた虎の頭をした獣人が、さっきまでそこに立っていた人間に飛びかかり、地面に押し倒した!
「助けてっ! たすっ……」
助けを求める声が、ぷつりと途切れた。虎の獣人が、その喉に食らいついたのだ。噛み切られた動脈から噴水のように噴き出す鮮血が、牙の隙間を抜けて飛び散った。
脳への血流が途絶え、その人の腕が力なく地面に落ちた。もう、抵抗する意識すら残っていなかった。
耳の奥がわんわんと鳴り、背筋に冷たいものが走った。
これほど血なまぐさく、生々しい死を見せつけられる衝撃は、地球が爆発したときよりもずっと強烈だった。
そして今、その虎の獣人は顔をこちらに向け、僕をじっと見ていた。
けれど、僕たちの格好を見た途端、一瞬固まったようだった。
バハちゃんが上、僕が下。僕たちは、ぎゅっと抱き合っていた。
虎の獣人が、汚いものでも見たような顔をした。
「おいおいおい、その顔は何だよ?! てめえ、何考えてやがるんだ??」
殺されるのはともかく、侮辱は許さん!
怒りが、一瞬で恐怖を全部吹き飛ばした。
僕は剣道を習ってたんだぞ!
地面の枝をひっつかむと、全身に闘志がみなぎった。もう片方の手を地面につき、立ち上がって迎え撃とうとした!
立て!
立てぇっ!
立て……
「バハちゃん、そろそろダイエットしようか……とりあえず、僕の上からどいてくれない……? 起き上がれないんだけど……」




