↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球が爆発しちゃったー!↖(^ω^)↗  作者: 狐白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/4

第1話


  「はいはい、もうすりすりしないの〜」


  僕はしゃがみ込んで、天地創造と終焉を司る究極神獣・バハムート三世のもふもふした大きな頭を、わしゃわしゃとなでた。


  ちょっと名前が長いけど……僕の飼っている、ただのゴールデンレトリバーだ。


  こいつはどうしても僕を行かせたくないらしく、ズボンの裾をくわえて離さない。まるで地獄にでも向かう僕を、何が何でも引き止めるつもりのようだ。


  「バハちゃ〜ん、いい子だから〜。ほんのちょっとだけだって……!」


  「先に家具を運んで、片づけたら迎えに来るから……車にはもう、ほんとに乗る場所がないんだって!」


  「くぅ……」

  


  「そんな顔しないでよ!」

  


  「くぅ………………」

  

  「あああああっ! わかった、僕の負け! じゃあ一緒に助手席に乗ろう! 足元でじっとしてるんだよ!」

  

  「わんっ!」


  引っ越し業者の運転手とひとしきり相談した結果、バハちゃんは僕の足元に臨時の居場所を確保した。

  

  車が走り出すと、バハちゃんも少し落ち着いたようだった。


  それでも、もふもふの頭をあちこちに向け、何かを探すように不安げにきょろきょろしている。


  その頭に手を置いた。

  

  「バハちゃん、元気出して! 今日はお祝いの日なんだから!」


  「今日から、僕たちにも自分の家ができるんだよ!」


  「ちょっと辺鄙なところだけど、家の前に小さな庭がついてるんだ! 一緒に寝っ転がって日向ぼっこしたり、ごろごろ転がったり、ボールで遊んだり……」

  

  夢にまで見た暮らしだ!


  それが、ついに実現するんだ!

  

  そう思った、そのとき……

  

  【ガシャーン!!!】

  

  「おい! どこ見て運転してんだ!」


  前方から、突然ものすごい衝突音が響いた。


  乗用車が二台、衝突して交差点をふさいでいる。


  けれど妙なことに、事故を起こした運転手たちは言い争う様子もなかった。


  一人はふらふらと車を降り、顔を上げると、スマホを空へ向けた。


  もう一人も、ぽかんと上を見つめている。


  「……?」


  何が起きたのか理解する間もなく、カーラジオから突然、耳障りな雑音が響いた。


  「ザザッ……」


  「ザッ……」


  続いて、震える女性の声が流れてきた。


  【こちらは……国家緊急放送センターです……】


  緊急放送?!


  【アナウンサーの林千夏です。】


  【これより、全国の皆様に向けて、最後の放送をお届けします……】


  ……最後??


  ご……ご退職、おめでとうございます?


  いや、それ、全国民に知らせる必要ある?


  【最終的に確認された観測結果によりますと……】


  【超高速で接近する巨大天体が、まもなく地球に衝突します。】


  「ぶふっ!」


  運転手が、飲んでいた水をフロントガラスに噴き出した。


  【衝突まで、あと……およそ三分です。】


  【残念ながら……】


  【もはや、これを阻止する手段はありません。】


  「……」


  僕は目をぱちくりさせた。


  「……は??」


  何だって?


  地球?


  衝突?


  三分???


  呆然と運転手を見た。


  「……今日って、エイプリルフールですか?」


  運転手はスマホで日付を確かめ、首を横に振った。


  「いや、今日は十月二十四日だ」


  四月一日じゃない。


  いや、違う!


  エイプリルフールかどうかって問題じゃないだろ、これ?!


  【現在、政府およびすべての関係機関は、緊急対応の指揮を終了しております。】


  ラジオの女性は、まだ放送を続けている。


  【すべての緊急避難指示を、ただいまをもって解除します。】

  

  緊急対応を終了って、どういうことだよ??


  僕の家はどうなるんだよ??


  十年も必死に社畜やって、ようやく頭金を貯めて手に入れた僕の家はどうなるんだよ???

  

  【残された時間は、皆様それぞれ、ご自由にお過ごしください。】


  ……ご自由に???


  遺言だけ残して逃げるみたいな言い方するなよ、おい!!


  【ザッ……】


  放送が途切れた。


  運転手と顔を見合わせる。


  【ガン!】


  何かがぶつかり、フロントガラスがガシャンと砕け散った。僕は慌てて腕をかざし、降ってくるガラスの破片からバハちゃんをかばった。


  腕にいくつか細い切り傷ができて、血がにじんだ。幸い、大した傷じゃない。


  まあ、ひどい傷だろうがなかろうが、もう関係なさそうだけど……


  「WHAT THE FUUUUUCK??????!」


  僕はバハちゃんを連れて、慌てて車を降りた。

  

  空を見上げた瞬間、僕は理解した。ウンコの上で暮らす細菌が、踏みつぶされる直前にどんな気持ちになるのかを。


  

  空に浮かぶ巨大な灰褐色の球体は、片側を太陽に照らされて神々しく輝きながら、視界の中でみるみる大きくなっていった。

  

  世界の終わり……


  本当だった。

  

  通りはすでに大混乱だった。


  無駄だとわかっていても、防空壕を探す人がいる。


  家族に、最後の電話をかける人がいる。


  かと思えば、人類最後の三分間を満喫しようと、往来のど真ん中でピストン運動を始める連中までいた。

  

  何をすればいいのか、わからなかった。


  この十年間、僕の目標はただ一つ。自分だけの小さな庭を手に入れることだった。


  そして大都会を離れ、庭に寝っ転がって、何もしない。


  その目標があったから、クライアントの無数の無茶ぶりにも耐えられた。食費も服代も切り詰める毎日だって、乗り越えてこられた。


  それなのに、なんでよりによって今日なんだよ……


  せめて一日くらい、楽しませてくれよ!


  いや、一日じゃ足りない。一年は楽しませてくれ。


  ……うん、今は交渉してる場合じゃないな。

  

  突然、進む先を見失ったような気がして、全身から力が抜けた。

  

  トラックのタイヤにもたれて座り込むと、バハちゃんが僕の腕の中に頭をぐいっと押し込んできた。


  顔を上げ、視界の中でますます大きくなっていく球体を見つめた。

  

  「バハちゃん、片っぽの前足、貸して」


  バハちゃんの前足を片方持ち上げ、ほかの爪を押さえて、真ん中の一本だけを空へ向けた。


  それから、僕も空へ中指を立てた。

  

  何も言わず、ただじっと、そのままでいた。

  

  世界のすべてが、白い光に照らされるまで。

  

  ◇

  

  「ワン!」


  頬に触れる湿った感触で、僕は意識を取り戻した。


目を開けると、なんとも困り果てたような犬の顔があった。太っているうえに下を向いているせいで、顔の肉がだるんと垂れ、くしゃっと寄り集まっている。

  

  「バハちゃん? ここは……げほっ、げほげほげほっ!」

  

  話そうと口を開いた途端、ほこりを吸い込んでむせ返り、一気に目が覚めた。慌てて上体を起こし、ほこりだらけの地面から顔を離す。

  

  ところが、体が妙に軽い。起き上がっただけなのに、その勢いで空まで飛んでいきそうになった。

  

  「ぺっ、ぺっ、ぺっ! ここ……どこだよ?!」

  

  口の中の灰色の土を吐き出し、周囲を見回した。

  

  広々とした荒野だった。どこまでも黒っぽい灰色の地面が続き、草木一本生えていない。焼け焦げた大地のように荒れ果てている。

  

  その焦土には、無数の身体が横たわっていた。

  

  みんな、僕と同じように目を覚ましたばかりで……

  

  そして僕と同じように、何も着ていなかった。

  

  見渡す限りの……全裸。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。