第7話
セラーナのすぐ左側――階段の下、列の先頭にいた魔族が口を開いた。
黒髪を長く伸ばした、端正な顔立ちの男性。
抑揚を落とした威厳を湛え、声は響いた。
「魔王護衛軍ゼクス。こちらに揃っております。新たなる魔王様へご挨拶願いたく存じます」
セラーナの頭が真っ白になった。
「えっ……あの……」
言葉が続かない。
魔王?
私が?
左端の黒髪ロングの男性が、わずかに間を置いて顔を上げた。
「魔王護衛軍ゼクス統括、ヴェルドラント・ノワール。魔王様の剣となり盾となります。どうぞご命令を」
隣、黒髪をオールバックに整えた眼鏡の男性。
冷徹な印象の目が、動かずセラーナを射抜くように見据える。
「魔王護衛軍参謀、エリークス・グランスト。戦略および魔導技術全般を担います」
次、褐色の肌に金髪を短く切り揃えた逞しい体躯の男性。
声は、落ち着いた響き。
「魔王護衛軍補給軍団長、ライアン・デザートウィンド。兵站、資源、交易を預かります」
続いて、赤髪を長めに伸ばした筋骨隆々の巨漢。
肩幅が広く、鎧の下でも筋肉の隆起がわかる。
「魔王護衛軍本隊軍団長、ガルガンド・フレイムヘイスト。戦争の荒事は俺に任せてください」
最後に、セラーナを抱きしめて転移させた少年。
瞳を上げ、無邪気に口角を上げた。
「魔王偵察軍団長、リオ・シャドウ。潜入、諜報、暗殺、何でもやります」
ヴェルドラントが声を潜めて付け加えた。
「本来であれば、もう一人――魔王護衛軍特殊部隊長、シグフレッド・ヴァイスがここに控えているはずでございます。しかし、最終決戦の混乱の中で消息を絶ち、今も行方不明となっております」
五人全員が、再び頭を下げた。
セラーナは玉座の間の頂に立ち、呆然と彼らを見下ろしていた。
(私……魔王? どうして……?)
魔素の濃密な空気が、体の中を満たしていく。
ずっと待ち焦がれていた何かが、ようやく帰ってきたかのように。
セラーナは、足音を忍ばせて玉座に近づいた。
指先が、冷たい石の肘掛けに触れる。
セラーナは息を潜めて玉座に腰を下ろした。
冷たい石の感触が背中に染み込み、この座が自分のものだったかのように、体が自然と収まった。
その瞬間――
視界が歪み、頭の奥で激しい痛みが走った。
記憶が、嵐のように流れ込んできた。
先代魔王の記憶だった。
彼の名はレヴァンティン。
戦闘狂だった。
生きるために、倒さねばならない。
奪わねばならない。
弱者は滅び、強者だけが新しい世界を切り開く。
それが彼の信条だった。
人間も魔族も、すべてを力でねじ伏せれば、誰もが跪き、誰もが従い、その先に「新しい世界」が見えると信じていた。
だから彼は宣言した。
「俺は新しい世界を見てみたい」
その言葉は、穏やかだった。
しかし、その裏にあったのは、血塗れの野望だった。
倒して、奪って、支配して――そうすることでしか、彼は「新しい世界」を想像できなかった。
戦争は果てしなく続き、魔族は忠誠を尽くし、人間は恐れ、聖女を立て、勇者を送り込んだ。
レヴァンティンは最期、勇者の剣に貫かれながら呟いた。
「……次の私は……もっと強く……もっと遠くまで……」




