第49話
ヴァレリアはセラーナを抱えたまま、墓地の外縁へと全力で走り出そうとした。
その時、ズルリ、ズチャリ、と湿った肉の擦れ合う音が、四方八方から響いた。
ヴァレリアが細切れに切り刻んだはずのアンデッドの残骸が、黒い霧に包まれながら蠢き始めた。
首だけ、腕だけ、胴体だけだった肉片が、互いに引き寄せられるようにくっつき、ねじれ、融合していく。
折れた角が新たな頭部に埋め込まれ、裂けた翼が無理やり背中に縫い付けられ、灰色の皮膚が鋼のような鱗に変わっていく。
数秒で、五体の異形魔獣が完成した。
血と肉片を滴らせながら、完全に包囲するように立ち塞がった。
ヴァレリアが舌打ちし、セラーナを抱えたまま急停止した。
「……死んだ後に発動する魔法か。趣味が悪い」
彼女は短剣を逆手に持ち替え、近くの一体に突進しようとしたが――上空から甲高い咆哮が降ってきた。
さらに二体、翼を生やした異形が空を覆い、逃げ道を完全に塞ぐ。
完全に囲まれた。
ヴァレリアの腕が、わずかに震えた。
セラーナはヴァレリアの肩に顔を埋め、呟いた。
「……ヴァレリア、ごめんなさい……私のせいで……」
ヴァレリアは強く抱きしめ返し、短剣を構えながら答えた。
「魔王様。ここで私が時間を稼ぎます。アミュレットを――」
その時だった。
包囲網の中心で、地面が最も大きく盛り上がった。
物理法則を無視し、世界そのものに干渉する概念魔獣が、浮かび上がってきた。
ドラゴンだった。
しかしその姿はあまりにも異様だった。
鱗の一枚一枚に、違う顔が浮かび上がる。
咆哮するたびに無数の声が重なり、苦痛と憎悪が混じり合った叫びが耳を打つ。
翼は骨と肉が無理やり縫い合わされたように歪み、動くたびに血の滴る音がして、縫い目から赤黒い液体が零れ落ちた。
複数の魂が絡み合い、互いに食い合いながら無理やり一つの形に押し込まれたような、根本的な「ずれ」がそこにあった。
エリークスは一人、巨大なドラゴンと向き合っていた。
「……久しいな、尊き者よ。そのような姿になってまで人族に盲従するか。そこにいるのなら、大人しく首を差し出せ」
ドラゴンの方から、重く歪んだ声が返ってきた。
「先ほどはよくも不意打ちを……許さぬ。全てを燃やし尽くしてくれよう」
ドラゴンの背から、血まみれのティムフダルグが顔を覗かせていた。
エリークスは冷たく、告げた。
「威を借る猿め。貴様は万死でも許さん」




