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追放された無能令嬢、魔界で最強の王となる  作者: 川合 佑樹


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第47話

 エリトラーゼは魔導書を構え、唇を妖しく歪めた。


「さて、どんな遊びをしましょうか」


 ヴァレリアが一歩前に出ようとした瞬間、エリークスが手を上げて制した。


 彼は前へ進み出る。

 外套の裾が、闇に溶けるように揺れた。


「奇襲の目的は何だ? 仲間は他にいるのか? いるなら数と配置、全て吐け。楽に殺してやる」


 その声は、散歩の途中で道を尋ねるような穏やかな響きだった。


 エリークスは歩き続ける。

 カツ…カツ…カツ…

 石畳を踏む靴音だけが、墓地の静寂に響く。


 エリトラーゼはわずかに後退し、魔導書を軽く掲げた。


「なるほど、中近距離専門ってわけ。だったら近づかせないわ」


 彼女は一歩下がるごとに、地面に赤い魔方陣を瞬時に描き始めた。


 足元から炎の柱が噴き上がり、エリークスの足を阻もうとする。


 エリークスは歩みを止めない。


 炎の柱が彼のすぐ横をすり抜け、墓石を赤く溶かす。


 熱風が墓地を薙いだ瞬間、エリトラーゼは魔導書を突き出し、短く詠唱した。


「インフェルノ・ランス!」


 灼熱の槍が十本以上、虚空から同時に生成され、エリークスを一直線に貫こうと襲いかかる。


 槍は空気を焦がし、墓地の土を焼き払いながら迫った。


 エリークスはただ歩く。


 槍が彼に触れる寸前で、軌道がわずかに逸れ、地面に突き刺さって爆発する。


 炎の衝撃波が周囲を巻き、墓石が粉々に砕け散った。


 セラーナは息を詰めた。


「これが……エリークスの本気?」


 ヴァレリアが、セラーナの肩にそっと手を置いた。


「魔王様。エリークス様はあれでも、こちらに被害が出ないよう抑えていらっしゃいます」


 エリークスは、再び問いかけた。


「三度目はないぞ。奇襲の目的は? 仲間の数と配置は?」


 エリトラーゼの笑みが、初めて強張った。


「……黙れ!」


 彼女は魔導書を両手で掲げ、激しくページをめくった。


「レッド・メテオ!」


 頭上の夜空が赤く染まり、無数の灼熱隕石が降り注ぎ始めた。


 墓地全体を覆う規模の範囲攻撃。


 隕石が地面に激突するたび、爆発と熱風が巻き起こり、墓石が蒸発する。


 その合間に、エリトラーゼは足元に複雑な魔方陣を重ね描きしていく。


 爆炎のトラップ、炎の結界、追尾する火球の連鎖――逃げ場を完全に塞ぐための狡猾な罠の網。


 しかし歩みを止められない。


 隕石が彼の周囲で爆発し、炎の海が広がる。


 だが炎は彼に触れることすら許されず、大気が恐怖するかのように左右に割れていく。


 ただ歩く。


 恐怖そのものが、日常を喰らいながら進んでいく。


 エリトラーゼの額に汗が浮かんだ。


「どうして……当たらないのよ!」


 彼女は巨大な火球を放った。


 火球は墓地の中心で爆発し、青白い炎の壁を形成してエリークスを包み込もうとする。


 その瞬間――エリトラーゼの背後から、外套が音もなく伸びていた。


 黒い布が蛇のように腕を絡め取り、締め上げる。


 エリークスは告げた。


「これ以上、魔王様の前で低俗な魔法の発動を禁ずる」


「――っ!」


 エリトラーゼは魔導書を落とし、無詠唱で口を動かした。


 炎の魔力が喉元に集まる。


 外套は容赦なく口元まで這い上がり、声を封じた。


 エリークスは淡々と続けた。


「これ以上、魔王様の前で声を発することを禁ずる」


「んーっ! んんーっ!」


 エリトラーゼの体が激しく暴れ、最後の意地を見せた。


 無理やり魔力を絞り出し、掌から小さな火球を放つ。


 火球は外套に触れた瞬間、音もなく吸い込まれた。


 ただの栄養にされたかのように。


 エリークスは呟いた。


「これ以上、魔王様の前に醜態をさらすことを禁ずる」


 外套が完全にエリトラーゼを包み込んだ。


 布が蠢く音だけが響き、徐々に小さくなっていく。


 やがて外套はエリークスの体に戻り、何事もなかったように裾を収めた。


 エリークスはセラーナの方を振り返り、頭を下げた。


「申し訳ありません。魔王様の前で無駄に時間をかけてしまいました」


 セラーナは、まだ震える息を整えながら、首を振った。


「……ありがとう、エリークス」


 墓地の風が、再び吹き抜けていった。


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