39/56
第39話
夜が深まり、ガルドリム要塞の石畳は冷たい闇に沈んでいた。
遠くの酒場の灯りもほとんど消えかけている。
金狼の牙のクランハウスの前に、一人の人影が立っていた。
深紅の法衣をまとったエリトラーゼ。
彼女は魔導書を片手に開き、唇をわずかに歪めて夜の闇を見据えた。
「紅蓮よ。慈悲すら許さず、すべてを無に帰せ『インフェルノ・ラグナロク』」
詠唱が終わると同時に、彼女の右手から灼熱の魔力が迸った。
炎の奔流が渦を巻き、クランハウスの重厚な門を直撃する。
ドゴオオオオン!!
轟音とともに門が粉砕され、炎の余波が石壁を焦がしながら内側へと侵入した。
扉の前まで火の手が迫るが、魔素の濃密な空気がそれをわずかに押し返し、完全な破壊には至らない。
エリトラーゼは魔導書を軽く閉じ、鼻を鳴らした。
「変な家ね。魔素が濃いせいで威力が制限されちゃったわ」
彼女は歩を進め、炎の残光に照らされた瓦礫を踏み越えていく。
その瞳には、冷ややかな興味と、確かな殺意が宿っていた。




