第37話
ガルドリム要塞、地下の死霊倉庫。
冷たい石の階段を降りきったところで、エリトラーゼは足を止めた。
ティムフダルグは作業の手を止めず、黒い霧を指先で操りながら、仮面越しにぼそりと呟いた。
「要塞内で不穏な噂が流れていると聞いた」
エリトラーゼは魔導書を抱え直し、薄く笑う。
「武装蜂起……魔族のささやかな抵抗があるとかなんとかね」
ティムフダルグは肩をすくめ、アンデッドの腕を動かしてみせる。
「化け物……向こうにとっての『英雄』の誕生に唆されたんじゃろうな」
「まだ現れてもいない希望にすがるなんて滑稽じゃない」
エリトラーゼの声は氷のように冷ややかだったが、瞳の奥にわずかな興味が灯る。
ティムフダルグは笑った。
「見えていることが重要ではない。魔法も同じじゃろて」
「ずいぶんロマンチックなこと言うじゃない?」
「それで、拠点は割れておるのじゃろう?」
エリトラーゼは頷き、唇の端を吊り上げた。
「えぇ、とても面白い場所に」
ティムフダルグは鼻を鳴らし、霧を強めてアンデッドを動かす。
「ふん、何体か貸してやろう。好きに使え」
エリトラーゼは小さく首を振り、軽く手を振った。
「いらなーい。臭いんだもん」
そう言うと、彼女の姿は霧のように薄れ、瞬く間に消えた。
ティムフダルグは一人残され、仮面の下で呟いた。
「……アバズレめ」
倉庫の冷たい空気が、わずかに震えた。




