第35話
解体所の外に出ると、バルドは足を止め、ヴァレリアに金貨の入った袋の片方をそのまま差し出した。
ヴァレリアは眉をわずかに上げ、袋を受け取らずに言った。
「これでは貰い過ぎだ。八十でいい」
「能力には対価だ。誰も文句は言わん。お前がいなければこれだけの素材は運べなかった。追加報酬だと思ってくれ」
ヴァレリアは迷ったが、袋を手に取った。
「貸しだとは思わないからな?」
「大丈夫だ。むしろ安心したよ」
「どういうことだ?」
バルドは周囲を軽く見回し、声を少し落とした。
「ここじゃなんだ。俺たちのクランに来てくれ」
一行は金狼の牙のクランハウスへと向かった。
場所はギルドからそう遠くなく、石畳の通りを二本曲がった先にある。
屋敷ほどではないが、明らかに他の冒険者クランの拠点より立派な佇まいだった。
黒い岩肌を基調とした外壁に、銀の狼の紋章が掲げられ、門扉は重厚で、小さな要塞のようだ。
バルドが門を開けながら言った。
「ここが俺たちのクランだ」
ヴァレリアは建物を見上げ、呟いた。
「ずいぶんと頑張っているようだな」
「あぁ……といっても、ここは昔魔族の貴族が使っていた場所らしいがな。人間の貴族が使わないってんで値切りまくって買った。お前には多少馴染むんじゃないか?」
ヴァレリアがわずかに眉間を寄せた。
「確かに。多少魔素が濃いように見えるな」
一行は中へと進んでいく。
玄関ホールは広く、天井が高く、壁には古いタペストリーが掛けられていた。
魔族の紋章が薄く残るそれらは、人間が使うには異質な雰囲気を放っている。
中に入ると、金狼の他のメンバーがソファに座っており、「団長、おかえりー」と軽い挨拶が飛ぶ。
見たところ、クランは女性が多い。
シエラをはじめ、弓使いらしきエルフ風の女性、回復役の聖職者風の少女など、十名近くがくつろいでいた。
バルドは皆に軽く手を上げ、「一時解散。今日はゆっくり休め」と伝えた後、ヴァレリアとセラーナだけを奥の廊下へ案内した。
廊下の突き当たりにある重厚な扉の前で、ヴァレリアが警戒して立ち止まった。
バルドは苦笑いを浮かべ、扉に手をかけた。
「あぁ……ここは完全防音、魔力遮断が施されている。元家主の趣味部屋だ」
ヴァレリアの声が低くなる。
「ここには入れない」
「……だが、ここでしか話せない事もある。それに武器は預かっていない。信頼してくれると嬉しいのだが」
セラーナはヴァレリアの袖を引いた。
「ヴァレリア、入りましょう」
「しかし……」
「大丈夫です。私を信じてください」
「……畏まりました」
三人は会議室へと入っていった。




