第34話
依頼掲示板の前で、セラーナとヴァレリアはリストを眺めていた。
その時、二階から足音が降りてきた。
バルドが階段を下りてくると、金狼の牙のメンバーたちに軽く顎をしゃくって合図した。
それからセラーナとヴァレリアにも視線をやり、軽く手招く。
「ちょっと来てくれ」
全員がギルドの裏口から外に出ると、そこは解体所だった。
血と肉と魔物の臭気が混じった空気。
床には排水溝が走り、壁際には巨大な鉤や包丁が掛けられている。
中央に立つガタイのいい中年の男性が、バルドの姿を認めると大きく手を振ってきた。
「バルド! 待ってたぞ!」
「ボルグ! 暇そうだな!」
「うるせぇ」
ボルグはそう言いながらも歩み寄り、二人はごつんごつんと腕をぶつけ合って挨拶した。
その衝撃で空気が震えるほどだった。
バルドがヴァレリアを振り返った。
「今日はすげーぞ。ヴァレリア、見せてやってくれ」
ヴァレリアはセラーナを見て、静かに同意した。
ヴァレリアは、短く詠唱した。
「異界の深淵よ、汝の扉を開け――ストレンジ・ゲート」
金狼の牙にただ一つだけ――彼女が見せてもいいと判断した能力だった。
黒い空間の裂け目がぽっかりと現れ、異空間の冷気がわずかに漏れ出る。
ヴァレリアは無造作に手を突っ込み、次々と魔物の素材を取り出していった。
どさっ、どさっ、どさっ――
牙、爪、毛皮、骨、魔核。
道中で狩った魔物たちの部位が、地面に積み重なっていく。
最後に出されたのは、デザートベアの巨躯そのものだった。
重い音を立てて横たわると、解体所の床がわずかに震えた。
ボルグが目を丸くし、唸った。
「アイテムボックス持ちとは……。バルド、いい女をコマしやがったな」
バルドは軽く笑って肩をすくめた。
「新しき友だ。失礼な事を言うな」
「おぉそうだったかすまんな。口が悪いのは生まれつきだ」
「顔もな」
「なんだとぉ!」
ボルグが拳を振り上げたが、すぐに笑い声に変わった。
ヴァレリアは最後の素材を置き、言った。
「これで全部だ」
バルドがデザートベアを見下ろし、ボルグに視線を移した。
「俺の見立てで、金貨二百でどうだ?」
ボルグは鼻を鳴らし、腕を組んだ。
「この鮮度だと文句も言えんな。だが百五十が限界だ」
「ボルグ、こいつに賭けてやれよ」
ボルグはヴァレリアをじろりと見て、ため息をついた。
「はぁ……しょうがねぇなぁ。お前らじゃなきゃ百も出してないからな?」
バルドが満足げに笑った。
「今日の酒は俺が奢ってやるよ」
「馬鹿言え。この量が今日で終わるわけないだろ」
ボルグは奥の棚から金貨の入った袋を二つ取り出し、バルドに放った。
「良く帰ってきた」
「あぁ、だがこれからだ」
二人は拳を合わせた。
ごつん、と鈍い音が響き、解体所の空気がわずかに熱を帯びた。
セラーナはそのやり取りを、見つめていた。




