第27話
朝の光が、薄いカーテンの隙間から柔らかく差し込んでいた。
セラーナはまだ夢と現実の境に漂っていたが、穏やかな声が耳元で響いた。
「魔王様、お目覚めでございますか?」
目を開けると、ヴァレリアがベッドの傍らに控えていた。
セラーナは小さく身を起こし、顔をほころばせた。
「……おはよう、ヴァレリア」
ヴァレリアは一礼し、答えた。
「おはようございます。朝食は部屋でお取りになるとお伝えしておりましたので、宿主から受け取ってまいりました」
テーブルの上には、すでに料理が丁寧に並べられていた。
木の盆に載った黒パン、野菜がごろごろと入ったスープ、干した果実が数個。
ヴァレリアは無言で指を軽く動かした。
空中に水の粒が集まり、瞬く間に透明な水が浮かび上がる。
続いて、彼女の掌から小さな炎が灯り、水を包み込むように熱した。
どこからともなく取り出した茶器に、乾燥した茶葉を落とし、沸いたお湯を注ぐ。
たちまち、部屋に紅茶の甘く深い香りが広がった。
ほのかにフルーツのニュアンスが混じり、聖国で飲んだものとは違う、素朴で温かな香りだった。
セラーナはベッドから立ち上がり、テーブルに着いた。
パンを手に取る。
少し硬めで、表面がざらりとしている。
口に運ぶと、ぼそぼそとした食感が広がり、眉を顰めてしまった。
――聖国のふわふわしたパンとは、まるで違う……。
ヴァレリアはテーブルの横に立ち、待っていた。
セラーナはそれに気づき、慌てて顔を上げた。
「ヴァレリアも、一緒に食べましょう?」
ヴァレリアの視線がわずかに揺れた。
「しかし、私はお側でお仕えする身――」
「ここには私たちしかいないのよ。ね?」
セラーナは優しく口角を上げ、ヴァレリアの手をそっと引いた。
ヴァレリアは躊躇ったが、やがて小さく頷き、向かいの椅子に腰を下ろした。
二人で食事を始める。
ヴァレリアは黒パンをちぎり、スープに浸して口に運んでいた。
スープは野菜の甘みがしっかり染み出し、温かさが体にじんわりと広がる。
パンは浸すと柔らかくなり、ぼそぼそ感が消えて、素朴な小麦の風味が引き立っていた。
セラーナはそれを見て、真似してみた。
パンをスープに浸し、一口。
――あ。
温かなスープがパンに染み込み、野菜の旨味と塩気が口いっぱいに広がる。
硬かった食感がしっとりと変わり、噛むたびに優しい甘みが追いかけてくる。
思わず、セラーナの顔がぱっと明るくなった。
ヴァレリアがそれを見つめ、ふふっと小さく笑った。
唇の端が上がり、普段の真剣な表情とは違う、柔らかな笑みだった。
セラーナは目を丸くした。
「今、笑いましたねっ!」
ヴァレリアは慌てて口元を手で覆ったが、目元はまだ笑っている。
「失礼いたしました……」
二人は紅茶をすすりながら、食事を楽しく進めた。
小さな会話が交わされ、時折笑い声が漏れる。




