第20話
セラーナは小さく首を振った。
「弱った相手に複数で襲いかかるなど、卑劣です!」
静かだが、鋭く響く声だった。
エギルは槍を地面に突き立て、顔を上げた。
「はぁ? お前は誰だ? 他人様の喧嘩に口出しできるくらい偉いってのか?」
セラーナは、しかし力強く名乗りを上げた。
「私の名はセラーナ・アルカディア。この戦いに介入します!」
声は揺るがず、広場全体に響き渡った。
かつて聖国で王太子妃として育てられた気品と、今の魔王としての覚悟が、重なり合っていた。
エギルが鼻で笑った。
「アルカディアだぁ? 聖国の王太子妃を名乗ればビビると思ったか? 魔族を二人も連れて……あ? 一人どこ行った? ……まぁいいか」
彼は槍を軽く振り回し、セラーナに照準を合わせた。
「丁度いい。聖国なら腹いせだ。違うなら世界に穴が二つ増えるだけだ」
バシュッ!
槍が放たれた。
灼熱の軌跡を引いて、まっすぐにセラーナの胸を狙う。
ガアアアンンッ!
その瞬間――ヴァレリアが横から飛び込み、槍に飛び蹴りを叩き込んだ。
金属が軋む音が響き、槍は軌道を逸らされて飛んでいった。
「魔王様!」
ヴァレリアが着地と同時に叫んだ。
セラーナは既に杖を握り、黒薔薇の花弁が微かに光っていた。
魔力を込める。
青紫の光が広場一帯に広がり、空気が重く淀む。
魔力領域が完全に展開された。
エギルが右手を掲げ、呟く。
「ウェポン・リコール・オーバードライブ」
――だが、槍は戻ってこない。
魔力領域に阻まれた。
エギルが瞳を絞った。
「なんだこりゃ……魔法が」
ヴァレリアが目にも止まらぬ速さでエギルに肉薄した。
「新魔王様のとっておきの魔法だ。その身に焼き付けろ」
ドガオオオオン!
拳がエギルの腹部に叩きつけられる。
衝撃波が背中を抜け、体内で爆発したかのようにエギルの体が跳ね上がる。
「ごはぁっ!」
ヴェルディア軍の残党の一人が叫んだ。
「エギル様!」
彼は両手を掲げ、雷光を収束させる。
「サンダー・ボルト!」
しかし、魔力領域がそれを完全に封じた。
雷は指先で散るだけで、発動すらしない。
その背後で、ふっと空気が歪んだ。
リオが現れる。
「彼と槍は遠いところに逃がして来たよ。もう領域は解いていいよ、魔王様」
セラーナは頷き、魔力を止めた。
青紫の光が霧のように消える。
次の瞬間、リオの姿が消え――ヴェルディア軍の残党三人の背後に転移した。
彼らは気づく間もなく、虚空へと引き込まれ、遠くへ飛ばされた。




