第17話
風を切り、瓦礫を避けながら、叫び声のした方向へ一直線に進む。
後ろからリオが軽やかに追いかけ、にこりと笑いながら独りごちた。
「そうか……新魔王様は慈悲深いお方なのか。みんなにも教えてあげなくては」
そして、辿り着いた先――まさに今、少年の命を断とうとする兵士の一撃が振り下ろされようとしていた。
ヴァレリアは飛び移ってきた勢いのまま、兵士の頭を蹴り抜いた。
兜が砕け散り、兵士の体が吹き飛ばされる。
ヴァレリアは衝撃を逃がすように着地し、セラーナを優しく地面に降ろした。
セラーナはすぐに少年に近寄った。
リオはヴァレリアの側に行き、状況を素早く確認してから、飛んでいった兵士の様子を見に行った。
少年の体は息も絶え絶えで、冷たくなっていた。
ヴァレリアがセラーナに近づき、言った。
「もう助からないかと」
セラーナはヴァレリアを振り返り、告げた。
「助からないのであれば、ここへは連れてきていないはずです。どうすればよいのですか?」
ヴァレリアはセラーナの瞳を見つめ、跪いた。
「港で行ったように、魔王様のお力をその魔族に流し込めば、回復する可能性は大いにあります。ですが、周辺に軍属がまだいるでしょう。その力を感知されれば襲われるやもしれません。しかし……」
ヴァレリアは立ち上がり、優しく笑った。
「魔王様なら、救ってしまうのでしょう?」
セラーナは頷き、少年の体に手を当てた。
自身の魔力を流し込む。
ファアアアアアア
額に汗が浮かび、息が少し乱れる。
体内の魔力が急速に消費され、軽い疲労が肩にのしかかった。
それでも、セラーナの表情は穏やかで、優しさに満ちていた。
ヴァレリアがそれを見て、説明した。
「そうです。魔王の魔力は魔族の潜在能力と魔力の根源に干渉します。強くしたいのであれば強く、助けたいのであれば助けたいと願ってください。それが我らの血となり肉となり力となるのです」
セラーナは心の中で強く願った。
――生きて。
魔力を再度込めると、少年の体が徐々に熱を取り戻し始めた。
傷口から肉芽が盛り上がり、血が止まり、浅い息が戻ってくる。
ヴァレリアがタイミングを見計らい、言った。
「もうよいでしょう。我々魔族は回復力が人間より高いので、後は自然治癒の方が後遺症も少ないと思われます」
セラーナは手を離し、ほっと息を吐いた。
額の汗を拭い、疲れた笑みを浮かべる。
「分かりました」
やがて、少年の瞼がわずかに動き、薄く目を開けた。
掠れた、弱々しい声で――
「……ありがとう……お姉ちゃん……」
セラーナは優しく顔を輝かせ、少年の額にそっと手を置いた。
何か一つ前に進めた気がした。
胸の奥に温かいものが広がった。
リオが兵士を確認して戻ってきた。
「その子は助かったみたいですね。先に連れ帰りますか?」
ヴァレリアが提案した。
「魔王様。このままここで暮らさせる方が良いと具申します。魔王城の魔素量だと、このくらいの子供は逆に回復が遅くなりますので」
セラーナは心配そうに周囲を見回した。
「ですが、このままではまた襲われるのでは?」
リオがにこりと笑い、意味深に言った。
「敵が残っていればね」
その言葉が終わらないうちに――遠くから、馬蹄の音と金属の鎧が擦れ合う音が近づいてきた。
セラーナが顔を上げると、煙の向こうから現れたのは、黒と金を基調とした重厚な鎧の騎士団。
ルクスヴァルト帝国の騎士。
彼らの視線が、セラーナたちと、倒れたヴェルディアの兵士、そして回復し始めた魔族の少年に注がれた。
新しい出会い――そして、予期せぬ対峙が、今始まろうとしていた。




