第16話
砂漠の熱風が、砂粒を巻き上げて頬を打つ。
リオの転移魔法が解けた瞬間、セラーナは言葉を失った。
黒岩の前哨――かつて魔王軍の最前線として聳えていた堅牢な城壁は、今や無残に崩れ、攻撃の爪痕が刻まれていた。
黒焦げた石が剥がれ落ち、ところどころに砲弾の跡が残る。
遠くから立ち上る黒煙が、空を汚し、聖国では決して見ることのなかった「戦争そのもの」を、容赦なく突きつけてきた。
「とうちゃーく」
リオが軽やかに言って、髪を風になびかせた。
ヴァレリアがセラーナの横に控え、尋ねる。
「大丈夫ですか? 魔王様」
セラーナは声を絞り出した。
「えぇ……これが、現実なのね」
ヴァレリアは無言で首を縦に振った。
「はい。見慣れたものです」
リオが少し離れた位置から、セラーナの顔を覗き込むように言った。
「どうする? 戻る?」
セラーナは首を横に振り、決意を込めて答えた。
「いいえ。進みましょう」
三人は歩を進め、門番の姿もない崩れた門をくぐった。
そこは、惨状だった。
倒れ伏す魔族の亡骸。
血に染まった人間の兵士たち。
焼け落ちた家屋から漂う焦げ臭い煙と、埃と血の混じった風が、容赦なく鼻を突く。
セラーナの胃がねじれ、気分が悪くなった。
ヴァレリアが素早く周囲を警戒しながら、セラーナの腕を優しく支えた。
その存在感が、わずかな安心を与えてくれる。
すると、遠くから――子供の叫び声が聞こえた。
セラーナの体がびくりと反応した。
「……今のは」
リオが耳を澄ませ、即座に答える。
「魔力反応からして、子供の魔族かな。多分エリュシオンかヴェルディア……このやり方はヴェルディアの軍だと思う。殺されたんだろうね。いやまだ生きてるのかな?」
セラーナの目が鋭く光った。
「助けに行かないと」
リオが少し驚いたように目を丸くした。
「なんで? もう死んだと思うよ?」
セラーナは力強く言った。
「そこに……まだ燃えている命があるのなら、私は助けたいわ」
ヴァレリアが即座に膝を折り、頭を下げた。
「畏まりました。では――」
そう言うと、ヴァレリアはセラーナを軽々とお姫様抱っこした。
「えっ、ちょっとヴァレリア!?」
セラーナの顔が赤らみ、慌ててヴァレリアの肩にしがみつく。
ヴァレリアは力強く言った。
「捕まっていてください! 間に合わせます」
ヴァレリアは街路を疾走し、崩れた壁を蹴って屋根に飛び移った。




