第15話
黒岩の前哨は焼け落ちていた。
村の広場では、煙が立ち上っていた。
別の軍勢が、騒ぎを聞きつけて到着していた。
聖国エリュシオンともヴェルディア王国とも異なる軍装。
黒と金を基調とした重厚な鎧、背後に翻る獅子と星の紋章。
それは、対魔王連合国の一翼を担う大国――ルクスヴァルト帝国の騎士団だった。
先頭に立つのは、分隊長のジークフリート・ヴァルハルト。
鍛え上げられた体躯に、戦場をくぐり抜けてきた無数の傷跡を隠した鎧をまとい、腰の長剣はまだ血の臭いを残している。
彼の隣には、補佐官のフリーデリケ・シュテルンが控えていた。
銀色の髪を短く切り揃え、冷徹な瞳で周囲を観察する女性だ。
ジークフリートは馬を降り、焼け落ちた村の惨状を一瞥した。
倒れ伏す魔族の亡骸。
その中に、子を抱きしめたまま絶命した女魔族の姿があった。
小さな角を生やした子は、すでに息が絶えている。
フリーデリケが進み出て、声を潜めた。
「協定などあってないようなものですね」
ジークフリートは即座に部下たちへ指示を飛ばした。
「生存者は確認でき次第保護しろ」
フリーデリケの眉がわずかに動いた。
「よろしいのですか? 我らが干渉し過ぎると、聖国との戦争にもなりかねませんが」
ジークフリートは足を止め、焼け焦げた広場に視線を落とした。
やがて、女魔族の亡骸を指さした。
「分かっている。だが……見てみろ」
彼の声には、抑えきれない苛立ちと、どこか苦いものが混じっていた。
「頭では魔族だと分かっている。だがこの見た目、志。戦争は終わった。これでは人殺しと変わらん。お前はこいつらを家畜だと……いや、家畜以下だと本気で言えるのか?」
「……私からは……何も」
「お前は正しい。だが、俺はこれからの時世を、胸を張って生きていくために、このような状況は見過ごせない。彼らが罪を犯したのならば裁かれるべきはここではない。俺は自身の正義を信じたい」
「分隊長……」
「それにな。俺はずっと戦ってきた俺たちに横やり入れて手柄をかっさらっていった聖国が気に入らんのだ。スリの手は……法ではどうするべきだったか?」
フリーデリケは即座に理解し、腰から剣を抜いた。
冷たい金属の音が響く。
「切り落としてやりましょうか」
彼女の唇に、薄い笑みが浮かんだ。
ジークフリートは高らかに笑い、部下たちへ視線を走らせた。
「見せつけてやろう! 別働隊にも伝令を出せ! 周辺警戒を解き、ヴェルディアの残党を一掃せよ! 正義は我らに在り!」
その瞬間、広場にいたヴェルディアの兵士たちが異変に気づき、剣を構えた。
だが、ルクスヴァルト帝国の騎士団はすでに動き始めていた。




