第14話
二人は訓練場へと向かった。
広大な円形の場は、魔王城の地下にあり、強固な結界で囲まれている。
「では、今から炎の簡易魔法を放ちます。杖に魔力を込めてみてください」
セラーナは戸惑った。
「魔力を込めるって……どうすればいいのかしら」
「魔王様は一度港で魔法を放った経験がございます。あれを思い出してみてください」
「あれが……魔法だったの……」
セラーナは目を閉じ、あのときの感覚を思い出した。
港で触れた魔族の胸元から熱いものが流れ込んだ瞬間。
体の中から湧き上がる力。
それを、杖に送るイメージで――。
淡く青い光が杖を包んだ。
バオオオオンッ
次の瞬間、訓練場一帯が青紫の魔力に覆われた。
結界が軋む音が響く。
空気が重く、肺にまとわりつくような圧迫感。
ヴァレリアの頬を汗が伝った。
「これほどとは……! 魔王様! 魔力はもう送らずとも問題ありません!」
セラーナは慌てて魔力を止めた。
青紫の光が霧のように消え、訓練場に静けさが戻る。
「成功したのかしら?」
ヴァレリアは息を整えながら、興奮を抑えきれない様子で答えた。
「はい。あの紫色の魔力領域内では、魔王様以外の魔法の行使が出来なくなります。本来、身の回りを守る程度の領域を作れれば上々だと思っていましたが……さすが魔王様。訓練場いっぱい、いやそれ以上に展開できるとは! これで魔法使いどもは一掃できますね!」
セラーナは、乾いた笑いを漏らした。
「ははっ……ははは」
(この力で、誰も傷つけずに済む方法があるなら……いいけれど)
彼女はそっと杖を胸元のポケットにしまった。
その仕草は、どこか不安を押し隠すようだった。
そのとき、訓練場の入り口から軽やかな声が響いた。
「魔王様、そろそろお出かけになる時間が近付いてまいりました!」
リオが駆け寄ってきた。
セラーナはこぶしを握り締めた。
これから戦争の爪痕を、この目で見に行くのだ。
覚悟を決めて、彼女はリオに温かな表情を向けた。
「ありがとう、リオ。行きましょう」




