9話 アンノウン もう一つのアナザーストーリー
12月のクリスマスの早朝、俺はベッドから
出ると、ウチの猫の日課の如く、
ヨガストレッチを行い、毛づくろいの代わりにバスタブに湯をはる。
俺は再び東京に来ていた。
笑うかも知れないが、思わぬ臨時収入があった事もあって
今回は、以前から泊まってみたかった神楽坂にあるこじんまりとしたクラッシックホテルに滞在している。
俺が湯にビタミンCのサプリと塩化ナトリウムを少量入れた風呂に入り、
BGMに、カール・リヒター版のバッハのフルートソナタをかける。
まるで「コブラ」に出てくる“魔術師ターベージ”の気分だ。
ドラゴンボールにもベジータが出て来るが、“ターベージ”の方は
植物系惑星人だったなと、どうでもいい事が頭に浮かんで来た時、
バスルームのドアがあき、「おはよう。」と目を擦りながら、色白かつ、
どう見ても見事なスタイルの娘が、顔を覗かせた。
佐倉真名美、今回、俺が東京に来ている理由だ。
真名美から電話があったのは、1月前のことだ。
いつもならLINEで済む間柄だが、何か理由があったと、ピンと来た。
セナが別の女と付き合うと言い出して、別れたらしいのだが、
その女というのが、一昨年の教育実習生だった、松田瑠衣だった。
四谷のミッション系大学に通う、清楚で儚げな、
どこか危うい美貌を持つ瑠衣は
当時、生徒達の間で圧倒的ともいえる人気があり、“水道橋の長澤まさみ”と言われた真名美すら、嫉妬した程だ。
真名美が背伸びして、ローラ・アッシュレイの花柄のワンピースを着るのも、
その影響らしい。
またバイク好きで、俺同様に福島の震災を経験したという事で、
シンパシーを感じた俺は、どこをどういうわけか、この年上の彼女と付き合っていた。そして名古屋の高専に移ってからフェードアウトしたのだ。
実は俺が鬼束ちひろを耳栓をして聴くのも、彼女の影響だったりする。
その瑠衣と今度はセナが付き合いだしたのだ、真名美としては複雑を通り越して
おかしくなりそうだったのだろう。
やがて、バスタブで魚になっている真名美に声をかけて背中を流してくれと言うと、「昨日のお返しよ。」と言って
何故か、首筋に噛み付いて来る。
背中の筋肉を摘んだり、ツンと上向きの豊かな胸を押し付けたりしながら、
俺の反応を楽しむ真名美の鼻歌を聞いているうちに――
俺の下半身もそろそろバーティカルリミット(限界高度)を迎えた。
2時間後、上気した様に赤くなっている真名美をつれて、チェックアウトする。
こちらでの足として、吉良からしばらくの間借りた、黒の
アウディTTロードスターのドアを開いて、真名美をエスコートする。
俺がプレゼントした、グローバオールのグリーンのショート丈ダッフルコート姿の真名美は
鼻を鳴らすと、タンレザーのシートに沈む。
巻き込み防止にと俺のボルサリーノのハンチングを渡すと、
ニッコリ笑った真名美はジャニスジョプリンみたいな丸いピンク色のサングラスを掛けた。
何故か、似合っていた。笑。
カーオーディオから流れて来る、バイノーラルな音楽を
FMに切り替えて
ロードスターを静かにスタートさせる。
とりあえず吉良に車を返して
昼は中華街で、軽くおかゆでも食べたい気分だ。
そして夜はニューグランドで凱先輩と久し振りに飲む予定がある。




