9話 アナザーストーリー 佐反兄弟
――評価された結果――
結果発表は、驚くほど事務的に始まった。
巨大なホール正面のスクリーンに、
国名、学校名、研究タイトルが順番に映し出されていく。
一つ、また一つと名前が流れ、
会場の空気は次第に落ち着いていった。
――そういうものだ。
ここは、感情よりも結果が優先される場所だ。
そして、
自分の研究タイトルが表示された瞬間、
会場の空気が、わずかに揺れた。
最優秀賞。
一拍遅れて、拍手が広がる。
俺は立ち上がり、壇上へ向かった。
実感はなかった。
だが、不思議と違和感もない。
評価不能だった研究が、
最終的に「評価せざるを得ないもの」として処理された。
それだけの話だ。
⸻
授賞式のあと、
会場での扱いは一変した。
名刺を差し出される。
静かな声で呼び止められる。
人目を避けるように、短い会話が続く。
その中で、
はっきりと次を示す言葉があった。
「この研究を、
ここで終わらせる気はないだろう?」
奨学金付きでのスカウト。
条件は明快だった。
研究を続けること。
このテーマを、
“高校生の成果”として封じないこと。
答える必要はなかった。
向こうは、
すでにこちらを学生ではなく、
研究者候補として扱っていた。
フォーカス理論と言うとどうしてもフォーカス11以上のスピリチュアルよりのパートに関心が行きがちだが、
我々が生きている領域はフォーカス1から10までの現象世界なのだ。
そしてほとんどの出来事は現象世界で起きる。
俺も実はフォーカス11以上に達している自覚はあるが、それはおいおい解明してゆけばいい。今じゃない。
⸻
数日後、
俺は賞金と書類の束を抱えて日本へ戻った。
取材も、祝福も、
正直どうでもよかった。
重要なのは、
評価されたという事実ではない。
この研究が、
次の場所へ進めると確定したこと。
それだけだった。
⸻
帰国してから、ひと月が過ぎた。
輸送の手配。
通関手続き。
書類の山。
研究とは無関係な作業が続いたが、
それを無駄だとは思わなかった。
条件が整うまで待つ。
それもまた、
フォーカスを保つための工程だ。
⸻
そしてある日、
ガレージの前にトレーラーが停まった。
猫のエンゾを連れて、
シャッターを開ける。
そこに収まっていたのは――
アメリカから持ち帰った、
シルバーのナローポルシェ911E。
賞金の、約半分を使った。
無駄遣いだと言う人間もいるだろう。
だが、俺にとっては違う。
条件が揃えば、
正確に応える機械。
誤魔化しのきかない構造。
嘘をつかない反応。
細身のボディライン。
余計な装飾のない設計。
最新でも、派手でもない。
だが、
正しい状態に置けば、
必ず結果を返してくる。
俺はボンネットに手を置き、
しばらく何もせずに眺めていた。
環境。
条件。
精度。
人間も、
機械も、
本質は同じだ。
正しい条件を与えれば、
結果は再現される。
工具箱を開き、
最初のボルトに手を掛ける。
――さて。
次は、
どこまで精度を上げられるかだ。
乾いた金属音が、
そして猫の鳴き声が、
静かなガレージに響いた。




