6話 アナザーストーリー 佐反兄弟
二月の終わり。
俺は「現代風水研究会」の顧問である松平先生の引率で、京都パワースポットツアーに参加していた。
どうやら毎年この時期に行われる、サークル最大の行事らしい。
昨年は 身延山久遠寺 へ行ったと、一条から聞かされている。
いつも思うのだが、このサークルには、徳川だの小早川だの、
どう考えても庶民とは思えない名字の先輩が、普通にいる。
だからここは“高専の学習院”だ、という俺のギャグも、
当たらずとも遠からず――そんな気がしていた。
俺たち十二名は、前日に 鞍馬山 に登り、
出町柳でイタリアンの昼食をとったあと、京都御所を見学した。
夜は南禅寺参道の旅館に泊まったのだが、
偶然にも中学の修学旅行で泊まった宿だったらしく、
名物だという豆腐料理とともに、
なんとも言えない懐かしさを覚えた。
二日目は、京都サスペンスドラマの定番でもある
南禅寺の水路閣(水道橋)をじっくり見てから、平安神宮に参拝し、
岡崎公園の洒落たカフェで昼食をとった。
その後、八坂神社までのんびり歩き、帰途についた。
あのあたりの洗練された町並みは、
外国人に人気があるというのもよく分かる。
帰りも、いわゆる風水的な配慮――
電磁環境に配慮したグリーン車での移動となった。
一般車では情報量が多く、
身体に疲労が蓄積しやすく、抜けにくい。
それが先生の説明だった。
風水というと、
西に黄色いものを置けば運気が上がる、
といった開運術を思い浮かべる人も多いだろう。
かくいう俺も、その一人だった。
だが、高専で扱っている「楢崎流風水」は、
旧関東軍の依頼で満州の農地改良に関わった
物理学者・楢崎博士が、
七十年ほど前に体系化したものだという。
有名な神宮などでも、
取り入れられている場所はあるらしい。
占いというより、
電磁気学をベースにした環境学。
そう説明されると、腑に落ちる部分が多かった。
松平先生は、その孫弟子に当たるらしく、
いくつかの大企業やデベロッパーの顧問も務めている。
その再現性の高さは、
一般的な占いやスピリチュアルとは、
明らかに一線を画していた。
俺は、二〇一〇年の冬、
武漢で行われたゲーム大会以降、
自分の身体に起きている変化について、
断片的に考え続けてきた。
楢崎流風水を学ぶにつれ、
それらが電磁環境という一本の線で、
理解できるようになっていくのを感じていた。
俺は家から持って来た英字新聞を読んでいた。
前の席では、同級生の土岐―名前はトキだが通称ジャギ
(敢えて否定はしない)が、
台湾からの交換留学生である露園と、
研究の話をしている。
モデルを思わせる長身で、猫を思わせる特徴的な目つきをした彼女は、
女子の少ない我が校では、一際人気が高い。
その露園はときおり、こちらに目配せしてきた。
彼女は、台湾の風水と日本の風水の比較を
研究テーマにしているらしい。
場に溶け込みながらも、
どこか一線を引いた雰囲気があり、
距離の測りにくい人物だった。
実は、南禅寺の宿で、
少し気まずい出来事があった。
深夜、貸切にした家族風呂に
一人で入っていたとき、
酒に酔った彼女が、誤って入ってきたのだ。
俺が彼女に興味を示さなかった事もあって事なきを得たが、
(と言うか、女オタクである俺としては、いかにスタイルがよくても胸の小さな女には興味が湧かないだけなのだが。)
そのとき覚えた違和感は、今も消えていない。
意図があったのかどうかは、
はっきりとは言えない。
人によっては、
纏っている空気に“裏側”がある。
説明は難しいが、
武漢以降、俺はそれを感じ取ることが増えた。
露園からは、
その気配が、はっきりとした。
だからだと思う。
おそらく今後、
彼女と深く関わることはないだろう。
これもまた、
俺の中で静かに進んでいる変化の一つだった。




