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5話 アナザーストーリー 佐反兄弟

8月のお盆休み。

親父と兄貴と共に、俺は真里谷家の道場にいた。


兄貴は七月下旬に帰省して以来、

ほぼ毎日のように、真里谷先生から一手ずつ教授を受けている。


兄貴の話では、

一、二年生と違って三年生は、

車の免許を取らせる目的もあって、

実習が比較的少ないのだそうだ。


俺も先日、夏休みに入り合流したわけだが、

それでも兄貴の進捗ぶりは、

少なからず異常だった。


同じDNAを持っていても、かなり違う。それは特に、女の子の扱いにも出ている。

兄貴はまるでカサノバみたいな男で、ハンカチを拾っただけでも

次のデートに繋がるタイプだ。


一度、なんでそんなにモテるのか聞いたことがあるのだが、

「例えば、思い切って“おはよう”と言ってみるとか、毎日同じ電車に乗るとか」

当たり前の事しか言わない。

「当たり前じゃない?」

と聞くと、「そうか?でも当たり前が大事だろ。笑」と笑った。


まあ俺は俺だと思っていたが、

そんな俺にも、最近、年上の彼女ができた。

それが、ここしばらくで一番うれしいニュースだ。


サイドカーショップのイベントで知り合った彼女は、

美大に通い、

ホンダGBクラブマンのサイドカーに乗っている。


250cc以下だから軽車両扱いになる。

全幅は1400ミリ。

俺のBMWより、取り回しは楽だ。


ただし――

舟に乗っている側は、

単気筒の振動も含めて、構造的にしんどい。


換骨奪胎後の俺でなければ、

たぶん、リバースものだ。


ちなみに、アルバイトは殆どしていない。

たまに単発でイベントのモデルをする以外には

東北震災の避難勧告者には、

月に十万円の“迷惑料”が、無税で支払われるからだ。




――随分と、話が外れてしまった。


先生は、木刀を眉間の高さまで引き上げ、

無言で、ただ下ろす。


それだけの、あまりにシンプルな動作。

だが、まったく歯が立たない。


他の武術では、

気合いを込め、威圧し、心理を揺さぶって打ち込むことが多い。

だが我が家の武術――

システマに酷似したそれは、

余計な心理操作や予備動作が、極限まで削ぎ落とされている。


技術というものは、

突き詰めれば、必ずシンプルに行き着く。


結局、入部した“現代風水研究会”での活動を通して、

今の俺は、それを理論としては理解できている。

だが、理解と実行は、まったく別の話だ。


ギャビン・ライアルの

『最も危険なゲーム』だったか。


――スタイルじゃない。

名人上手は、狙って撃つだけだ。


近頃の兄貴を見ていて、そんなフレーズが

ふと頭をよぎった。




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