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2話 アナザーストーリー 佐反兄弟


東京高専への転入が決まったものの、

俺の中には、どうしても割り切れないものが残っていた。


同級生の多くは高校三年生。

そろそろ受験モードに突入する時期だ。


そんな中で、俺の選択肢は現実的に二つしかなかった。


高専三年を終えた時点で大学を受けるか。

それとも、高専を卒業してから編入するか。


加えて、俺は四月一日生まれの、ぎりぎりの早生まれだ。

高専卒業後に海保大へ進学すれば、

感覚的には、ほとんど一浪に近い。


もっとも、

「アメリカでは、自分の価値をプレゼンできない人間は、

どれほど能力があっても評価されない」


そんな空気に慣れてしまった俺にとって、

AO入試という選択肢も、決して悪いものには思えなかった。


兄に、なぜ海保大を選んだのかを尋ねると、

答えは実に明快だった。


まず、自衛隊と違って定年が六十歳であること。

海保大出であっても、霞ヶ関の官僚と同様に、

海外大学院への留学や、海外公館への出向といった

チャンスが用意されていること。


さらに、

警察が「社会」を守る組織なのに対し、

海保は「国境」を守る部隊であるという点。


欧米では、沿岸警備隊は警察より格が上で、

上級幹部になると「将軍」の称号を持つ。


――エネルギー保存の法則に従えば、

コスパは最高、というわけだ。


また俺の場合は、

高専卒業後に有名国立大学へ編入するのがベストだとも言う。


なるほど、と素直に思った。


そんな話をしながら、

俺と兄はリビングで、

なぜか「円盤UFO」のDVDを眺めていた。


そこへ母が顔を出し、

「エンゾが隣の家に飛び込んでいったから、

電話しておいたの。迎えに行ってきて」と言う。


エンゾというのは、

ヒマラヤンブルーの猫で、

同時に、我が家の“警備員”でもある。


俺と兄は顔を見合わせ、

好奇心から、二つ返事で家を飛び出した。


隣家は、今どき珍しいほどの広さだった。

間口も奥行きも、四十メートル以上はあるだろう。


京都・嵯峨野の料亭を思わせる竹林に囲まれた屋敷。

門のインターフォンを鳴らすと、

表札には「真里谷猿四郎」と、

墨で書かれた、人を食ったような名前があった。


猫を探していると告げると、

「母屋にいる」

それだけが返ってきた。


来訪を拒む気は、ないらしい。


竹の茂みを抜けると、

外からは分からなかったが、

ドイツ屋根の洋館と、

平屋の和風家屋が並んで建っていた。


その古い洋館の、

ウォールナット製の大きなテーブルの上で、

エンゾは我関せずといった様子で、

身繕いをしていた。


一同が席につくと、

エンゾはふと顔を上げ、

迷いもなく、老人の方へ歩み寄る。


そして、

何のためらいもなく、

その頬を、ぺろりと舐めた。


エンゾは一度だけ丸く鳴き、

猿四郎の膝の上に、身体を預ける。


誰も、何も言わない。


やがて――

そのまま、眠ってしまった。

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