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アギト再び その4


アギトは八ヶ岳山麓の別荘で、

ノートパソコンの画面を眺めていた。


フゥ、と息を吐き、画面を閉じる。


――そろそろ、売り時か。


吉岡が動く前に、

中国系電力会社絡みの株はすべて処分。

半導体も、同じだ。


彼女たちの嫁入り費用は、

もう十分すぎるほど稼いだ。


末妹のマリアが、

アギトの首の後ろから抱きつき、甘えた声を出した。

アギトは、笑うと「まあ、いいか」と振り向いてマリアに応えた。

膝の上にいた猫が、スッと居なくなる。


目を閉じたマリアの長いまつ毛は、どことなくラズリを連想させた。


昼前にゴディア姉妹を伴い、食事に出ることにする。

ガレージには、

アギトのVWアルテオンと、

姉妹用のボルボV60が並んでいた。


四人がアルテオンに乗り込むと、

アギトはジビエを扱う店へ向けて、

車をスタートさせた。


レストランの個室に通されるとそこには先客がいた。

フォン・メッツェンガーシュタイン伯爵夫妻だった。


伯爵は椅子から立ち上がり、

当然のように握手を求めてくる。


「久しぶりですね。“アギト卿”」


ゴディア姉妹が、少し驚いたように顔を見合わせた。


アギトは少し照れたように笑う。


「お連れの方々はご存じなかったようですね。

あなたが、聖サンチャゴ騎士団の名誉副団長だということを」


「こんにちは、アギトさん」真名美も、

慣れたようにスマイルを放つ。

ショートヘアに似合うシンプルで上品な黒いワンピースが、

板についている。


アギトはかつて金沢八景の地下施設で見つけた、

無記名の“白い子犬の描かれた小品”を、

静かにテーブルへ置いた。


「伯爵への昇進のプレゼントです。」


「ほお、これは印象派のようですが。」


「タッチ、いや波長から見るに、セザンヌですね。」


「かつて、ラピスもそう言っていましたが、

私は花より団子という性分でして。

この娘達が幸せに暮らす事が、唯一の望みです。」


「確か、ジャコメティも同じことを言っていました。」

「もし、火事になったら、レンブラントの絵よりも猫を救う。そして後でそっと放してやる。」伯爵が言うと、


「芸術よりも人生を」ね。真名美も頷く。



「下世話な話になりますが――

戦争難民だった末娘のマリアも、

来年は大学進学の時期です。

是非、伯爵のお力をお借りしたい」


「現代の“ヨナ”そして聖サンチャゴ騎士団の勲爵士であるあなたの推薦を、

断る大学は少ないでしょう。

少なくとも、世界のカトリック界隈では」


伯爵は、穏やかに微笑んだ。


「デヴィ夫人のパーティに主賓として呼んでもらえそうだね。」

真名美が合いの手を入れると


アギトは静かに頭を下げる。


アギトは続けた。

「それを聞いて、胸を撫でおろしました。

だが、あの紛争は領土問題や安全保障問題以前に

明らかに、異質だ。」


「なにせ、ロシアからの天然ガスに頼っている国々がロシアに喧嘩を売っているのだから。」


真名美はハンドバッグから、

白いプラスチック製の小さなデバイスを取り出し、

テーブルの上に置いた。


「大丈夫よ。

この部屋には電磁シールド結界が張ってある。

半径五メートル以内の盗聴はできないわ」


つまり、我々カトリック教徒と正教会との、

代理戦争にも見える。


そこへ、お人よしの日本政府が、

意味のよくわからない援助を重ねている。


戦争を長引かせ、

グローバリストたちを儲けさせるためにね。


その一方で、中国は――

漁夫の利を得んとばかりに、傍観している。


「だからこれから、利権屋どもに一泡吹かせる、つもりです。

まあその元締めであるグローバリスト達すら、中国に一本取られている事に、最近ようやく気づきはじめた様ですが、時既に遅し。」


「半導体にバックドアを仕掛けて、中国からの指令で

メガソーラーやEVを止められるそうね。

確かボルボも中国資本だった筈だわ。」


「そう、このままではオチオチ、宇宙旅行に出かけられない。笑。

蘭には先を越されましたがね。」


アギトは姉妹を振り返って、軽く肩をすくめて見せる。


三姉妹は、イコン画の天使のような顔で、ただ微笑んでいた。

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