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アギト再び その3


セントレアからのヘリを降りたアギトを迎えに来ていたのは、

蘭の乗る白のダットサン・フェアレディのオープンカーだった。


「いい車だな。フェアレディか。確か野際陽子が

 キーハンターで乗ってたよな?」


「ビンゴ。ダイハツコペンと間違われるんだが、あと海沿いだから、塩害対策が大変さ」


蘭はそう答えた。


ここは志摩半島、英虞湾近くにあるヘリポートだ。


元々この辺りには、リアス式海岸を利用した

合歓の郷という閉鎖型の高級リゾートがあった。


だが、バブルの終焉と通信機器の発達とともにその役目は終わり、

今は再び、静かな入江へと還っている。


蘭はこの地で、バブル期に建てられた古いログハウスを購入し、

全面改修していた。

休みの日は、ここで過ごすことも多い。


車をスタートさせると、

カーラジオから《非常のライセンス》が流れ出した。

続いて、《カーナビーツの「好きさ、好きさ、好きさ。」》。


偶然とはいえ、いかにも合歓の郷に相応しい選曲だった。


「結婚おめでとう、蘭。

……いや、今は凱だったか?」


「ああ、ありがとう」


今日は、親しい友人を招いてのささやかなパーティだった。


やがて、崖の上に立つログハウスが目に飛び込んでくる。

アルファベットの“A”、あるいは船底をひっくり返したような、

壁と屋根が一体化した構造を持つ建物だ。


「なるほど。昔の帆船の技術を使った建物だな」


アギトが呟く。


「バブル期に作られたのを、安く買って改装したんだ。

 杏子の趣味さ」


蘭は言った。


家の前には、赤井のアウディA6が停まっていた。


室内では、ホステスの杏子、真名美、味沢と蜜の夫妻、

赤井と吉岡、そしてパイカルと瑠衣のカップル――

それぞれ“生き残った者たち”が集っていた。


アギトは軽く右手を挙げて挨拶をする。


ウォールナット製、2.2×1.1メートルのダイニングテーブルには、

伊勢海老をはじめとする様々な海産物が並んでいる。


杏子によれば、

ヒゲの折れた伊勢海老などを、近くの漁村で格安に

手に入れられるらしい。


アギトも、手にした袋から、

愛知の知人から受け取ってきた

“生産調整モノ”の和牛を取り出した。


自慢じゃないが、生産調整モノは

市場価格よりも遥かにコスパがいい。

包装紙よりも中身が大事だと思うタイプだ。


ワインを開けながら、パイカルが言う。


「今日集まったのは、単なる同窓会じゃない。


 中国系の電力会社が、

 この辺りの土地をまとめて押さえ、

 メガソーラーを作ろうとしている――

 そんな話を、小耳に挟んでね」


「確かに、ゴルフ場やリゾート地の跡地は、

 水道や電気といったインフラが整っている。

 連中のターゲットにされるケースが増えているな」


味沢がうなずく。


「県知事をはじめ、メガソーラー推進派が多い県だが、

 よりによって――

 スズメバチの巣、いやサソリの巣に

 自分から頭を突っ込んでくるとは。


 今回、痛い目を見るのは……

 むしろ、連中の方だろう」


いかにもジャーナリストらしく、

吉岡がニヤリと笑った。


「で、どうする?

 俺たちが金に物を言わせて

 この周辺を買い漁り、地上げするか。

 それとも岩野センセイ謹製の音響兵器でも使って妨害するか」


アギトが冗談めかして言う。


「まあ……あなたが言うと、

 本当にやりそうだから困るのよ」


杏子が眉をひそめた。



「実際、無秩序なメガソーラー開発は、

地域の生態系を確実に破壊する。

放っておいていい問題じゃない――


だが、自分の払った税金で、

それを“裏庭”でやられるとなれば、

さすがに堪に触るのも事実だ」


蘭はそう言って、ニヤリと笑い、

グラスのワインを口に運んだ。


窓の外では、英虞湾が静かに闇へ沈んでいた。

入り組んだ入江の水面には、沖に出た漁船の灯りが点々と浮かび、

その一つひとつが、動かない星のように揺れている。


風はなく、波も立たない。

人の手が入る以前から、ここにあったはずの夜だった。


「では手始めに、そのあたりの情報を

吉岡君の番組で取り上げてもらうか。


大丈夫だ、スポンサーは太っ腹だ」


パイカルが笑った。


「そして、次に環境保護団体だ。

この辺りには、かねてより思い入れのある

中央や関西の有識者も多い。」


「それでダメなら、次は地元政治家にスキャンダルが発生する。そう言う筋書きサ。」

パイカルは悪びれもなく言った。



蜜は静かに言った。

「私は新しい保守政党には合流するわ。

でも――“信仰”はしない」



一か月後――

吉岡が司会を務める動画番組で、

**英虞湾一帯に計画されているメガソーラー開発についての“噂”**が、

さりげなく、しかし確実に投下された。



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