第12話 ダークヒーローは永遠に
結局、俺はアギトのスカウトに乗った。
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理由は単純だ。
あいつが——国家側の人間ではなかったからだ。
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少なくとも、俺の知っている“国家”ではない。
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日本という国は、どこか歪んでいる。
首都は東京とされているが、憲法に明記されているわけじゃない。
東京と京都、二つの御所。
表と裏。
そんな構造が、この国には最初からある。
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——政府の上に、もう一つの政府がある。
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そう考えたことは、何度もあった。
ただの妄想だと思っていた。
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だが——
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アギトを見て、考えが変わった。
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あれは、説明のつく存在じゃない。
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つまり——
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“ある”のだ。
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もう一つの側が。
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トリニティは、それを当然のように扱っていた。
あいつにとっては、境界そのものが曖昧なんだろう。
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世界が二つあるのではなく、
“見え方が二つある”。
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その境目に立つもの。
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——ヤヌス。
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門の守護者。
内と外、過去と未来、二つを同時に見る存在。
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そしてトリニティは、そこを行き来できる。
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俺は——
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「あなたは、あちら側の血を持ってる」
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以前、トリニティにそう言われた。
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ギルガメッシュ叙事詩に出てくる、さそり人間。
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正直、笑い飛ばしたかった。
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だが——
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アギトを見てからは、笑えない。
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あいつは、“そういうもの”だった。
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なら、俺も同じかもしれない。
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……いや。
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少なくとも、“無関係ではない”。
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ヤヌスに関わる者は、選ばれる。
そういう仕組みらしい。
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だからといって——
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何かがすぐ変わるわけでもない。
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現実は、現実だ。
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とりあえず、大学は卒業する。
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その先は——
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国家公務員か。
それとも、司法試験か。
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どちらにしても、
“こちら側”にいるための資格は、必要だ。
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そして——
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もう一つの側にも。
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「我々は観察者だ」
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“如月教授”と呼ばれる男は、そう言った。
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「表に出て何かをするわけではない。見守る者だ」
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一拍。
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「だが——そろそろ、血を入れ替える時期でね」
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視線が、こちらに向く。
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「アギトくんや、きみのような特異点を」
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その瞬間。
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教授の目が、開いた。
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光が、宿る。
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——違う。
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“見られている”。
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どこか遠くへ、引きずられそうになる。
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視界が、一瞬だけ歪む。
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……すぐに戻った。
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教授は、何事もなかったかのように微笑んでいる。
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これだから、やめられない。
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ここには、まだ何がいるのか分からない。
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どんな“化け物”が、隠れているのかも。
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そして——
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アギト。
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あいつは違う。
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最初から、そっち側にいる人間だ。
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理由なんてない。
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ただ、そういう風に出来ている。
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……生まれながらのダークヒーロー。
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だが——
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悪くない。
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ダークヒーローってのも。
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案外、俺の性に合っているのかもしれない。




