10-18 本音のその先に
次の日。
駿は自室の時計を何度も見上げながら、家に遊びに来る果奈を待っていた。
◆◆◆
あの、後話し合った結果、果奈が家に遊びに来ることとなった。
果奈が家に遊びにくるのは今回で二度目なのに、始めて来る時よりも緊張している気がする。
今回は結も家に居なくて完全な二人っきりになるからか。
――いや、違う。
昨日感じた違和感がどこから来るものなのか、明らかにするからだ。
普段なら気にも留めない秒針の音が、今日はやけに耳についた。
時間だけがゆっくりと進んでいき、そしてインターホンが鳴る。
玄関へ向かうと、果奈が立っていた。
「いらっしゃい、果奈」
「昨日ぶりだね、駿。ケーキ買ってきたから後で食べよ」
「ありがとう」
果奈は笑顔で答える。
けれど、その笑顔はいつもの明るい笑顔というより、優しさが先に来るような笑顔に見えた。
その違和感を胸の隅に残したまま、果奈を家へ招き入れた。
果奈を自室に案内し、ケーキを冷蔵庫にしまうことにする。
箱を開けると、そこにはショートケーキが四つ入っていた。
それを見て、果奈との初デートのことを思い出す。
あの時の緊張感は今でも忘れない。
互いにケーキを食べあった時の緊張感は今までに感じたことがなかった。
何を話したのかは覚えているのに、ケーキの味を思い出せないし、どんな表情をしていたのか考えるだけでも恥ずかしくなる。
それから約三ヶ月、ここまで色々なことがあった。
楽しいこともあった。
苦しいこともあった。
付き合ってすぐに大きな壁にもぶつかった。
それでも距離を縮めながら、少しずつ二人で乗り越えてきた。
「……よし、行くか」
胸に手を当てて小さく呟き、覚悟を決め、果奈の元へと向かった。
「待たせてしまって、ごめん」
「大丈夫。ショートケーキ、結ちゃん喜んでくれるかな?」
「結、ショートケーキ大好きだから、きっと喜ぶよ」
「よかった……そういえば、今日は結ちゃん居ないんだよね?」
「うん、結は友達と遊んでる」
「そっか……」
前回と同じ二人っきりの状況なのに、違う状況に感じてしまう。
しばらく果奈との会話が続く。
休み明けの学校のこと。
部活のこと。
なんでもない話。
いつもならそれだけで楽しい筈なのに、今日は違った。
言葉の奥に、本題が隠れている気がする。
やがて会話が途切れ、静寂が落ちた。
それが言い出すチャンスだと思い、本題を果奈に問いかける。
「最近何か悩んでることある?」
これは悩みごとと言えるのか?とは思ったが、気づいた時には遅かった。
「特にないけど……なんで?」
どう返せばいいのか分からないけど、それでも確信に迫る為に続ける。
「昨日の果奈が、いつもと少し違った気がして……」
そう話した瞬間、張りつめていた糸が切れたみたいに、果奈の表情が変わり、隠していたものが少しだけ表に出る。
「流石に、誤魔化せなかったか」
本当に無理をしていたのだと分かり、胸が痛む。
「悩みがあったら話して。なんでも聞くから」
「言えないよ……仕方のないことなんだから」
絶対に事情を話そうとしないのと果奈の口から出た「仕方がない」という言葉、それだけで十分だった。
「もしかして、美生が泊まりに来たこと?」
果奈の肩がわずかに震え、顔を背ける。
図星だった。
なんで言ってくれなかったんだ、なんて責められない。
むしろ逆に、ここまで果奈に我慢させてしまった罪悪感が強かった。
「ごめん、変に気を遣わせてしまって」
果奈は首を振る。
「謝らないで。前も言ったけど、家の事情があってこうなってるのだからしょうがない。それに、駿に打ち明けたら、少しはすっきりした」
果奈は笑顔で返すが、無理して笑顔を作っているように見えた気がした。
「でも、今後美生が泊まりに来る度に、果奈に同じ思いをさせたくないし、俺も辛い」
そうは言っても何も解決にならないし、いい案がないかと考えるが、考えれば考えるほど答えから遠くなる。
どうしよう。
沈黙が落ち、時計の音だけが響く。
そんな葛藤している時のことだった。
果奈が顔を上げ、真剣な眼差しでこちらを見る。
どこか覚悟を決めたような目だった。
「駿」
果奈の唇がわずかに震えていて、何度か口を開きかけては閉じる。
それでも言葉を飲み込まずに続けた。
「……キス、しよう」
「えっ!?」
思わず声が漏れてしまう。
当たり前のように過ごしてきたこの部屋に、今までに感じたことがない特別な雰囲気が漂い始めていた。




