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10-16 広がる世界と見たことない私の表情

 二日後の午後。


 睦美は実行委員の活動を終えて、帰り支度をしていた。


◆◆◆


「浅村、一緒に帰らない?」


「いいよ」


 いつもの返事なのに、少しだけ嬉しくなる。


 夏休みになってから、浅村と帰るのが当たり前になっていた。



 でも。


 その夏休みも、もう終わる。


 来週からは新学期が始まり、再び浅村と帰れなくなる。


 そう考えた瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。


(なんでだろう)


 自分でも理由が分からないけど、その痛みは確かにあった。



 二人で校舎を出ると、夕方の光が長い影を作っていた。


 校門へ向かって歩いていると――


「あっ!駿君」


 浅村を呼ぶ女子の声が聞こえたのと同時に、心臓が不意に跳ね、反射的に声の方を見る。


「美生、部活終わり?」


「うん。駿君は実行委員のお仕事?お疲れ様」


「ありがとう」


 自然な会話。

 自然な笑顔。


 二人の距離感は近かった。


 長い時間を共有してきた人同士だけが持つ空気が漂い、二人が付き合っているようにも見えた。


 それを見た瞬間、さっき感じた胸の痛みがまた蘇る。


 理由は分からないけど、見ていて少しだけ苦しかった。



「隣にいるのは、同じ実行委員の人?」


「うん、名前は岸睦美さん。一年の時は同じクラスで、今は実行委員のしおり係として一緒に活動してる」


「岸睦美です。はじめまして」


「私は島内美生。よろしくね、睦美ちゃん」


 柔らかい笑顔で、初対面なのに不思議と話しやすく、緊張が少しほぐれる。


 そう思った勢いのまま、自然と質問してしまう。


「二人ってどういう関係なの?」


 すぐに、とんでもないことを言ったのだと気づくが、その頃には遅かった。


(何聞いてるの私!?)


 慌てて取り消そうとする。


「やっぱり、今の質問忘れて」


 取り消そうとしたが、浅村は何気ない表情で話し始めた。


「実は、互いの父親が友達で、美生とは幼い頃からの関係なんだ」


「……そうなんだ」



 その後、浅村と島内さんの詳しい関係を聞く。


 家族ぐるみの付き合い。

 一緒に夕飯を食べていること。


 普通なら驚く話だったけど、家庭の事情があるのだと知り、理解した。 

 


 だけど。


 それ以上に、二人が付き合ってないことを知って、ほっとしていた。


(なんで……私、こんなに安心してるのだろう?)


 何故かは分からないけど、それは確かだった。



 浅村と島内さんの三人で帰ることになる。


 始めは、いきなり二人の中に入って、上手く話せるのか心配したが、別れる頃には自然と会話の輪に入っていて、最終的に島内さんとLINEを交換するまで仲良くなっていた。




 その夜。


 自室で予習を進めていると、携帯の通知音が鳴る。


 島内さんからのLINEだった。


『改めて、よろしくね』


『こちらこそ、よろしく』


『一つ、質問していい?』


『構わないよ』


『呼び方、睦美ちゃんで大丈夫?』

『初対面からちゃん付けで呼んで、馴れ馴れしかったかなって』


 呼び方ぐらいなんでもいいじゃんって思い、思わずふきだしそうになる。


 普通なら気にしないところを気にする、そこが島内さんらしさなのだと知り、相手を大切にする人なのだろうって思った。



『睦美ちゃんでいいよ』

『私も美生って呼ぶから』


『了解』


 メッセージの後に、可愛い犬キャラのスタンプが来たので、こっちも可愛い猫のキャラのスタンプを返す。


 それだけのやり取りなのに、楽しかった。




 美生とのLINEがひと段落して予習を始めるが、ふと浅村のことを考えてしまう。


 浅村と再会してから、私を取り巻く環境がいい方向に変わっている気がする。


 学校へ行くのも。

 実行委員も。

 誰かと話すことも。


 まるで色のなかった景色に少しずつ色が塗られていくみたいだった。


 そんなことを考えていると、胸が暖かくなる。


(何を考えているんだ私、今は勉強に集中)


 慌てて首を振り、視線を元に戻して勉強しようする。


 だが、その瞬間。


 机に置いてある鏡に自分の顔が写る。


 そこに写っていたのは今までで、一度も見たことない私の表情。


 頬が緩んでいて、嬉しさを必死に堪えているように見えた。


 再び首を振り、教材に視線を落とし予習をしようするが、最後まで頭に入らなかった。

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