10-15 幼馴染との恋バナと本当の思い
祖父母の家で過ごしたお盆を終えて、迎えた次の週の月曜日。
駿は夏休みの宿題に取り組んでいた。
◆◆◆
今日は美生が泊まりに来る日。
なので、宿題で分からないところを教えてもらおうと思い、解ける範囲の宿題を解いていた。
そして、迎えた夕方。
インターホンが鳴り、玄関に結と一緒に向かい開けると、美生の姿があった。
「駿君に結ちゃん、今日はよろしくお願いします」
どこか遠慮がちな笑顔。
泊まりに来ること自体、美生も多少は気を遣っているのかもしれない。
「そこまで改まらなくてもいいのに」
「そうです。美生姉さんが泊まりに来てくれて、むしろ大歓迎です」
「二人とも、ありがとう」
そう言うと、美生は少し安心したように笑った。
家に入るなり、早速宿題の分からないところを美生に聞くことにする。
「美生、ちょっ――」
「美生姉さん、宿題で分からないところがあるので、教えてもらってもいいですか?」
結が割り込むかのように、美生に話しかけてくる。
「いいよ」
「ありがとうございます」
即決だった。
いつも教えてもらっているのだから、別に今日くらい譲ってもいいだろうと思ったが、反論出来ず、二人はそのまま結の部屋へと向かった。
(まぁ、夕飯の後でもいいか)
そして、部屋に戻り、分からないところ以外の宿題を終わらせた。
夕飯を食べ終わった後。
改めて美生に声をかける。
「宿題の分からないところを教えて欲しいんだけど、大丈夫そう?」
「いいけど、結ちゃんとお風呂に入った後でもいい?」
「うん、風呂上がってからでも、大丈夫だよ」
「ごめんね、駿君。また後で」
美生はそのまま浴室へと向かっていく。
仕方がないので、部屋に戻り、のんびりと過ごすことにした。
しばらくして。
控えめなノック音が自室に響く。
扉を開けると、パジャマ姿の美生が立っていた。
「お待たせ、駿君」
「来てくれてありがとう、中に入って」
部屋に招き入れ、勉強会が始まった。
美生の説明は分かりやすいし、難しかった問題も、不思議なくらい頭に入ってくる。
だけど。
今日に限っては少し違った。
風呂上がりのせいだからだろうか、美生が動くたび、柔らかな香りがふわりと漂い、いつものように、説明が頭の中に入ってこない。
(せっかく、美生から教えてもらっているんだから、集中しないと。集中集中)
心の中に何度も言い聞かせながら、なんとか宿題を終えた。
「教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
美生は小さく笑った後、ふと思い出したように言う。
「話変わるんだけど、果奈ちゃんとは最近どうなの?」
「仲良くやってるよ。今度、二人でプールに行こうと思ってる」
「いいね。私も今週末、鈴木君と海デート」
「いいじゃん。そっちも直己と仲睦まじそうで何よりだよ」
幼馴染である美生と互いの恋人のことを話し合う。
いつかはそんな時が来るとは思っていたが、実際にやってみると、凄く新鮮に感じた。
しかし。
次の瞬間、美生の表情が少し曇る。
「でも鈴木君、私が駿君の家に泊まることをあまり良く思ってないのかな」
声の調子も少し落ちる。
「因みに、直己にはこのことを伝えた?」
「うん。鈴木君は全然気にしていないって言っていたけど、ちょっと心配でね」
少し考え、この前の直己とのやりとりを思い出す。
「実は、俺も直己に言ったんだ」
「えっ?」
「そしたら直己、俺が親でも同じことするって言ってた。だから心配しなくても大丈夫だと思うよ」
そう伝えると、美生はほっとしたように息を吐いた。
「そうなんだ」
肩から力が抜けたようだった。
「逆に、果奈ちゃんは大丈夫なの?」
「理解はしてくれたみたいだった」
「本当に?」
美生の眉が僅かに寄る。
「う、うん……」
返事が曖昧になってしまう。
「果奈ちゃん、気を遣って表に出してないだけで、そういうの溜め込むタイプだと思うの」
優しい言葉だったし、責めているわけでもない。
だけど、言葉に重みがあった。
「もしも、次に電話したり会ったりした時、いつもと違うなって思ったら、ちゃんと気づいてあげて」
「分かった……」
「私と果奈ちゃんが出会って、二年も経ってないけど、果奈ちゃんとの関係は深いから」
美生の果奈に対する想いの強さに驚かされた。
「それは俺も同じ。次に果奈と接する時、気をつけるよ」
「頑張ってね、駿君」
しばらく話した後、美生は部屋を後にした。
一人になり、自室に静寂が戻るが、美生の言葉が頭の中に残り続けていた。
電話ではいつも通りだった。
だけど。
あれは本心だったのだろうか。
考え始めると答えが出ないので、窓から夜空を見る。
数日前。
祖父母の家で見た夜空は、あれほど綺麗だったのに。
今夜の空には星が一つも見えず、厚い雲が空一面を覆っている。
まるで、誰かの本音を隠しているみたいだった。




