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10-13 友の人としての強さと夏のひととき

 次の日。


駿は結と共に、お父さんが運転する車に揺られていた


◆◆◆


 目的は山の方にある祖父母の家で、景色が徐々に緑が中心になっていく。


 田んぼ。

 山々。

 夏空の下で揺れる木々。


 見ているだけでも癒されたような気分になる。



 窓の外を眺めていると、お父さんが前を向いたまま口を開く。


「美生ちゃんが泊まる件なんだけど、今月は来週の月曜日泊まることになった」


「来週の月曜日!分かりました」


 結の声が弾み、嬉しそうにしているのが伝わってくる。


「分かった」


 とりあえず、それだけ言ったが、正直なんて返せばいいのか分からなかった。


 同時に、曖昧な気持ちが胸の奥に残る。



 そんななか、スマホを取り出し、直己とのトーク画面を開く。


『後で話せる?』


 すぐに既読が付き、了解というスタンプが送られてきていた。


『ありがとう』


 それだけを送って、スマホの画面を閉じた。


(直己のことだから分かってくれると思うけど、なんか複雑だな~)


 窓の外へ視線を戻す。


 さっきまで綺麗だと思っていた景色が、少しだけ遠く感じた。




 祖父母の家に到着すると、二人が笑顔で迎えてくれた。


「駿に結、来てくれてありがとう。孫の元気な顔を見れておじいちゃん、嬉しいよ」


「暑いから、早くお上がり。冷蔵庫にアイスいっぱいあるから、たんとお食べ」


 二人らしい歓迎に、思わず笑みが零れる。



 家は昔ながらの古民家。


 大きな庭。

 縁側。

 木の匂い。


 ここへ来ると、時間の流れが少しゆっくりになる気がする。



「おじいちゃん、おばあちゃん、久しぶり。元気にしてた?」


「元気にしてたよ。前に会った時から一回も風邪引いてないからの」


「そんなこと言って……この前、ぎっくり腰で病院に行ってたじゃないか」


「今はもう大丈夫」


 自慢げに話すおじいちゃんを見て、おばあちゃんが呆れる。


 そのやり取りを見ていると、自然と安心する。


 二人とも元気そうで、それだけで十分だった。




 仏壇に手を合わせた後。


 直己へ電話を掛けた。



「どうしたんだ、駿?」


 開口一番。


「そんなに俺と話しかったのか?」


 いつもノリで話しかけてきてくれたので、心が少し軽くなる。


「実は美生の家庭事情で、来週の月曜日、美生が家に泊まりに来ることになった。更に言うと、今後同じような機会が増えると思う……」


 一通り話し終えると、少しだけ沈黙が流れた。


「なんだそんなことかよ」


 あっさりとした直己の返答に驚く。


「少し複雑なのは確かだけど、それぞれ家庭事情があるのだからしょうがないし、俺がもしも島内さんの親だったら、同じ判断をする」


 そして。


「だから、気にすんな!」


 その一言が胸に響いた。



 直己なら分かってくれると思っていたところもあったけど、不安もあった。


 もし嫌な顔をされたらどうしよう。


 そんな考えも脳裏に浮かんだ。


 だからこそ。


 この言葉がありがたかったし、直己の強さを改めて知った気がした。



「ありがとう」


「だけど、島内さんに手を出したら、いくら親友でも許さないからな」


「するわけないだろ」


「絶対にだぞ!」



 そこからは夏休みのことなど、他愛のない会話が続いた。


 その時間が凄く心地よかった。


 


 電話を終え、スッキリした勢いで、縁側に面した部屋に移動し、寝っ転がる。


 これが、祖父母の家に来た時の過ごし方。


 部屋にエアコンは無いが、庭を抜けてくる風と静かに響く風鈴の音が気持ちよく、暑さを感じさせない。



「兄さんここに来ると、毎回この部屋で、ごろごろしてるよね」


 見上げると、結がアイスを咥えて立っていた。


「いいんじゃん。逆に、結はここに来たら、何してるんだよ?」


「ちょっと、散歩したりとか」


「こんな暑い日に、よく散歩出来るな」


「兄さんとは違いますから」


 微笑みながら話した後。


 アイスを食べ終えた結はなぜか隣に寝っ転がる。


「なんで!?」


「毎年、兄さんがここで寝転がっているから、そんなに気持ちいいのか気になって」


「まぁ、うるさくしなきゃ、別にいいけど」


「は~い」


 こうして、二人で寝そべることになった。


 結が近くにいるのは分かるが、静かなひとときが流れる。


 そのなかで、風鈴の音だけが響き、遠くで蝉が鳴く。


 気づけば意識はゆっくり沈んでいった。




 目を覚ますと、西日が庭を照らしていた。


 どれくらい寝ていたのだろうと思いながら体を起こし、隣を見てみる。


「すぅ……すぅ……」


 結は眠っていた。


 気持ち良さそうな寝顔をしていて、思わず笑ってしまう。


「俺より満喫してるじゃん」


 結にタオルケットを掛ける。


 その時、少し身じろぎしたが、まだ起きなかった。




 結局。


 結は夕飯の直前まで寝ていた。


 この時間になると、ひぐらしの鳴き声が消え、鈴虫の音が聞こえ始めている。


 今日はなぜか、心により強く響いた気がした。

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