10-12 母との時間と懐かしい思い出
三日後。
駿は結とお父さんと共に、お墓参りに向かっていた。
◆◆◆
空はよく晴れており、強すぎない日差しと、時折吹く風が心地いい。
けれど、お墓参りの日はいつも少しだけ気持ちが引き締まる。
母に会いに行くわけではない。
もう会うことは出来ない。
それでも、この日だけは母との距離が少し近くなる気がしていた。
浅村家の墓の前に辿り着こうとすると、知っている二つの人影の姿を目にする。
「来てくれてありがとう、美生。おじさんも忙しいなか、足を運んできてくれてありがとうございます」
「私も駿君のお母さんの世話になっていたから、当然のこと」
美生は優しく微笑みながら話した。
「久しぶりだね、駿君。この前会った時よりも、逞しくなった気がするよ」
「そんなことないですよ」
「俺の子供なんだから、当たり前だろ」
お父さんが後ろから割って入る。
「そうかもな。確かに、子供の時の健介に似てる気がする。結ちゃんは、お母さんによく似ているよ」
その言葉に結の表情が少しだけ和らぐ。
「本当ですか。お母さんとの記憶があまり無いので、そう言ってくれると嬉しいです」
両家のたわいのない会話がしばらく続いた。
そのなかで、お父さんとおじさんのやりとりに目が行く。
まるで、俺が直己や隆二と話してる時みたいで、大人になっても、二人の関係を大事にしたいと感じさせられた。
墓を掃除した後。
花を手向け、五人で墓に手を合わせる。
同時に、目を瞑り記憶の奥にあるお母さんの姿を思い浮かべ、心の中で近況を伝え始める。
(お母さん、最近、彼女が出来たよ。いろんなことがあったけど、上手くやれてる)
他にも伝えたいことはあった。
学校のこと。
友達のこと。
最近の出来事。
でも、これ以上伝えると、時間がいくらあっても足りないので、毎回しているお願いだけ伝えることにする。
(俺やその周りの人達が何事もなく、健康でいられるように、見守ってください)
お母さんを幼い時に亡くしたからこそ、そういう思いが強くなったと思う。
みんなが健康でいての今の幸せ。
その思いだけは大切にしたかった。
手を合わせるのを終える。
横を振り向くと、美生はまだ目を閉じており、手を合わせ続けていた。
何を伝えているのかは分からない。
でも、なんとなく予想はついていた。
美生にとっても母さんは大切な人だった。
だからきっと、俺と同じように近況を伝えているのだろう。
美生が手を合わせ終えると、島内家の墓へと向かう。
墓の蝋燭には火が灯されていて、手向けられていた花束が瑞々しく、大切にされていることが伝わってくる。
手を合わせ終えると、美生が話しかけてくる。
「三人とも、ありがとうございます。きっと、天国にいるお母さんも喜んでくれてると思います」
「美生がそう言ってくれると、嬉しいよ」
「私も嬉しいです」
俺と結の言葉に美生は笑顔で返す。
墓参りを終えた後。
お父さんがおじさんと話し合いをすることになり、美生と結の三人で家に向かった。
しばらく歩いていると、一つの公園が目に入った。
「ここの公園、懐かしい」
「駿君、この公園で何かあったの?」
「幼い頃、ここの公園でよく女の子と遊んでたんだけど、名前を聞く前に、その子が引っ越して、そこから音信不通になったけど」
「そうなんだ。また、その子と会えるといいね」
「絶対に無理です。この世界は広いんですから」
「分からないよ結ちゃん、案外近くにいたりするかもしれないよ」
「そんな都合のいいことあります?」
「とにかく、もしも次に会ったら、名前は聞かないとな」
そんな話をしながら、再び家へと足を進めた。
女の子の名前は分からない。
どこに住んでいるのかも知らない。
今どうしているのかも分からない。
覚えていることなんて、ほんの少しだった。
それでも。
今でも鮮明に思い出せるものがあった。
それは、太陽に負けないくらい眩しくて、見ているこっちまで元気づけられる、そんな笑顔だった。




