10-11 本当の姉妹のように
おやつのケーキを食べ終えた後。
駿は果奈と結と共に、近くの公園に向かった。
◆◆◆
結がどうしても、果奈とバドミントンをしたいと言うので、仕方なくこうなった。
嫌ではない。
ただ――。
せっかく恋人が家に来ているのだから、もう少し二人きりの時間が欲しかったという気持ちも少しだけあった。
公園に到着する。
美生と話し合う公園とは別の場所だ。
家の近くには大小関係なく、公園が多々あり、幼い頃は日によって、遊ぶ公園を変えていた。
懐かしい場所だった。
それぞれラケット構える。
バドミントンとテニスは部分的に似ているところもあるが、二人ともバドミントン部員。
正直、ついていける気はしなかった。
「いくよ」
果奈が始めに、俺の方にシャトルを放つ。
大きな放物線を描いてやってきたので、余裕で打ち返し、結の方に繋げた。
「果奈さん、行きますよ。それ」
果奈の元へとシャトルが戻る。
「おっと」
体勢を変えながら、打ち返し、再びシャトルがやってくる。
だが、一回目の時よりも早く勢いがあり、後ろに逸らしてしまう。
「ごめん、ちょっと強く打っちゃった」
「これじゃ、打てないよ」
「にしても結ちゃん、ちょっと強めに打ったでしょ」
「分かりました?果奈さんだったら、普通に返せると思いましたので」
その言葉に果奈の目が少しだけ輝く。
「へぇ」
どこか挑発に応じるような笑みだった。
バドミントン部同士、互いに火が付いたらしい。
その後も三人でのラリーは続く。
風に流されるシャトル。
響く打球音。
笑い声。
こうして公園で遊ぶことも少なくなった。
そのせいか、少しだけ童心に戻ったような気分になる。
「ちょっといい?」
「どうしたの、駿?」
「なんですか、兄さん?」
果奈と結が顔を見合わせる。
「二人で、バドミントンのラリーやってみてよ。部活動でやっている人同士のラリー見てみたい」
少し無茶振りだったかもしれない。
だけど。
「いいよ」
「はい、私も果奈さんとやってみたかったですし」
二人が位置につき、そして――。
「いくよ、結ちゃん」
――パンッ!
明らかに俺に向かって打ってた時と音が違った。
シャトルは放物線を描かず、真っ直ぐ結の方向に向かう。
――パンッ!
結はそれを余裕で打ち返す。
速さのあまり、思わず目で追う。
二人とも私服で動きにくく、公園という決して恵まれた環境ではないのに、打ち合いは淡々と続く。
まるで、部活で他の部員のラリーを見ているみたいだった。
でも。
それ以上に目を引かれたのは、楽しそうな二人の様子だった。
今日が初対面とは思えない。
笑いながらラケットを振る果奈。
そんな果奈に負けじと食らいつく結。
二人が本当の姉妹みたいで、見ているだけで心が温かくなり、自然と頬が緩んだ。
あっという間に時間が過ぎ、西日が公園をオレンジ色に染め始めている。
果奈と別れた後。
結と並んで帰り道を歩いていた。
「最初は驚いたけど、果奈さんと過ごせて楽しかった」
「結が楽しんでくれたのならよかった」
「でも」
結が少し俯く。
「兄さんと果奈さんとの時間を奪ってしまったのはごめんなさい」
「気にしなくていいよ。果奈も結と共に過ごせて楽しそうだったし」
即答だった。
「二人が仲良くしているところを見て、俺も嬉しかったからさ」
最初は果奈と二人っきりの時間がもっと欲しかったと思った。
だけど。
果奈と結が楽しそうな様子を見ていたら、そんな思いも無くなっていた。
「あの……兄さんと果奈さんがよかったら、また同じような機会を設けてくれると嬉しいです……」
結は遠慮がちに話した。
「いいよ。きっと、果奈も同じことを思ってるはずだから」
「はい!」
満面の笑み。
その笑顔を見ていると、兄として少し誇らしい気持ちになった。
その夜。
果奈と電話していると、自然と結の話題となった。
「結がまた遊びたいって」
「本当に!」
電話越しの声からでも果奈が喜んでいるのが伝わる。
「よかった」
心から安心したような声。
「今度また駿の家に行っていい?私も結ちゃんと遊びたい」
「うん、きっと結も喜ぶよ」
目的が結になってるのは少し複雑だったが、二人が本当の姉妹のような関係になってくれてよかったなと感じた。
「話変わるんだけど、8月の中旬から下旬にかけての週末って空いてる?」
「空いてるよ。駿はどこか行きたい場所でもあるの?」
場所を言おうとした瞬間、躊躇いが生まれる。
誘うと決めていたのに。
いざ言うとなると妙に緊張する。
でも。
どうしても、果奈と一緒に行きたい。
その思いの勢いのまま、話しだす。
「プールに一緒に行かない?」
一秒。
二秒。
沈黙。
「えっ!?」
――バタンッ!
スマホの画面から大きな音がした。
「大丈夫?」
「大丈夫……ただ、スマホ落としただけ……」
声だけでも、果奈が動揺しているのが分かる。
「嫌だったら、別に――」
「……行く」
始めは小さい声。
「絶対に行く!」
次に大きな声となった。
「じゃあ、行こう」
「うん……」
果奈は照れたように小さな声で言う。
「楽しみにしてるね」
プール予定が決まり、電話が終わる。
ベッドに寝転がり、果奈をプールに誘って成功した余韻に浸る。
楽しみに思う気持ちもあったのと同時に、あることが頭を占領し始める。
果奈はどんな水着を着てくるのだろう――
一回考え始めてしまうと、なかなか頭から離れない。
「何考えてるんだ俺」
そう呟いても無駄だった。
想像しかけて。
慌てて打ち消す。
また想像して。
再び打ち消す。
最終的に深夜まで、その葛藤と戦い続けることになり、なかなか寝付くことが出来なかった。




