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10-6 向日葵のように

 次の日。


 

 今日は部活が休み。


 駿は果奈と、とある場所へ向かう為、電車に揺られていた。


 

 窓の外を、夏の景色が流れていく。


 強い日差し。

 遠くに見える入道雲。

 揺れる緑。


 冷房の効いた車内との温度差が、妙に夏らしかった。


 

「昨日、急に誘ってごめん」


 向かいに座る果奈へそう言うと、果奈は小さく首を振る。


「気にしないで。私もたまたま今日、部活休みだったし」


 

 そこでふと、気になることがあり、果奈の髪へ視線が向く。


 誕生日にプレゼントしたヘアピン。


 ちゃんと付けてくれていた。


 

 その瞬間。


 安心したように頷いていた。


「……?」

「いきなり頷いてどうしたの?」


 果奈が不思議そうに見てくる。


「いや、なんでもない」


 慌てて誤魔化す。


 さすがに、

「ヘアピン付けてくれてて安心した」

なんて恥ずかしくて言えなかった。


 

 しばらくして、目的地の最寄り駅へ到着する。


 電車を降り、さらにバスへ乗り換える。


「私、この駅降りたことないけど、何かあるの?」


「それは目的地に着いてからのお楽しみ」


 そこから十分ほど揺られた後。


 二人は目的の公園へ到着する。


 

 入口を抜けた瞬間。


 視界が、一気に開けた。


 深い緑に覆われた山。

 静かに揺れる湖。


 そして――


 その湖畔を色付けるかのように咲く、一面の向日葵。

 

 鮮やかな黄色が、夏の景色を染め上げていた。


 出かける前、写真でどんな景色が広がっているのか調べてはいた。


 でも。


 目の前にすると、壮大さに圧巻される。


 

「凄い……綺麗」


 果奈が、目を輝かせながら呟く。


「駿は、私にこの景色見せたかったの?」


「うん」


 少しだけ緊張しながら聞く。


「……気に入ってくれた?」


「もちろん」


 果奈が満面の笑みを浮かべた。


「向日葵が咲いてる湖畔の近くに行ってみない?」


「そうしよう」


 気付けば、果奈の方が楽しんでいるように感じた。

 だけど、それが嬉しい。


 

 二人で並んで歩き出す。


 風が吹くたび、向日葵が一斉に揺れた。


 夏の音だけが、静かに広がっていく。


 

 湖畔へ近づくにつれ、向日葵の大きさがより際立って見える。


「向日葵ってこんなに大きかったんだね。私の身長以上ありそう」


「なんなら、俺の身長以上あると思う」


「そんなに?」


 果奈が驚いたように笑う。


 

 そのまま、向日葵畑の中へ入っていく。


 一面に広がる黄色。


 まるで、夏そのものの中を歩いているみたいだった。


「……凄い」


 果奈が、嬉しそうに辺りを見回す。


「向日葵に包まれてるみたい」


 無邪気に歩くその姿を見ているだけで、胸が温かくなる。


 

 すると。


「そういえば」


 果奈が向日葵を見上げながら言った。


「向日葵って、太陽の方を向いて咲いてるって言われてるけど、本当なのかな?」


 周囲を見渡す。

 

「向いてる方向はほとんど同じだけど、太陽の方向は向いていないみたい」


「……ほんとだ。私たちみたいだね」


 果奈は笑顔で答えるが、その意味が分からなかった。


「どういうこと?」


「やってる競技は違うけど、同じように高みに向かっているし、それに――」


 少しだけ照れたように、続ける。


「私と駿、互いに対する想いも同じでしょ」



 胸の奥が熱くなる。


 向日葵。

 同じ方向。

 同じ想い。

 

 果奈に言われて初めて、それが綺麗に繋がった気がした。


「果奈の言う通り、俺たちって、向日葵みたいだね」


「うん」


 果奈の言葉のせいか、さっきよりも向日葵が更に立派で鮮やかに見えたような気がした。


 

 その後。


 向日葵畑を抜けた先で、撮影スポットを見つける。


「駿、一つお願いしてもいい?」


「いいよ」


「私と向日葵、一緒に撮ってほしい」


「写真撮るのあまり得意じゃないから、上手く撮れないかもしれないけど、それでもいいの?」


「うん」


 

 果奈が撮影ポイントへ立つ。



 向日葵に囲まれた果奈。


 夏の日差し。

 風に揺れる髪。


 

 その景色が綺麗すぎて、一瞬見惚れた。


「駿?」


「あっ、ごめん」


 慌ててスマホを構える。


「いくよ。はい、チーズ」


 ――パシャッ。


 

 撮った写真を確認する。


 

 そこに映っていたのは。


 鮮やかな向日葵と眩しい果奈の笑顔で、目が離せなくなる。


「ちゃんと撮れてる?」


 いつの間にか、果奈が隣まで来ていた。


「う、うん。多分」


「見せて」


 

 二人で画面を見る。


「……うん、よく撮れてる」


「なら良かった」


 ほっと息を吐く。


 

 すると。


 果奈が少しだけ緊張した様子で口を開いた。


「そしたら、次は二人で撮ろう……」


「え?」


 

 思考が止まる。


 果奈とのツーショット写真は無かったし、欲しいなとも思っていた。

 だけど、急なこと過ぎて、心の準備が追いつかない。


「い、いいけど……どんなポーズすればいい?」


「普通にピースとかでいいと思う」


 

 そう言って、果奈は近くを歩いていたおじさんに写真を頼む。


「すみません、写真お願いしてもいいですか?」


「いいよ~」

 

 スマホを渡し、二人で並ぶ。


 

 近い。


 思った以上に距離が近い。



「行きますよ~はいチーズ」


 

 ――パシャッ。


 

「もう一枚いきますね~」

「少し笑顔硬いかも」


「っ……」


 図星だった。


「はいチーズ」

 


 ――パシャッ。


 

「はい、オッケー」


「「ありがとうございます」」


 

 スマホを受け取る。


 すると、おじさんが笑いながら言った。


「それにしても仲睦まじいカップルだね。おじさん、見ているだけで幸せになったよ」



 一瞬、空気が止まる。


「……っ」


 果奈が顔を赤くする。


 自分も、平静を装うので精一杯だった。


 でも。


 なんだか嫌じゃなかった。


 

 その後もしばらく公園を散策し、夕方頃、公園を後にする。


 

 バスへ乗り、駅へ戻る。


 そして再び、電車に揺られる。


 

 帰りの車内は、行きより少し静かだった。


 窓の外では、夕焼けが街をオレンジ色に染めている。

 

「今日は楽しかった」


 果奈が、小さく笑う。


「誘ってくれてありがとう」


「喜んでもらえて嬉しいよ。正直、果奈が喜んでくれるか分からなかったから、少し不安だったけど」


「私はね」


 果奈が、こちらを見る。


「駿と一緒なら、どこでも楽しいよ」


 その言葉に、胸が少し熱くなる。


「だから、また今日みたいに誘ってね」


「……うん」


 少し笑いながら答える。


「次はもっと果奈を喜ばせるように、頑張るから」


「そんな頑張らなくて良いのに、もう」


 

 そして。


 二人で、自然と笑い合った。


 

 その後。


 今日撮った写真を、一緒に見返す。


 果奈一人の写真。

 向日葵畑。

 湖畔。


 そして――ツーショット。



 果奈一人だけの写真とツーショット写真を比べて見ると、ツーショット写真の方が表情が緊張しているように見えた。


 でも。


 写真に映る果奈の笑顔を見た途端、果奈への想いに偽りはないと、改めて実感することが出来た気がした。


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