9-10 共感と2人の行末
家に帰った後、駿はすぐにスマホを手に取った。
迷わず、直己へLINEを送る。
『美生に告白したのか?』
送信してすぐ、既読がついた。
けれど、返信はなかなか来ない。
(……まだ、心の整理がついてないのか)
そう思った時、スマホが震えた。
直己からの着信だった。
「いきなり電話して悪い……」
やけにしおらしい声。
だが、次の瞬間。
「俺、やったぞ!!」
思わず耳を離しかけた。
その一言だけで、全部分かった。
「あぁ、よくやったよ。おめでとう」
「ありがとな。正直、駿が背中押してくれなかったら、たぶん何もできなかった」
「そんなことないって」
自然と笑う。
「直己は美生と向き合おうと必死だったけど、そのやり方を知らなかっただけ。俺はそこに手を差し伸べただけだよ」
「かっこいいこと言うじゃんかよ〜」
「うるさい」
少し照れくさくなる。
でも、本当に言いたいことは別にあった。
「大切なのは、ここから」
「……おう」
「直己の目の当たりしたと思うけど、付き合っていくうえで、必ずしも大きな壁に当たると思う」
果奈と音信不通になった、あの苦しい日々がよぎる。
「それを乗り越えてこそ、本当の関係になっていく。もし何かあったら、何でも相談しろよ」
「あの時、直己が力になってくれたみたいに、今度は俺が力になるから」
言い終えてから、少し恥ずかしくなった。
柄でもない。
電話の向こうで、少し間が空く。
「あぁ……」
短い声だった。
でも、直己が照れているのは分かった。
「それでさ、実際に会って話したいこともあるから、明日会わないか?」
「午前は部活あるから、午後なら大丈夫」
「じゃ、それで決まりな」
そのあと少しだけ他愛もない話をして、通話は終わった。
ベッドに入って目を閉じる。
さっきの直己の声が、頭に残っていた。
(……本当に成功したんだな)
嬉しさの滲んだ、あの声。
(頑張れよ、直己)
そう思いながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
翌日。
部活を終えた後、待ち合わせ場所へ向かう。
到着すると、既に直己の姿があった。
「ごめん、待たせたな」
「いや、誘ったの俺だし気にすんなって」
その何気ない返事すら、昨日までより明るく聞こえた。
「立ち話もなんだし、座って話せるところでも向かうか」
「だな」
二人で近くのファストフード店へ入る。
注文した商品を持って席につくと、直己が急に姿勢を正した。
「それでは今から――鈴木直己、告白成功祝賀会を開催します!」
ぱちぱち、と控えめな拍手。
「それがやりたくて、俺を誘ったのかよ?」
「ま、まぁな……」
ため息が漏れる。
「はぁ……直己、告白成功おめでとう」
ドリンクを無表情で掲げる。
「棒読みに聞こえたんだけど……とりあえず、ありがとう」
直己もドリンクをぶつけてきた。
小さく乾杯の音が鳴る。
「いや〜にしても、告白が上手くいくとは思わなかったな〜」
満更でもなさそうな顔。
その様子を見て、ふと気になった。
「そういえば、告白した時ってどんな感じだった?」
「……難しいな」
直己が少し視線を泳がせる。
「正直、緊張しすぎて、その時のことを曖昧にしか覚えてない」
「でも、告白して……島内さんが返事してくれた瞬間だけは、やたら鮮明なんだよ」
「今でも、ついさっきのことみたいに思い出せる」
その言葉を聞いた瞬間。
脳裏にも、あの日の景色が蘇る。
確かに、その前後は緊張もあったせいか、思い出そうとしても、なかなか思い出せない。
けれど。
夕焼けに染まる教室。
震えた自分の声。
果奈の表情。
返事を待つ、息の詰まる沈黙。
そして――あの瞬間。
あれだけは、今でも鮮明だった。
「……俺も同じ」
「え、駿も?」
「たぶんさ」
自然と口が開く。
「好きな人への告白が上手くいった瞬間って、人生で一番幸せな時間なんじゃないかと思う」
「昨日に続いて、またかっこいいこと言うじゃん」
「やめろよ、なんか恥ずかしくなってくるから」
二人で笑い合った。
ひとしきり笑ったあと、直己がふっと真顔になる。
「……でもさ」
「彼氏として、俺やっていけんのかなって不安なんだよ」
同時に声のトーンも下がった。
「島内さんは頭いいし、綺麗だし、ちゃんとしてるだろ」
「それに比べて俺、勉強もできねぇし、顔も普通だし……釣り合ってねぇ気がしてさ」
その気持ちは、よく分かる。
かつて、果奈を前に同じことを思ったことがあったからだ。
それに、直己の中身を知ってるからこそ、自然と言葉が出てくる。
「大丈夫、直己はそれ以上に優しいし、美生はスペックとかで決めつけるような人ではない」
「二人を知っている俺が言うんだから、安心しろ」
しばらく黙っていた直己が、やがて笑った。
「……ありがとな」
「ちょっと自信出たわ」
店を出た後、直己と別れる。
その背中は、少しだけ頼もしく見えた。
一人になって、帰り道を歩く。
直己と美生。
不安を抱えながらも、ちゃんと向き合おうとしている。
それが嬉しかった。
本当に、嬉しいはずだった。
なのに。
胸の奥に、小さな棘のような違和感だけが残っている。
答えは、まだ分からなかった。




