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9-7 思い出話

 次の日の放課後。


 駿は岸さんと向かい合い、修学旅行のしおり作りを進めていた。


 はさみの音と、紙をめくる音。


 静かな教室に、作業の気配だけが広がっている。


 

 その中で。


 岸さんの手だけが、迷いなく動いていた。


「大まかな構成はこれでいいと思う」


 紙を整えながら、そう言う。


「一先ず、休憩にしましょ」


「分かった。でも……ほとんど岸さんに任せきりで、申し訳ない」


「いいって。私はこういうの好きだし」


 さらっと言う。


「浅村は慣れてないんだから、しょうがない」


「至らないところは沢山あるけど、今後も宜しく」


「充分頼りになってるよ」


 岸さんは軽く笑ってから、ふと話題を変える。


「そういえば、席替えしたんだって?」


「うん。俺が教室のど真ん中で、前の席が直己」


「鈴木か……」


 

 一瞬で、顔が曇る。


 触れてはいけないところに触れたような感じがした。


「ほんと、鈴木には手を焼かされた」

「提出物は出さないし、掃除はサボるし」

「挙げ句の果てに“お騒がせ夫婦”とか言われて」

「……思い出すだけでイラつく」


 淡々としているのに、ちゃんと怒っているのが分かる。


「直己のことは1回忘れよう」


 急いで話題を探す。


「そっちのクラスは席替えないの?」


「絶対にしないね」

「担任が席替えはする必要はないって、言うくらいだし」


「そこまで言うんだ……」

「先生によって、そこら辺の価値観は変わってくるから、しょうがないんだろうけど」


「席替えをしないと、近い人とは仲を深められるけど、遠い人とはあまり関われないから、定期的にやった方が良いと私は思う」

「でも、一年の時はやりすぎじゃなかった?」


「言われてみれば、十回以上やった気がする」


 話しながら、ふと思い出す。


「確か、どっかの席替えの時に岸さんと隣になったよね」


 

 岸さんが、一瞬だけ動きを止めた。


 

「……覚えてるんだ」

「隣になったの序盤の方だったから、席替えを繰り返すうちに、私と隣になったこと忘れてると思った」


「覚えてるどころか」


 

 少しだけ笑う。



「寧ろ、一番記憶に残ってる」



 その時の席は隣に岸さん、後ろに直己が居て、二人が衝突するたびに板挟みだった。


 最初は少し面倒に感じたが、岸さんと話す機会が増えたり、二人で協力して直己に泡を吹かせたこともあり、気付けば大切な思い出の一つへと変わっていた。

 

「特に、先生に当てられた直己が俺を頼ってきた時、岸さんがあり得ない答えを代わりに見せて、それをそのまま回答して怒られていたのは面白かったな〜」


「私も覚えてる」

「あの時の鈴木の顔、思い出すだけでも笑っちゃう」


 気が付けば、作業そっちのけで話に夢中になってしまう。


 でも、一つ分かったのは自分と同じくらい岸さんも席が隣になった時のことを大切に思っている。

 

 それはしっかり伝わった。


 そのせいか、胸の奥が少しくすぐったい。

——同じ記憶を大事にしていたことが、嬉しかった。


「休憩も十分取ったし、作業を進めましょ」


「そうだね」



 作業に戻る。


 

 順調に進む。



 だけど、岸さんの雰囲気がさっきと変わったような感じがする。



 なんでだろう。


 心なしか、果奈に告白しようとしていた時の自分に似ている気がした。

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