9-4 好きな人との時間と友との時間
次の日。
駿は直己に呼び出され、待ち合わせ場所へ向かっていた。
昨日の夜、急に誘われた。
直己が誘ってくる時は、大抵決まっている。
うまくいかなかったか。
それとも――
その逆か。
待ち合わせ場所に着くと、直己はすでに来ていた。
「いつも俺と遊ぶ時、遅れてくるのに、今回は珍しいじゃん」
「そうだったっけ?」
「そうだったっけ?じゃないよ」
「最近なんて寝坊して1時間遅れた事もあっただろ。待ってる間に、何回帰ろうと思ったことか」
「あの時はごめんって。映画代奢るから、その件はチャラで」
軽口を叩き合う。
そんななか、直己の言葉に一つの疑問が生まれる。
「昨日って、美生と映画観に行ったんじゃないの?」
「そうなんだけど、それとは別に観たい作品があってさ」
「昨日、一緒に観れば良かったじゃん」
「デートにSFアクション系は流石に無いだろ」
「だから、流行りの青春恋愛系の映画を観た」
「珍しいな、直己ってそういうジャンル苦手じゃなかったっけ?」
「確かに苦手だった」
「でも、島内さんと観終わった後、作品について語り合えて楽しかったし、恋愛系も良いなって思った」
果奈と一緒に居て知ってはいたが、好きな人が齎す変化に改めて気付かされる。
「分かった。じゃあ、それ観に行くか」
「サンキューな」
映画館へ向かう。
直己が観たがっていた作品は、劇中に過激なシーンがいくつもあり、見応えはあるが、デートには勧められない作品だった。
映画が終わり、近くのファストフード店に入る。
ポテトとバーガーを並べて、席につく。
「やっぱこれだな」
直己が笑う。
「昨日は行かなかったんだ」
「カフェに行った。そこで飲んだ限定ドリンクも美味しかったんだよな〜」
「でも、こっちの方が口に合う」
「確かに、直己はそんな感じがする」
「どうして?」
「なんとなく」
「なんだよそれ」
「昨日はカフェだったけど、こっちの方が落ち着くわ」
「まぁ、直己らしいな」
二人で笑い合う。
「島内さんといるひとときも良かったけど、駿とくだらない会話で盛り上がるひとときも良いなって、昨日と今日で実感出来た気がする」
「俺もそうかも。果奈と居る時間は幸せだし、支えにもなってる」
「でも、気を遣うところはあった。それもあって、直己と居る時間が最近やけに楽しく感じるのだと思う」
「まぁ、男同士で語り合いたい時があったら、いつでも誘ってくれ」
「そのつもり。もしも、直己が美生と付き合い始めたら、俺も直己の話し相手になるからさ」
少しの沈黙。
直己が口を開く。
「駿」
さっきまでと違う声だった。
「実は、夏休みに入る前までに、島内さんに告白しようと思っているんだ」
はっきりと言い切った。
言葉が、すぐには出なかった。
一瞬だけ、時間が止まった気がした。
「反応ないけど、どうしたんだ駿?」
「急にそんな事言うから、少し戸惑っただけ」
「でも、もう少し様子見てからで良いんじゃない?」
「それは思った。けど、俺の勘が今が良いって言ってる気がするんだ」
「だから、見守ってくれるとありがたい」
「それは直己自身の事だし、俺には否定する権利は無いよ。応援してるからな」
そう言ったはずなのに、言葉が少しだけ重かった。
「ありがとう。失敗したら、その時は慰めてくれよ」
「もちろん、当たって砕けろ」
「砕けてる時点で失敗してるじゃんか」
そうは言ったが、胸が不思議と騒めく。
直己が美生に告白するところまで至り、友としてすごく嬉しい。
だけど、当の本人と同じくらい、美生がどんな返事をするのか気になってしまう。
無意識に、ポテトに伸ばした手が止まっていた。




