9-2 再会と2つの誘い
二日後の放課後。
駿は部室ではなく、多目的教室へ向かっていた。
修学旅行実行委員の集まり。
まだ実感は薄いが、自分がそこに関わっていることだけは確かだった。
教室に入ると、すでに何人かが集まっていた。
進行役の教師の説明が始まり、係分担を決めるくじが配られる。
何になっても同じか、と軽く考えながら紙を開く。
「……しおり係」
小さく呟く。
(広報よりはまだ良かったけど、書いたしおりがみんなに気に入ってもらえるか不安……)
そう思いながら、指定された場所へ向かう。
そこにいたのは、一人の女子生徒だった。
長い黒髪が、窓から入る風に揺れている。
こちらに気づいた瞬間、目が合った。
「……浅村?」
「岸さん……?」
思わず声が重なる。
岸睦美
一年の時、席が隣だったクラスメイト。
話す機会はそれなりにあった。
むしろ、女子の中では一番気軽に話していたかもしれない。
更には学級委員も務めており、何にでも率先してやるイメージが強かった。
「まさか浅村が実行委員とはね」
「いや、まぁ……流れで」
「ふふ、私も同じ」
軽く肩をすくめる。
「今年は学級委員やってないから、その代わりかな」
「そうなんだ。岸さんのことだから、今年も学級委員を務めてるのかと思ったよ」
「まぁ、色々な事情があってね……」
その時――
一瞬だけ、岸さんの表情が揺れた。
ほんの一瞬。
何かを飲み込むような間。
「それより」
すぐにいつもの調子に戻る。
「しおり係、私と浅村だけなんだし、早めに決めちゃお」
「了解」
作業分担はあっさり決まった。
そのまま話し合いを進め、気づけばテーマまで決まっていた。
時間が経つのが早い。
懐かしい感覚だった。
帰り支度をしていると、岸さんが声をかけてきた。
「浅村、一緒に帰らない?」
一瞬、迷う。
でもすぐに答える。
「ごめん、待ち合わせしてる」
「……そうなんだ」
ほんのわずかに、声が落ちた気がした。
「その人って、部活の人?」
「うん」
反射的に答える。
言ってから、気づく。
――嘘だ。
手を振って別れる。
背中を向けたまま、少し歩く。
胸の奥に、違和感が残る。
(……なんで嘘ついたんだ、今)
理由は、はっきりしない。
ただ――
そのまま、考えるのをやめた。
——その夜。
直己はスマホとの睨めっこを繰り広げていた。
トーク画面には、島内さんとのLINE。
(自分から映画に誘ったのに、何も進展させないで日にちだけが過ぎていく。でも、何て送れば良いのか分からないし、どうすれば良いんだ……)
指が止まる。
打っては消し、また打っては消す。
結局、駿に送る。
『まだ決めてなかったのかよ』
すぐに返ってきた。
『早くしないと忘れられるぞ』
図星だった。
『でも何て送ればいいか分からないんだよ』
既読。
少し間が空く。
返信。
『大丈夫』
『誘うのは成功したのだから後一歩』
『直己なら行ける』
そのあとに送られてきたスタンプを見て、少し笑う。
『分かった』
『やってみるよ』
『励ましてくれてありがとう』
駿に返信し、島内さんのトーク画面へと戻る。
「……やるか」
深呼吸して、通話ボタンを押す。
「もしもし、鈴木君?」
「夜遅い時間にごめんなさい」
声が少し硬い。
「この前、映画に誘ったの覚えている?」
「覚えているよ」
言葉を選ぶ。
「今週の土曜日でもいいですか」
緊張しているせいか、変なところで敬語になってしまう。
一拍。
「いいよ。午後からでも大丈夫?」
「勿論。是非、お願いします!」
思わず声が大きくなる。
「そんなに改まらなくて良いのに。でも、こちらこそ宜しくね。鈴木君」
少し話をして、電話を終える。
電話を切った瞬間、抑えていた感情が一気に弾けた。
「っしゃあ!」
「うるさいよ、直己!」
想像以上に声が出ていたみたいで、お母さんから注意を受ける。
でも、今は申し訳なさより嬉しさが勝っており、声を抑えめに出しながら、ガッツポーズをした。
再びスマホを握り直す。
もう迷いはなかった。




