8-5 かけがえのない友と私
二日後の放課後。
美生は、駿君に頼まれて鈴木君と買い物に来ていた。
部活動も落ち着いたはずなのに、なぜ自分ではなく鈴木君に頼んだのか。疑問には思ったが、きっとそれなりの事情があるのだろう。
深くは聞かないことにした。
買い物を終え、二人で駿君の家へ向かう。
「今日も買い物を手伝ってくれて、ありがとう」
「こんなことくらい、お茶の子さいさいだよ。もし他にも手伝ってほしいことがあったら、何でもやる」
「その時が来たら、お願いするね」
「う、うん」
鈴木君は少し照れたように頷いた。
初めて一緒に買い物へ行った時に比べると、だいぶ柔らかい雰囲気になった気がする。
けれど、ときどき以前みたいにぎこちなくなる瞬間もある。
それが少し不思議だった。
「そういえば鈴木君、テストどうだったの?」
「島内さんの教えもあって、赤点は回避できた。ほんと、ありがとう」
「どういたしまして。でも、次はもっと上を目指そうね」
「う……うん、頑張る……」
急に声の勢いが弱くなる。
「大丈夫。次のテストも、ちゃんと教えてあげるから」
「その時はご指導のほど、よろしくお願いします」
「そんなに改まらなくてもいいよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そんなやりとりをしているうちに、駿君の家へと着いた。
やがて駿君も帰ってきて、夕食の時間になる。
テーブルを囲みながら、結ちゃんと話していると、鈴木君が駿君に声をかけた。
「駿、テストどうだった?」
「いつも通りだよ。っていうか、俺より自分の方を心配しろ」
「今のところ赤点はないぜ」
「ガチで!?」
駿君が大げさに驚く。
「そんなに驚くなよ」
「だって、毎回当たり前みたいに赤点取ってた直己が、今回は回避してるんだぞ?」
「おい、その言い方」
二人の軽口の応酬に、思わず笑ってしまう。
男友達同士だからこそできる会話なのだろう。
けれど、そのやり取りを見ていると、ふと違和感が浮かんだ。
鈴木君の態度が、自分と話す時とまるで違う。
「美生姉さん?」
結ちゃんが首をかしげる。
「ぼーっとしてましたけど、どうかしました?」
「えっ? ううん、なんでもないよ」
慌てて首を振る。
夕食を終えた後、鈴木君と一緒に駿君の家を後にした。
帰り道。
話題は自然と駿君のことになった。
「改めて思ったんだけど、鈴木君って本当に駿君と仲がいいんだね」
「まあな」
鈴木君は少し照れくさそうに笑う。
「中学の頃からの付き合いなんだ。長いってわけじゃないけど、俺がピンチのとき助けてくれたり、逆に駿がピンチのとき助けたり……」
鈴木君が少し空を見上げる。
「いい思い出もあるし、後悔する思い出もある。だから、駿は共に過ごした時間以上に、大切な存在なんだ」
その言葉を聞いて、小さく頷いた。
鈴木君にとって、駿君はただの友達じゃない。
特別な存在なのだ。
「きっと駿君も、同じこと思ってるよ」
「そうかな」
「うん、きっと」
そして、次の言葉はほとんど反射だった。
「駿君のことを話してる鈴木君、かっこよかったよ」
鈴木君は一瞬、顔を背けた。
耳がほんのり赤くなっている。
「……ありがとう」
少し間を置いてから、何事もなかったかのように話し出す。
「そういえばさ、中学のときの駿なんだけど――」
そこから、昔の話がぽつぽつと続いた。
やがて、別れ道に着く。
「じゃあ、また」
「うん、またね」
手を振る鈴木君の笑顔は、どこかぎこちない。
その理由を、まだ知らなかった。




